ドイツ連邦環境庁による環境サーベイ


2001716

CSN#195

ドイツ連邦環境庁(Umweltbundesamt)は、ドイツ全土にわたる人口スケールの大きな環境調査である、ドイツ環境サーベイ(The German Environmental Survey: GerES)1985年から数回にわたって行っています。この調査の目的は、ドイツ国民が環境中の汚染物に対してどれほど曝露しているかを調査するためのものです。そして調査は、アンケート用紙の配布、直接インタビュー、人の生物学的モニタリング、室内外における汚染物のサンプリングなどの方法で行われています。また、環境調査はドイツ連邦環境庁が担当し、健康調査はロベルト・コッホ研究所(Robert Koch-Institute)が担当しています。

最初の調査(GerES I)は、198586年に行われ、現在第4回目の調査が計画されています。表1に、その概要を示します。

1 ドイツ環境サーベイの概要[1]をもとに作成)

調査名称

GerES I

GerES IIa

GerES IIb

GerES III

GerES IV

調査年

198586

199091

199192

1998

20012月に予備試験開始

国家

西ドイツ

西ドイツ

東ドイツ

ドイツ

ドイツ

調査地点

100カ所

100カ所

50カ所

120カ所

調査人数と年齢層

2,731
(25-69)

2,524
(25-69)
453
(6-14)

1,763
(18-79)
359
(6-17)

4,822
(18-69)

4,000人以上
(0-17)

人の組織

血液

重金属(カドミウム、銅、鉛、水銀)

重金属、有機塩素系農薬、PCBs

重金属、有機塩素系農薬,PCBs

尿
(朝一番)

重金属、クレアチニン、PCP、コチニン等

重金属、クレアチニン、PCP、コチニン、多環芳香族炭化水素(PAH)

重金属、ニコチン、コチニン、白金、有機塩素系農薬、PAH代謝物等

重金属、クレアチニン、PCP、ニコチン、コチニン、白金、ピレステロイド代謝物、多環芳香族炭化水素(PAH)

頭毛

アルミニウム、重金属、ミネラル等

アルミニウム、重金属、ミネラル、白金、ニコチン、コチニン、ウラン、バナジウム、セシウム等

家庭環境

水道水(朝一番)

重金属、ミネラル、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等

重金属、ミネラル等

重金属、ミネラル等

重金属、ミネラル等

ほこりの堆積物

アルミニウム、重金属、ミネラル等

重金属、白金等

電気掃除機の収集パック

アルミニウム、重金属、ミネラル、有機塩素系農薬等

重金属、ミネラル、有機塩素系農薬(PCP、リンダン)、ピレステロイド、ハウスダスト、PBO

重金属、ピレステロイド、有機塩素系農薬、PCBs、クロルピリホス、難燃剤、可塑剤等

重金属、ピレステロイド、有機塩素系農薬、PCBs、クロルピリホス、難燃剤、可塑剤、ペットアレルゲン等

室内空気(パッシブサンプラー)

ホルムアルデヒド、揮発性有機化合物(VOCs)

ホルムアルデヒド、揮発性有機化合物(VOCs)、(ハウスダスト、カビ胞子、ペットアレルゲンを捕集)等

コミュニティ

上水道

重金属、ミネラル、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等

アルミニウム、重金属、ミネラル、コバルト、リチウム、ラジウム、銀、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、芳香族炭化水素、有機塩素系炭化水素、農薬等

降下煤塵

アルミニウム、重金属、ミネラル等

重金属、白金、パラジウム等

食事

アルミニウム、重金属、ミネラル、硝酸塩、亜硝酸塩

 

最新のGerES IVは、20012月に予備調査が開始されました。この調査は、子供と青少年を対象としており、0-5歳、6-14/17歳の子供たちに分類し、GerES IIaの調査をベースとした調査内容となっています。

参考までに、これらの環境サーベイの中から、ホルムアルデヒドと代表的な揮発性有機化合物(VOCs)の調査結果を以下に示します。

2 ホルムアルデヒドと揮発性有機化合物(VOCs)濃度[1]をもとに作成)

時期

物質名称

N

濃度(μg/m3)

パーセンタイル

最大値

単純平均

幾何平均

厚生労働省指針値[2]

10

50

90

95

98

1985/ 86

ホルムアルデヒド

329

15

55

94

106

138

309

58.6

49.4

100

1991/ 92

ホルムアルデヒド

502

< 70

70

131

161

217

816

79

100

トルエン

502

32

69

208

382

711

3193

130.2

73.9

260

エチルベンゼン

502

3

7

21

106

417

698

24.0

8.5

3,800

m,p-キシレン

502

7

16

55

283

617

1205

50.5

19.9

870

o-キシレン

502

2

5

17

67

147

291

13.6

6.5

スチレン

502

< 1

2

7

8

10

275

5.1

2.1

220

N数:サンプル数

 

日本の厚生労働省の指針値を超えている領域

表1から明らかなように、日本の厚生労働省の室内濃度指針値[2]と比較すると、GerES Iibではホルムアルデヒドが約5%GerES Iibではホルムアルデヒドが約10%強、トルエンが約5%強の割合で、指針値を越えていることがわかります。

 

また、参考までに、2000年度に室内空気対策研究会(学識経験者、関係省庁、関係団体の参加により20006月に発足。委員長:今泉勝吉工学院大学名誉教授)が日本国内で行った全国実態調査(4,482)によると、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼンの室内濃度に関して、表3の結果が得られました。

3 室内空気対策研究会による2000年度実態調査報告書の概要[3]をもとに作成)

濃度単位:ppm

物質名称

室内濃度指針値

平均値

中央値

超過率(%)

ホルムアルデヒド

0.08

0.071

0.060

27.3

トルエン

0.07

0.035

0.030

12.3

キシレン

0.20

0.005

< 0.01

0.13

エチルベンゼン

0.88

0.005

< 0.01

0.0

 

2と表3を比較すると明らかなように、1980年代中頃から1990年代初めのドイツでは、日本の厚生労働省の室内濃度指針値をベースとした場合、ホルムアルデヒドとトルエンの指針値超過率が、2000年度における日本の全国実態調査結果の約半分と推定されます。ドイツは日本ほど夏場の気温が高くないことも関係しますが、ドイツでは建材のラベリングなど、室内空気汚染に関連する対応が進んでおり、現在ではさらに指針値超過率が低下していると推定されます。

ドイツの環境サーベイにみられるように、人の生物学的モニタリングと家庭環境中の有害化学物質濃度に関して全国的な傾向を把握することは、問題点の明確化と対策の優先度を検討する上で、非常に重要です。日本の室内空気対策研究会の全国実態調査は2001年度も実行されますが、ほこりや塵などに含まれる粒子状物質など、その他の項目も含めた、さらに体系的な調査が必要と思われます。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1]German Environmental Survey (GerES)
http://www.umweltbundesamt.de/survey-e/index.htm

[2]厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室,「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書−第4回及び第5回のまとめ」December 15, 2000
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1212/h1222-1_13.html

[3]室内空気対策研究会 実態調査分科会,「実態調査平成12年度報告書」, May 29, 2001
http://www.iaq-research.com/


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