住宅室内床における2,4-ジクロロフェノキシ酢酸分布
1999年6月13日
CSN #063
クロロフェノキシ系除草剤である2,4-Dまたは2,4-PA (2,4-dichlorophenoxyacetic acid:2,4ジクロロフェノキシ酢酸)は、内分泌攪乱化学物質のリストに挙げられており、水田雑草、一年生及び多年生公用雑草に用いられる。植物の茎や葉、根から吸収され、植物ホルモンを攪乱することで枯死させる。ホルモン系除草剤の1つであり、雑草の生長点や根の先端などの分裂組織に奇形を生じさせる。1950年に農薬登録され、水田や芝地で用いられる他、家庭用除草剤の主流として現在も使用されている。
ヒトの健康影響に関連する情報が以下のサイトから得られます。
「内分泌かく乱作用が疑われる化学物質の生体影響データ集」(東京都立衛生研究所)
URL: http://www.tokyo-eiken.go.jp/edcs/edcs_index.html
2,4-D に暴露した32人の男性の精子について、精液量、精子数、運動性および形態学的分析を行ったところ、精子無力症、精子死滅症、奇形精子症の発生率が対照群と比較して有意に高くなっている。また、ハンガリー,イタリア,ニュージーランド,オーストラリアおよび米国における疫学調査の結果,2,4-Dにより先天性奇形を生じる証拠はないが,受精率は影響を受けるとの報告がある。また、65才の男性がゴルフボールをなめる習癖が原因と考えられる 2,4-D の暴露を受け,急性肝炎を起こしたという報告がある。
また、IARC(国際がん研究機関)では、人に対して発癌性を示す可能性がある化学物質(グループ2B)であるとされており、短期曝露では眼、皮膚、気道を刺激する。
アメリカでは約80%−90%の家庭で殺虫剤や除草剤を使用している。そしてそれらの化学物質が室内空気やハウスダストから検出されている。
殺虫剤と除草剤を比較すると、一般的に除草剤の方が毒性の強い化学物質が用いられる。つまり草の方が虫よりもしぶとい。日本と異なりアメリカでは室内で靴を脱ぐ生活習慣がない。そのため、屋外で靴に付着した汚染化学物質を室内に持ち込む危険性が高い。
今回紹介する論文では、住宅の芝生に用いられた2,4-Dが住宅室内にどれだけ入ってくるかを定量的に評価している。
<情報源>
環境科学と技術
Environmental Science & Technology, 33 (9), 1359 -1365, 1999
URL: http://pubs.acs.org/hotartcl/est/99/research/es980580o_rev.html
<研究者>
1)Marcia G. Nishioka,* Hazel M. Burkholder, and Marielle C. Brinkman
バッテレ・メモリアル研究所(614)424-4964; fax: (614)424-3638; e-mail: nishiomg@battelle.org
Battelle Memorial Institute, 505 King Avenue, Columbus, Ohio 43201
2)Robert G. Lewis
米環境保護庁、国立曝露研究室
National Exposure Research Laboratory, U.S. Environmental Protection Agency, Research Triangle Park, North Carolina 27711
<概要>
本論文では、現存する住宅において、庭の芝生に散布された2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(以下2,4-D)の移動量を測定している。
玄関、リビングルーム、ダイニングルーム、キッチン、子供部屋の5部屋の床埃を採集して2,4-Dを測定している。その結果、芝生上の残留物が室内に移動し、室内での2,4-D含有埃(μg/m2レベルの濃度)の堆積勾配が玄関からの通行パターンと一致している。つまり、玄関での濃度が最も高く、室内への行動パターンとともに減少している。
除草剤散布後に靴で室内に入ること及び子供とペットの活動レベルは、除草剤を使用した後の室内残留物濃度に影響する最も重要な要因であった。
6世帯の住宅の測定結果を下記の表、グラフに示す。
注釈) 表中の色の見方
カーペット床 |
他はビニールシート、木質床 |
単位: 2,4-D検出量(マイクロμg/m2)
住宅A | 玄関 | リビング | ダイニング | (キッチン) | 寝室 |
散布前 | 0.5 | 0.6 | 0.4 | 0.1 | 1 |
散布1週間後 | 228 | 188 | 117 | 2 | 25 |
住宅B | 玄関 | キッチン | リビング | ダイニング | 寝室 |
散布前 | 1 | 1 | 0.4 | 0.4 | 0.2 |
散布1週間後 | 74 | 35 | 13 | 12 | 5 |
住宅C | (玄関/キッチン) | (フロントホール) | (ダイニング) | リビング | 寝室 |
散布前 | 0.1 | 0.6 | 0.3 | 0.5 | 2 |
散布1週間後 | 0.7 | 3 | 2 | 70 | 27 |
住宅D | 玄関 | (キッチン) | (ダイニング) | リビング | 寝室 |
散布前 | 0.7 | 0.1 | 0.1 | 3 | 0.5 |
散布1週間後 | 17 | 0.3 | 0.7 | 13 | 5 |
住宅E | (玄関ホール) | (ダイニング) | (キッチン) | リビング | 寝室 |
散布前 | 0.8 | 0.1 | 0.1 | 0.2 | 0.5 |
散布1週間後 | 1 | 0.6 | 0.3 | 5 | 4 |
住宅F | (キッチン/玄関) | ダイニング | リビング | 寝室 | 家族部屋 |
散布前 | 0.1 | 0.3 | 0.3 | 0.6 | 0.2 |
散布1週間後 | 0.2 | 2 | 2 | 4 | 1 |
注釈) 屋外から室内への行動パターンは、グラフ中の左側の場所から右側の場所へ移行する。
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<総括>
カーペット床の方が、ビニルシートや木質床などの平滑な床よりも2,4-D検出量が高い。
屋外から玄関を通じて室内へ行動するパターンと2,4-D検出量の濃度勾配が一致している。
住宅A、住宅Bなどカーペット床比率が高い住宅の床では、総量的に 2,4,-D検出量が高い。
本論文の実験結果は、住宅内に靴で入る生活習慣をもつ家庭には、非常に重要な問題を提示しています。カーペットは埃が溜まりやすく掃除機で除去し難いので、室外から持ち込んだ有害化学物質を保持しやすい。また、そのカーペット上では皮膚や呼吸を通じて有害化学物質を取り込む可能性が高くなると言えます。