クロロプレンの発癌性


1999年5月5日

CSN #044

 

F344/N ラットと B6C3F1 マウスに対するクロロプレン吸入による発癌性及びマウスに対する1,3−ブタジエン投与での発癌性との比較研究

( Multiple organ carcinogenicity of inhaled chloroprene (2-chloro-1,3-butadiene) in F344/N rats and B6C3F1 mice and comparison of dose-response with 1,3-butadiene in mice. )

 

 

出典: Carcinogenesis, Volume 20, Issue 5, pp. 867-878:Abstract. 1999年5月号

研究者: RL Melnick2, RC Sills, CJ Portier, JH Roycroft, BJ Chou1, CL Grumbein1 and RA Miller1, e-mail: melnickr@niehs.nih.gov

URL: http://www.oup.co.uk/carcin/hdb/Volume_20/Issue_05/200867.sgm.abs.html

英国医学雑誌Carcinogenesis(発癌)1999年5月号に、上記タイトルの研究論文要旨が掲載されているので概要を紹介します。米国立環境健康科学研究所 (NIEHS) のメルニックらの研究論文で、クロロプレンの発癌性に関するラットとマウスの実験結果が報告されています。

クロロプレン(2−クロロ−1,3−ブタジエン)はポリクロロプレン(ネオプレン)弾性体の製造に使用される物質で、国内外で生産量の高い化学物質である。例えばクロロプレン系接着剤は、ポリクロロプレン弾性体をベースにした接着剤であり、住宅建材から一般家庭用まで幅広く用いられている接着剤である。また、ポリクロロプレン弾性体を発泡処理したクッション材なども市販化されている。 

ポリクロロプレンは、クロロプレンを重合反応により高分子化(プラスティック化)したもので、クロロプレンとは全く性質が異なるものであり、同じ扱いをしてはいけない。しかし、未反応物が残存する可能性があるので、ポリクロロプレンにクロロプレンが極微量含まれている可能性はある。 

但し、この論文における実験はクロロプレンを扱う労働者を想定した実験であり、空気中濃度の影響を評価している。クロロプレンは発癌物質である1,3−ブタジエンと化学構造が似ている。そこで、本論文ではラットとマウスを用いてクロロプレン吸入による発癌性に関する実験的研究を行っている。 

<実験方法>

1.曝露動物

1)50匹の雄ラットと50匹の雌ラット(F344/N

2)50匹の雄マウスと50匹の雌マウス(B6C3F1

 

2.クロロプレン曝露条件

1)空気中のクロロプレン濃度

No.

曝露濃度 (ppm)

0.0

12.8

32.0

80.0

2)曝露時間

6時間/日、5日/週を2年間継続

クロロプレン取り扱い工場の労働者を想定したもの

 

<実験結果>

1)癌が発生した器官

ラット: 口腔、甲状腺、肺、腎臓、乳線

マウス: 肺、循環システム、ハーダー腺、腎臓、胃、肝臓、乳腺、皮膚、腸間膜、Zymbal腺腫

 

2)ワイブルモデルによる検証

マウスにおける腫瘍の発生割合/投与の関係はワイブルモデルに合致した。また、その評価にはED10を用いた。(10%発癌リスクが増加する曝露濃度)。また、1,3−ブタジエンでのED10の結果と一致した。 

1,3−ブタジエンはマウスに対して発癌物質であり、人体に対しても労働者が曝露した場合、リンパ器官や造血器官の発癌リスクの増大と関連づけられていた。 

1,3−ブタジエンのマウスに対する発癌性で最も影響が大きいのは、雌マウスの肺細胞の悪性転換であった。またその時のED10値は0.3ppmだった。ところが本論文におけるクロロプレンでの実験結果もマウスのED10値は0.3ppmであった。

 

3)各器官でのマウスとラットのクロロプレンによる発癌性比較

器官

マウスとラットの発癌性比較

マウス>ラット

腎臓

マウス<ラット

乳腺

マウス=ラット

 

著者らはマウスに対するクロロプレンの発癌性は、1,3−ブタジエンと同レベルであると結論づけている。

 


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