住宅からのクロルピリホス殺虫剤残留物の皮膚移動


1999年6月28日

CSN #071

住宅室内環境には、様々な化学物質が存在しています。例えば室内空気汚染は、化学物質過敏症やアレルギー疾患との関連性が示唆されており、最近大きな問題になっています。例えば室内空気汚染源となる有機化合物として、WHO(世界保健機関)は下表の分類を行っています。

 

WHOによる室内空気汚染源となる有機化合物の分類と林産物に使われる代表的な有機化合物

分類

沸点範囲

代表的物質名

超揮発性有機化合物(VVOC)
Very Volatile Organic Compounds

0℃以下

 〜50−100℃

ホルムアルデヒド

揮発性有機化合物(VOC)
Volatile Organic Compounds

50−100℃

 〜240−260℃

トルエンベンゼン
キシレン(混合物)
スチレン

半揮発性有機化合物(SVOC)
Semivolatile Organic Compounds

240−260℃

 〜380−400℃

リン酸トリブチル
フタル酸ジオクチル

粒子状物質(POM)
Particulate Organic Matter

380℃以上

リン酸トリクシル
クロルピリホス
ホキシム
ピリダフェンチオン

出典:WHO,Indoor air quality:Organic pollutants,EURO Reports and Studies 111,1987

 

今回取り上げる化学物質は、有機リン系殺虫剤であるクロルピリホスです。殺虫剤として農作物やゴルフ場に用いられたり、住居における防蟻剤(シロアリ防除剤)や家庭用殺虫剤や防虫畳として用いられています。 

クロルピリホスは、融点が43.5度なので、室内空気中に拡散しているのではなく散布により周囲に付着しています。そこで、付着物との接触による健康影響が問題になります。また、残留農薬として食物中に残留している場合は、経口摂取による健康影響が問題になります。 

国際化学物質安全性カード (ICSC)によると、クロルピリホスは以下の健康影響を示します。

(出典)国立医薬品食品衛生研究所、化学物質情報部

http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj/icss0851.html

<短期暴露の影響>

<長期または反復暴露の影響>

また、1997年11月の米公衛生学会で人間先天異常(頭、顔、眼、生殖器など)との関連性が報告されています。

 

クロルピリフォスの許容基準値

クロルピリホスのADI1日摂取許容量:Acceptable Daily Intake

0.01 (mg/kg・体重)

ADI:人間がある物質を一生涯にわたり摂取しても、現在の毒物学的知見からみて、何ら障害の現れない最大量。

 

今回紹介する研究論文は、クロルピリホス殺虫剤を床散布や空中噴霧した後、1)手で押さえる、2)手で引きずる、3)布拭き(ふき取る)、4) ポリウレタンフォーム製ローラーといった手法によって住宅内の表面(床、家具など)からどれだけ除去できるかを比較しています。 

<研究論文出典>

環境衛生展望、1999年6月号

URL: http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/1999/107p463-467lu/abstract.html

Environmental Health Perspectives Volume 107, Number 6, June 1999

 

<研究者及び所属機関>

Chensheng Lu, Richard A. Fenske

米ワシントン大学、公衆衛生及び地域医療学部、環境衛生部門

 

<概要>

住宅室内における殺虫剤散布によって、私たちは殺虫剤曝露の可能性を得ることになる。特に小さい子供達にはその影響が懸念される。室内生活において接触する表面に殺虫剤が付着していると、皮膚に殺虫剤が移行する可能性がある。しかし、この件に関しての重要性は確信がもてていない。 

そこで本研究では、クロルピリホス含有家庭用殺虫剤(商品名:Dursban, Dow Elanco社製)を通常使用レベルで床散布と空中噴霧を行った後、1)手で押さえる、2)手で引きずる、3)布拭き(ふき取る)、4) ポリウレタンフォーム製ローラーといった手法によって住宅内の表面(床、家具など)からどれだけ除去できるかを比較した。特に、人間の皮膚にどれだけ移動するかに焦点を当てている。

 

測定結果 

1.床散布及び空中噴霧などの全データを総合した拭き取り方法での比較 

カーペット上に付着したクロルピリホス量は約5001000ng/cm2

拭き取り手法

クロルピリホス除去量

1)2)との有意差検定

1)手で押さえる
2)手で引きずる

平均約 16 ng/cm2

ブランク

3)布拭き(ふき取る)

平均約23144 ng/cm2

P = 0.0007(危険率0.07%

4)ポリウレタンフォーム製ローラー

平均約33216 ng/cm2

P = 0.0006(危険率0.06%

1)手で押さえる、2)手で引きずる方法による皮膚移動量は、カーペット上に付着したクロルピリホス量の 1%以下に相当する量で少ない。また、1)2)とでは差はない。

 

2.家具(散布対象外の表面)でのクロルピリホス除去量の比較

拭き取り手法

クロルピリホス除去量

1)との有意差検定

1)手で押さえる

12 ng/cm2

ブランク

2)布拭き(ふき取る)

56 ng/cm2

P = 0.009(危険率0.9%

上記結果は、クロルピリホス殺虫剤の床散布または空中噴霧後において、3)布拭き(ふき取る)や 4) ポリウレタンフォーム製ローラーと比較して、人間の皮膚はカーペットや家具からのクロルピリホス除去量が有意に少ないことを示している。

 

3.各表面でのクロルピリホス残留物比較

評価表面

クロルピリホス残留物比較

カーペット上(殺虫剤適用対象)

床散布>空中噴霧

家具(適用対象外)

床散布<空中噴霧

 

この研究論文の結果からすると、以外と人間の皮膚へのクロルピリホス移動量は小さいと思われるかもしれないが、このことは人体への影響とは関係がない。逆に使用した場合は、その後しっかりとした拭き取り方法で除去することを心がけるべきだと思います。 


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