2001年度環境衛生報告書

−スウェーデン社会省−


 2001611

CSN #190

スウェーデン社会省(National Board of Health and Welfare)、カロリンスカ研究所の環境医学研究所(Institute of Environmental Medicine at Karolinska Institutet)、ストックホルム州議会の環境医学局(Department of Environmental Medicine at Stockholm County Council)による共同で、2001年度環境衛生報告書(Environmental Health Report 2001)が発表されました。

スウェーデンでは、これまで数十年間、公衆の健康リスクを増加させる要因に対して多くの対策を行ってきており、環境に関連した健康影響は減少しています。しかし、さまざまな製品において化学物質の適用が増加した結果、新たな問題が生じています。それゆえこの報告書では、継続して健康リスク削減を行う必要があると述べています。

この報告書では、「大気汚染」、「室内環境」、「重金属と残留性有機汚染物質(POPs)」、「物理的な環境要因」、「水と食物への感染拡大」の5項目について報告されています。ここではそれぞれの中から、重要と思われる部分について以下に概説します。

 

大気汚染

  1. 過去20年間における、工業・輸送・エネルギー分野での排出削減により、特に二酸化硫黄(SO2)、二酸化窒素(NO2)、煤煙の濃度は減少傾向を示している。
  2. 粒子状物質(M10:粒子径10μ以下)とオゾン(O3)濃度は減少しておらず、PM10・オゾン・二酸化窒素は多くの場所で、健康影響防止のためにカロリンスカ研究所が勧告した環境基準値を超えている。
  3. 北米の3つの研究によると、主に粒子状物質が高濃度の地域において、長期レンジでの死亡率が増加している。これをストックホルム州にあてはめたとすると、平均で約2ヶ月間住民の寿命が短縮されることになる。交通事故の場合、平均で約1ヶ月間寿命が短縮されるので、これと比較するとわかりやすい。
  4. 10%の人たちが、主に自動車排気ガスや薪ストーブの排煙による不快感を訴えている。約40万人以上の成人が、交通量の多い道路・国道・工業地帯に寝室の窓が面したところに住んでいる。そしてそのうち約20%以上の人たちが、自動車排気ガスに悩まされている。
  5. 大気汚染による不快感を訴える人たちの多くは、喘息や目や鼻のアレルギー疾患を患っており、成人の約30%にもなる。また、19歳から81歳の人たちの10%は喘息を患っており、19歳から29歳になると15%まで増加する。
  6. 発がん性物質に関しては、自動車排気ガスが関連しており、ベンゼンの環境基準値(カロリンスカ研究所が勧告した発がんリスクが低いレベル)は多くの都市で満たされていない。

 

室内環境

  1. スウェーデンでは室内環境に起因した症状が百万人以上の人たちで報告されており、疲労(3%)、頭痛(1%)、かゆみ(2%)、目の刺激(2%)、鼻の刺激(4%)が家庭内の室内環境に起因する症状として報告されている。
  2. 劣悪な室内環境は、ハウスダストや気道感染などによるアレルギー症を引き起こす。また、室内の湿度は健康に対して重要である。
  3. スウェーデンでは室内のラドン曝露が大きな問題であり、スウェーデンの環境基準値(400 Bq/m3)以上のラドンに曝露している人たちは、20万人から40万人と推定されている。400 Bq/m3のラドン濃度に曝露している人たちは、スウェーデンの平均曝露濃度(100 Bq/m3)の人たちと比べて、肺がんリスクが約30%増加する。また、喫煙者の生涯肺がんリスクは、非喫煙者と比べて10倍以上になる可能性がある。
  4. 日常的に15%の人たちが受動喫煙を受けており、受動喫煙は現在でも重要な汚染源である。また、乳幼児の喘息の20-30%は、受動喫煙によるものと考えられている。
  5. 15-20%の人たちが、ニッケル・クロム・防腐剤・芳香剤による接触性アレルギー皮膚炎と推定されている。

 

重金属と残留性有機汚染物質(POPs)

