ペットボトルの再利用(Part2)


2000年6月26日

CSN #141

ペットボトルは、ポリエチレンテレフタレート(PET: polyethylene terephthalate)を成形加工して得られたプラスチック製品で、清涼飲料水、酒、ビール、食酢、油、醤油、ソース、洗剤、シャンプー、化粧品、医薬品などのボトルとして幅広く使用されています。前報Part1では、ペットボトルに使用されているボトル用PET樹脂の用途、ペットボトルの製造方法について概説しました。本報Part2では、リサイクルの観点からペットボトルの再利用について概説します。 

19956月、都市ごみ減量化とリサイクルを目的として、「容器包装に係わる分別収集及び再商品化に関する法律」(容器包装リサイクル法)が制定されました。そして、ガラスびん、アルミ缶、スチール缶、紙パック、ペットボトル(飲料、酒類、醤油)の5つについて、19974月から分別回収・リサイクルが開始されました。

そして20004月からは、ペットボトル以外の「その他プラスチックス」と紙パック以外の「その他の紙」製容器包装物に対して容器包装リサイクル法が施行されました。表1に容器包装リサイクル法の実施状況を示します[1]

表1 容器包装リサイクル法の実施状況[1]をもとに作成)

素材

容器包装

実施年

再商品
化義務

委託単価(円/kg)

1999年度

2000年度

金属

アルミ缶

1997

なし

スチール缶

ガラス

ガラスびん(無色)

1997

あり

2.5

4.2

ガラスびん(茶色)

4.4

7.7

ガラスびん(その他)

6.3

8.1

飲料用紙パック

1997

なし

ダンボール

2000

その他紙製包装容器

あり

59

プラスチック

ペットボトル

1997

あり

95

89

白色の発泡スチロール製食品トレイ

2000

その他プラスチック容器包装*1

105

*委託単価:「日本容器包装リサイクル協会」(指定法人)へ支払うリサイクル委託単価

この中でペットボトルを取り上げると、分別回収してもリサイクルが追いつかず、保管されたり放置されたりしている状況にあります。表2にペットボトルの回収量と回収率、図1に再生PET樹脂の用途別市場推移、図2にペットボトルの回収量とPET樹脂再生量の推移を示します[1][2]

表2 ペットボトルの回収量と回収率[2]をもとに作成)

回収量トン

生産量トン

回収率%

1993

528

123798

0.4

1994

1366

150282

0.9

1995

2594

142110

1.8

1996

5094

172902

2.9

1997

21361

218806

9.8

1998

47620

281927

16.9

1999

76000

332202

23

2000

103000

363000

28

*印は予測値。生産量は、第二種指定ペットボトル(清涼飲料、酒類、醤油)

表2、図1、図2から明らかなように、ペットボトルに対して容器包装リサイクル法が施行された1997年を境にペットボトルの回収量と回収率が増大し、再生PET樹脂の量も増大しています。しかし、回収量と再生量の差が増大しており、回収に対して再生が追いつかない状況であることがわかります。この要因としては、再生処理プラント不足、再生用途不足、ペットボトルの生産量増大などがあり、今後これらの課題を早急に解決しなければ、再生できずに余ったペットボトルがさらに増大することになります。そのため私たちは、ペットボトルの再利用に関する周辺技術の確立と環境整備、ペットボトル使用量の低減を考える必要があります。

ペットボトルの再利用方法としては、図3に示す様々な方法があります。現在主に行われているのはマテリアルリサイクルで、ごみ箱・ブックエンド・コンテナ・植木鉢などの家庭雑貨、フィルム、シート、衣料用繊維、クッションのつめ綿、結束テープ、非食品用容器などに利用されています。

しかしマテリアルリサイクルで得られたPET樹脂は、耐候性、耐熱安定性、耐衝撃性、各種機械物性が大きく低下しているため使用用途は限られており、飲料用ペットボトルとしての再利用は認められておりません[3]。現在マテリアルリサイクルで得られたPET樹脂を改質する技術が研究されていますが、今後マテリアルリサイクル技術が向上し、どれだけ使用用途が拡大できるかが大きなポイントとなっています。

一方、ペットボトルを化学的処理によりエチレングリコールやテレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルまで分解するケミカルリサイクル技術が検討されています。ペットボトルのケミカルリサイクル法は、現在2種類採用されています。1つは、溶融したペットボトルとメタノールを混合し、200度前後で加水分解するメタノリス法です。もう1つは、過剰のエチレングリコールで分解するグリコリシス法です。メタノリス法は原料の99%が回収できる高回収率法であり、アメリカではDu Pont社、Eastman社、Hoechst Celanese社が実証プラントから商業プラントへ進んでいます。またGoodyear社はグリコシス法で商業化しています。

飲料メーカーであるコカ・コーラ社、ペプシ・コーラ社は、それぞれHoechst Celanese社、Goodyear社の技術でケミカルリサイクルを行っています。ケミカルリサイクルによる再生PET25%使用したペットボトルは、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認可を得ています。コカ・コーラ社ではHoechstCelanese社のリサイクルペットを25%使用した2リットルペットボトル入りのコーラの販売を始め、現在2リットル入りコーラの80%に使用されています[3]

このようにアメリカでは急速にペットボトルのケミカルリサイクルが進行しています。しかしケミカルリサイクルは、設備投資/回収の収支がとれる設備技術(リサイクルPET樹脂のコストにもからむ問題)、人件費の問題などによりリサイクルPETがコスト高となり、日本ではまだ実用化されていません。ケミカルリサイクルは、PET樹脂の原料にまで戻すという点で、マテリアルリサイクルよりも使用用途が広がります。今後いかに低コストで実現できるかが大きなポイントとなっています。

図4に容器包装リサイクル法が適用される素材の今後の分別回収計画量を示します[1]20004月からは、PET樹脂以外の「その他プラスチックス」と紙パック以外の「その他の紙」製容器包装物に対して容器包装リサイクル法が施行されました。ミレニアムである2000年は、全ての容器包装廃棄物が、分別回収・リサイクルされる全面施行の年です。

リサイクル技術の向上により再利用用途を拡大することは重要ですが、リサイクルが困難な素材はできるだけ使用しないよう素材の転換を行うことも、とても重要なことです。ペットボトルからリターナルびんへの転換、近年技術の進歩が目覚ましい生分解性プラスチックス(使用後は自然界に存在する微生物の働きによって低分子化合物に分解され、最終的には水と二酸化炭素などの無機物に分解される高分子素材)への転換などを真剣に考えていく必要があります。

ペットボトルの状況を深く考察し、今後目指すべき循環型経済社会に適応する素材は何なのか、プラスチックス産業は今、大きな節目を迎えていると言えます。

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] 小林敏幸, 工業材料, Vol. 48, No. 3, pp5- 8, May 2000

[2] プラスチックス, Vol. 51, No. 6, pp55, June 2000

[3] 長谷川正、プラスチックス、Vol.50, No.11, pp58-64, Nov. 1999


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