アメリカ環境保護庁によるクロルピリホス排除計画
2001年3月12日
CSN #177
有機リン系化合物である「クロルピリホス(chlorpyrifos)」は、アメリカ環境保護庁(以下EPA)が1965年に登録した殺虫剤で、農業用、家庭用、工業用として広く使用されています。芝生の昆虫、アリ、ゴキブリ、ノミ、ダニ、蚊、シロアリに対して殺虫効果があり、アメリカで市販されている一般的な商品には、ダーズバン(Dursban)、 Empire 20、Equity、Whitmire PT 270、農業用のローズバン(Lorsban)があります。
EPAは、古くから使用されている殺虫剤に対する健康影響リスクの再評価を行い、1996年の食料品質保護法(Food Quality Protection Act)で基準値の見直しを行ってきましたが、クロルピリホスに関しては、子供へのリスクに対して基準値が不十分であるとの判断により、2000年6月に再度基準値の見直しを行いました。そして、クロルピリホスの使用に対して、その大半を削減することで殺虫剤メーカーと合意したと2000年6月8日に発表しました。この合意は、実質的に全ての家庭用製品への使用と、室内外問わず子供が暴露する場所での使用を、2001年12月31日までに停止するものでした。表1にその概要を示します[1]。
表1 クロルピリホスの用途別排除手段と実施時期([1]をもとに作成)
分類 |
用途 |
手段 |
時期 |
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作物 |
リンゴ |
開花後に散布するクロルピリホス含有製品の生産禁止(開花前は適用除外) |
2000年8月-9月 |
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開花後に散布するクロルピリホス含有製品の使用禁止 |
2000年12月31日 |
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許容値の低減 |
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トマト |
トマトに散布するクロルピリホス含有製品の生産禁止 |
2000年8月-9月 |
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トマトに散布するクロルピリホス含有製品の使用中止 |
2000年12月31日 |
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許容値の取り消し |
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ぶどう |
許容値の低減 |
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全ての農業用途 |
限定的に使用可能な製品の新分類と容器包装の新分類表示 |
2000年12月1日 |
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限定的に使用可能な新分類製品は、改訂REIsに従わなければならない。 |
2000年12月1日 |
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家庭 |
芝生などの屋外用途 |
限定的に使用可能な製品の新分類と容器包装の新分類表示 |
2000年12月1日 |
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使用中止 |
製造停止2000年12月1日 流通停止2001年2月1日 販売停止2001年12月31日 |
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クラックや割れ目などの室内用途 |
限定的に使用可能な製品の新分類と容器包装の新分類表示 |
2000年12月1日 |
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使用中止 |
製造停止2000年12月1日 流通停止2001年2月1日 販売停止2001年12月31日 |
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シロアリ |
全体 |
限定的に使用可能な製品の新分類と容器包装の新分類表示 |
2000年12月1日 |
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0.5%溶液の限定的な使用 |
2000年12月1日まで |
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建築後の建物全体への使用 |
使用中止 |
製造停止2000年12月1日 流通停止2001年2月1日 販売停止2001年12月31日 |
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建築後の部分的な使用 |
使用中止 |
製造停止2000年12月1日 使用停止2002年12月31日 |
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建築前の使用 |
使用中止 |
製造停止2004年12月31日 使用停止2005年12月31日 |
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住居以外 |
学校など子供が曝露する可能性のある室内 |
使用中止 |
製造停止2000年12月1日 流通停止2001年2月1日 販売停止2001年12月31日 |
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公園など子供が曝露する可能性のある室外 |
使用中止 |
製造停止2000年12月1日 流通停止2001年2月1日 販売停止2001年12月31日 |
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使用可能用途 |
容器包装されたエサ |
子供にとって安全な包装(実施中) |
引き続き使用可能 |
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船舶内の倉庫、貨物列車、産業施設、製造工場、食品加工工場など、子供が曝露する可能性のない室内 |
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2000年12月1日までに新分類による製品のラベル表示を実施 |
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子供が曝露する可能性のない室外 |
全体 |
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2000年12月1日までに新分類による製品のラベル表示を実施 |
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ゴルフコース |
4ポンド/エーカーから1ポンド/エーカーへ散布量を削減 |
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道路の中央 |
最大散布量を1ポンド/エーカーに削減 |
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産業施設内の敷地 |
最大散布量を1ポンド/エーカーに削減 |
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被覆を有する非構造用木材の処理、電柱、枕木、景観用木材、パレット、木質コンテナ、ポール、ポスト、加工木材製品 |
現在の散布量を継続 |
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公衆衛生 |
アカカミアリ塚 |
専門業者のみ使用可能 |
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蚊の退治 |
専門業者のみ使用可能 |
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そして現在、EPAは、クロルピリホスを含む殺虫剤製品の小売業者に対し、この措置への対応に関する情報提供を行っています[2]。2001年12月31日を過ぎた後に残った在庫品の処分方法に関する情報も含まれています。以下にその概要を抜粋して示します。
1.クロルピリホスを含む殺虫剤製品の小売業者に対する注意事項
2.2001年12月31日以降の在庫品や返品製品への対処方法
3.クロルピリホスに関して小売業者が消費者に情報提供すべきこと。
4.小売業者がクロルピリホスを含む製品を見分ける方法
今回のクロルピリホスに対するEPAの措置はかなり本格的で、実質的にクロルピリホスの使用は排除されたとみることができます。また、子供を守るために規制が強化されたことが大きな特徴と言えます。
そして日本では、2000年9月に策定した厚生省(2001年1月から厚生労働省)による室内空気濃度指針値(1μg/m3、小児では0.1μg/m3)などを受けて、シロアリ対策協会が自主的にシロアリ防除用としてのクロルピリホスの使用を段階的に自粛するよう協会会員に要請しています。その日程は、2001年4月1日までにクロルピリホス原体の輸入・製造・販売の自粛、2001年10月1日までに製剤及び含有材料の製造・販売の自粛、2002年3月31日までに一般家屋への使用自粛となっています。また、これらの実施状況を判断し、シロアリ防除用としてのクロルピリホス製剤及び含有材料のシロアリ対策協会への新規申請を中止すると要請しています。なお、新生児、幼児、妊婦の居住する家屋、幼稚園、学校、病院、公共施設では、2000年12月21日より使用自粛となっています。
Author: Kenichi Azuma
<参考文献>
[1] United
States Environmental Protection Agency (USEPA),
Office of Pesticide Programs, “Chlorpyrifos Revised Risk Assessment and
Agreement
with Registrants”,
June 2000
[2] United States
Environmental Protection Agency (USEPA),
Office of Pesticide Programs, “Notice
To Retailers On Pesticide Products Containing
Chlorpyrifos”, February 16,
2001
http://www.epa.gov/oppfead1/cb/csb_page/updates/noticedursb.htm