  1. 健康影響の観点から最も重要な金属は、鉛、カドミウム、水銀である。これらは食品中にみられる。また、ある地域の地下水はヒ素で汚染されている。
  2. 腎臓への影響が観察される50mg/kgのカドミウム濃度を腎臓組織中に有する人は、ごくわずかである。そのため、さらに穀物や野菜中の濃度を低減させ、繊維質の食品を多く食べるよう推奨する。
  3. 鉛は神経システムに影響を与え、発育遅延、知能指数(IQ)低下、行動障害など、特に乳幼児が影響を受けやすい。しかしながら、スウェーデンの人々の血中鉛濃度は、乳幼児の発育に影響が観察された濃度よりも低い。
  4. 数千あるスウェーデンの湖のうち10は、過去に排出されたメチル水銀が残留しており、そこに生息する魚のメチル水銀濃度が高い。メチル水銀も鉛と同様に脳の発育に影響を与える。最近の研究によると、世界保健機関(WHO)が推奨する最大耐用摂取量以下の濃度でも、胎児期に曝露した子供において、言葉の発達、記憶や行動に影響が生じている可能性があると報告されている。そのため政府の食品局(National Food Administration)は、妊婦や近い将来子供を産む予定の女性に対して、そこで捕れるカマス、スズキ、ターボット(大型のヒラメの1)、ウナギ、オヒョウ(カレイ科)を食べないよう勧告している。
  5. バルト海で捕れるサーモンやニシンなどの脂気の多い魚の脂質には、ダイオキシン類やポリ塩化ビフェニール類(PCBs)が蓄積しやすく、以前は大きな汚染源であったが、ここ20年間で汚染濃度は減少してきた。しかしながら、ダイオキシン類の平均摂取量は、現在でも最大耐用摂取量の勧告値と同レベルである。また、このレベルの濃度で子供の発達に影響がある可能性が示唆されているため、政府の食品局(National Food Administration)は、出産可能な年齢の女性は、バルト海などで捕れる脂気の多い魚を食べるのは月に1回程度とし、それ以上は食べないよう勧告している。
  6. プラスチックスの難燃剤などに使用される臭素系難燃剤の1つ、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)は、生産量が多く、ここ20年の間、母乳中の濃度が増加している。動物実験によると、最も深刻な影響は、生殖系や胎児の発達への影響である。そのためスウェーデン政府は、PBDEsとポリ臭素化ビフェニール(PBBs)を禁止するよう欧州連合(EU)に働きかけている。
  7. 内分泌撹乱化学物質(EDCs)に関しては、野生生物で影響が観察されてきたが、人への影響については十分明らかになっていない。しかし胎児や幼児は、これらのEDCsに対して影響を受けやすく、低濃度曝露で影響が生じる可能性が示唆されている。

 

物理的な環境要因

  1. スウェーデンでは週に1回以上、約9%の人々が隣人や交通機関などの都市騒音に悩まされている。騒音は、人の生理機能に影響し、高血圧のリスクが増大する可能性がある。
  2. 近年、高圧線や電気製品の電磁波による発がんリスクが懸念されている。この影響に関しては十分な確証が得られていないが、これまで得られたデータから、過剰に曝露しないよう警告すべきである。
  3. 携帯電話の電磁波による脳腫瘍リスクの増加が議論されているが、規模の小さい疫学調査では、否定的な結果が報告されている。今後、さらに調査が進むであろう。

 

水と食物への感染拡大

  1. 水を通じた細菌感染で発病する人は毎年100-14,000人、食物を通じて発病する人は毎年1,000-3,000人と報告されている。また、毎年40万人以上の人々が、食中毒を起こしていると推定されている。
 

スウェーデンの2001年度環境衛生報告書は、国立環境衛生調査(national environmental health survey: NMHE 99)で得られたデータをもとに作成されています。この調査は、スウェーデンの21の州から各州750人をランダムに選定し、回答が得られた19-8111,233人からデータが得られています。

これまで排出削減を中心に多くの対策を行ってきたとはいえ、いまだに環境基準値が満たされていない汚染因子がいくつかあること、新たな問題が生じてきていること、胎児や乳幼児など影響を受けやすい人たちに対するリスクを考えなければならないことなどがわかります。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] The National Board of Health and Welfare, NBHW's Customer service, ”Environmental Health Report 2001 “, Art no. 2001-111-004, 2001
http://www.sos.se/fulltext/111/2001-111-1/summary.htm


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