拡大生産者責任(EPR)ガイダンスマニュアル

−経済協力開発機構(OECD)


2001730

CSN#197

経済協力開発機構(OECD)加盟諸国では、1980年から1997年のまで間に、都市ごみの排出量が約40%増加しており、1997年には約540百万トンもの都市ごみが排出されました。経済が発展するにつれ、都市ごみの排出量は増加し続け、2020年までには年間770万トン(43%増加)になると試算されています。OECD加盟諸国において、1997年では、都市ごみの約64%が埋立処分され、18%が焼却、18%がリサイクルされました。今後、廃棄物管理政策によって埋立は減少し、リサイクルが増加すると予想されており、2020年までには、都市ごみの約50%が埋立処分され、17%が焼却、33%がリサイクルされると試算されています[1] 

日本では、この10年間における廃棄物の排出量はほぼ横ばいで推移していますが、廃棄物処分場の残存容量はひっ迫しており[2][3]、リサイクル関連法案の施行など、廃棄物削減に向けた取り組みが急がれています。

*1:「廃棄物の減量化の目標量」(平成11928日政府決定)における平成8年度の数値
*2:*1と同様の算出方法を使用
 

この数十年間、OECD加盟諸国は、廃棄物を削減する政策やプログラムを実施してきましたが、さらに廃棄物削減を進めるには、生産や消費パターンの改革が必要とされています[1]。そしてそのような中で、OECDが提唱している政策の1つが、拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility: EPR)です。そしてOECDは、20013月にEPRに関する各国政府向けのガイダンスマニュアルを発表しました[4]

OECDEPRに対して、「製品に対する、物理的及び、または財政的な生産者責任を製品のライフサイクルにおいて使用済み段階まで拡大すること」と定義しています。つまり、使用済み製品の処理または処分に対して、生産者が、物理的及び、または財政的に相当程度の責任を負うという政策アプローチです。このような責任を生産者に課すことによって、発生源における廃棄物発生抑制や、環境負荷の少ない製品設計を生産者が自ら行うよう進めていかねばなりません。そしてその結果、廃棄物発生抑制、生産段階におけるリサイクル促進、資源効率増大など、環境政策に対して大きく貢献するとされています。EPR政策の2つの重要な特徴を以下に示します。

(1)物理的および財政的で全面的または部分的な責任を地方自治体から上流部門の生産者へと移すこと。

(2)環境配慮型の製品設計を行うよう生産者に動機を与えること。

 

OECDは、1994年にEPRプログラムの第1段階(EPRに対する法制的及び行政的アプローチの確認)を開始し、1996年に報告書を発表しています。そして1996年に第2段階(種々のEPRアプローチによる経済効率と環境への有効性の確認)を開始し、ドイツの容器包装に関する2つの事例研究を行っています。そして1997年に第3段階が開始され、第2段階で明らかとなった問題点に関するワークショップが開催されています。20013月に発表されたEPRガイダンスマニュアルは、第3段階の最終報告書になります。

このガイダンスマニュアルの目的を次に示します[4]

拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility : EPR)の問題点および便益、ならびに有効なEPRプログラムの確立に必要な行動に関する情報を、各国政府に提供することを意図している。これはEPRプログラムを開始しようと思っている国に対して、特定の手順を規定するものではない。また、他の手法と比較してEPRの遂行を正当化するものでもない。これはEPR政策およびプログラムの立案に関する様々な問題点や枠組み条件を検討するものである。このガイダンスマニュアルは、政府によって最も有効と判断されるよう、基本原理の定着及び土台の提供を意図している。

EPRガイダンスマニュアルによると、これまでEPRプログラムが実施された事例は、ドイツのグリーン・ドット(Duales Systeme Deutchland)制度です[4]。この制度では、容器包装事業者(生産者・流通業者)に対して、その製品に係わる廃棄物を引き取らせる制度の確立及び管理を義務付け、その結果、容器包装の消費は1991年から1998年の間に、一人当たり94.7 kgから82 kgへ減少(13.4)したと報告されています。また、企業による自主的な取り組みも行われており、消費者が製品を買換える際に使用済み製品を引き取る仕組みを行っている企業があります。例えば、IBM社はオーストリア、フランス、イタリア、スイス、英国において、自主的な引き取りプログラムを開始しており、ゼロックス社もコピー機用のカートリッジ引き取りプログラムを世界規模で開始しています。さらにデル・コンピュータ社は、製品引き取りプログラムに着手し、リサイクルをより容易にするために特定のコンピュータ用ケースを設計しています。またナイキ社は、使用済みスポーツシューズの引き取りを開始し、回収した靴をリサイクルしてスポーツ場の表面材として使用しています。

