内分泌攪乱化学物質(EDCs)の低濃度曝露による影響


2001618

CSN #191

内分泌攪乱化学物質(EDCs)による健康影響は、これまで考えられていた無影響レベル(NOAELs)よりも低いレベルで影響のある可能性が懸念されており、このことについて、アメリカ環境保護庁(USEPA)の要請のもと、アメリカ国家毒性プログラム(NTP)と国立環境衛生科学研究所(NIEHS)が共同で組織した、学術機関・政府・工業界の36人のメンバーによる専門家パネルによって、これまで報告されてきた内分泌攪乱化学物質の低濃度曝露影響に関する59の科学論文をもとに、内分泌攪乱化学物質に関する低濃度曝露の影響と用量/反応の関係について評価を行ってきました。

そして2001514日、その報告書のドラフトが発表されました[1][2]。専門家パネルは、「ビスフェノールA」、「他の環境エストロゲン及びエストラジオール」、「アンドロゲン及び抗アンドロゲン」、「生物学的因子と研究デザイン」、「統計と用量/反応モデル」の5つのサブパネルに分かれて報告しています。以下に、そのドラフトの概要を示します。

捕捉:以下の説明文では「エンドポイント」という用語がよくでます。「エンドポイント」とは、研究デザインを考える際に、観察・測定を行って効果等を判定する具体的な影響評価項目のことを示します。エンドポイントとしては、例えば体重変化、死亡率、発症率、罹患率、血圧値の低下、症状の緩和、副作用の発現などがあります。

 

ビスフェノールA

 

他の環境エストロゲン及びエストラジオール

  1. エストラジオール(卵胞ホルモン)

    ラットに対して低濃度のエストラジール(3mg/kg/day)を投与した結果、血清中のプロラクチン(PRL)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の変化が観察された。

  1. ジエチルスチルベストロール(DES:流産予防などに使用された合成ホルモン)

    低濃度(0.02mg/kg)DESをマウスに投与した結果、前立腺の大きさに影響が生じた明らかな証拠がある。

  1. ゲニステイン(Genistein大豆に多く含まれる植物エストロゲン)

    25ppmのゲニステインを食餌中に与えて育てた母親マウスの子供において、雄ラットの性的二型核(SDN-POA:性衝動の性差を左右する脳内の神経核)の体積が減少(雌ラット並の体積)した、雌ラットの乳腺組織に変化がみられたなど、低濃度による影響が観察された。

  1. メトキシクロル(有機塩素系殺虫剤)

    胎児期及び周産期に5 mg/kg/dayのメトキシクロルに曝露した母親ラットの子供において、エストロゲン様活性が生じた。低濃度である10ppm(1 mg/kg/day相当)のメトキシクロルを食餌中に与えて育てた母親マウスの子供において、免疫システムに影響が生じた。

  1. ノニルフェノール(界面活性剤の分解生成物)

    低濃度である25ppmのノニルフェノールを食餌中に与えて育てた母親マウスの子供において、雄ラットの性的二型核(SDN-POA)の体積が減少し、これと関連して胸腺重量の増加などがみられた。

  1. オクチルフェノール(界面活性剤)

    多世代にわたるラットの研究において、低濃度曝露の影響に関する確証が得られなかった。

 

アンドロゲン及び抗アンドロゲン

抗アンドロゲン作用をもつビンクロゾリン(vinclozolin1998年に登録が失効した野菜や果実等の殺菌剤)に注力して評価を行ったが、無影響量(NOAELs)より低い低濃度で行われた研究報告がなかった。また、他のアンドロゲン及び抗アンドロゲン作用をもつp,p’-DDTなど化学物質においても、低濃度曝露の影響に関する確証が得られなかった。

 

生物学的因子と研究のデザイン

内分泌攪乱化学物質による低濃度曝露の影響に関して研究を行う場合、子宮内の位置、負荷の違い、食餌中の植物エストロゲン(大豆等)の影響、飼育かごの材質(ステンレス/ポリカーボネートなど)の違い、季節変化の影響などの因子によって、得られる結果に影響を与える可能性がある。

 

総括

以上このとからこのドラフトでは、次のように総括しています。

 

内分泌攪乱化学物質による生態への影響は、毒性影響が明らかである高濃度の領域から、これまで影響がないとされてきた、あるいは私たちが日常的に摂取している低濃度の領域が重要となっています。通常の用量/反応モデルでは、低濃度になるにしたがい影響が小さくなり、影響がなくなる閾値が存在します(一般的に発がん性がエンドポイントの場合は閾値が存在しない)。しかしながら、内分泌攪乱化学物質の場合、低濃度領域において再び影響が大きくなる(逆U字型)可能性が懸念されています。

これまで得られた内分泌攪乱化学物質の低濃度曝露に対する科学的知見では、本報で紹介したドラフトにあるように、その影響は決定的ではないため追試を行うべきであること、古典的な従来の試験評価方法を再考すべきであると述べられています。

もちろんこれらのことは最低限必要ではありますが、これらの研究結果が得られるには非常に時間がかかるため、少なからず確証が得られているのであれば、現実世界において私たちの健康を守るために、新しく得られたリスクに応じて対策を考える必要があると思われます。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] Bill Grigg, National Institute of Health (NIH), News Release, “There appear to be effects below the traditional 'no effect' level”, May 14, 2001
http://www.nih.gov/news/pr/may2001/niehs-14.htm

[2] National Institute of Environmental Health Sciences, NIH, National Toxicology Program, “National Toxicology Program’s report of the Endocrine Disrupters Low Dose Peer Review”, May 14, 2001
http://ntp-server.niehs.nih.gov/


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