EPRプログラムで対象とされる処理方法については、各国間の社会経済的や文化的な違いも重要とされています。例えば、紙のリサイクルがより効率的である国もあれば、材料税を課して発生源を減らすという選択をする国もあります。そのため、EPRガイダンスマニュアルでは、どのような場合にどのような代替処理を用いると政策手法がより有効であるかを確定しようとは試みなく、このような特殊な決定は、国家や準国家レベルで行う方が適切であると述べています。

次に、EPRプログラムの基本原則を以下に示します[4]

  1. EPR政策およびプログラムは、より環境に安全なものにするために、設計段階の上流部門に変化を組み込ませるという動機を生産者に提供するように設計すべきである。
  2. 生産者による実施にあたっては柔軟性をもたせ、結果を出すための手段ではなく、結果に焦点をあて、技術革新を奨励するような政策にすべきである。
  3. 政策ではライフサイクル手法を考慮して、環境影響の増加や製品連鎖内の別の場所への移転を防ぐべきである。
  4. 責任は明確に定義し、製品連鎖全体に亘る複数の行為者の存在によって、弱まらないようにすべきである。
  5. 政策決定では、製品・製品分類・廃棄物の流れに関する特徴や特性を考慮すべきである。製品の多様性や異なる特徴を考えると、一種類のプログラムまたは手法を、全ての製品・製品分類・廃棄物の流れに適用することはできない。
  6. 選択した政策手段は柔軟なものとし、全ての製品や廃棄物の流れに対して一つの政策を設定するのではなく、ケース・バイ・ケースで選択すべきである。
  7. 生産者責任を製品のライフサイクルへ拡大することは、製品連鎖全体に亘る行為者間のコミュニケーションを増大させる方法で行うべきである。
  8. コミュニケーション戦略は、消費者を含めた製品連鎖の全ての行為者にプログラムに関する情報を知らせ、彼らの支援と協力が得られるように考案すべきである。
  9.  プログラムの受容性と有効性を高めるために、目標・目的・費用・便益などを検討する利害関係者の相談会を実施すべきである。
  10. 地方政府は、その役割を明確にし、プログラム実施に関する助言を与えるための相談を受けるべきである。
  11. 環境に関する国家の優先事項・目標・目的をいかに最高に満たすかという点から、自主的ならびに義務的な取り組みを考慮すべきである。
  12. EPRプログラムの包括的な分析を行うべきである(例えば、EPRに適している製品・製品分類・廃棄物の流れはどれか、歴史的な製品を含めるべきか否か、製品連鎖における行為者の役割など。)
  13. EPRプログラムが適切に機能にし、評価に対して柔軟に反応できるように、EPRプログラムを定期的に評価すべきである。
  14. プログラムの立案・実施は、国内の経済的混乱を避け、環境的な便益が得られるような方法で行うべきである。
  15. EPR政策やプログラムの立案・実施過程は、「透明性」を確保しなければならない。

 

EPRは、製品の消費段階以降において発生する廃棄物問題などの環境圧力に対して取り組むための政策アプローチです。EPRプログラムの原則は、生産施設ではなく製品に注目した汚染防止政策を行うことであり、生産者は、材料選定、生産プロセス、製品設計、包装仕様、マーケティング戦略に関連した決定に対して再評価するよう促されます。今後、さまざまな製品の新製品開発や廃棄物処理に対して、EPRを広めることが期待されます。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] OECD Environment, “OECD Environmental Outlook”, ISBN: 92-64-18615-8, No. 51591, April 2001
http://www.oecd.org/env/

[2]環境省大臣官房廃棄物リサイクル対策部廃棄物対策課,「一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成10年度実績)について」, June 22, 2001
http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=2687

[3]環境省大臣官房廃棄物リサイクル対策部廃棄物対策課,「産業廃棄物の排出及び処理状況等(平成10年度実績)について」, June 22, 2001
http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=2689

[4] OECD Environment, “Extended Producer Responsibility: A Guidance Manual for Governments”, ISBN 92-64-18600-X-No. 51681, 2001
http://www.oecd.org//env/efficiency/eprworkprogr.htm


「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