労働者におけるダイオキシンの癌リスク


1999年5月8日

CSN #046

1999年5月5日のアメリカAP通信やロイター通信で、アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)のスティーンランド博士らの研究論文が取り上げられています。この研究論文では、アメリカでダイオキシンに曝露する環境下で労働している作業者は、一般大衆に比べて発癌死亡率が非常に高いことを示しています。

以下のサイトに、オックスフォード大学が出版している研究論文の要約があります。

Journal of the National Cancer Institute, Vol. 91, No. 9, 779-786, May 5, 1999

http://jnci.oupjournals.org/cgi/content/abstract/91/9/779

 

<研究論文タイトル>

2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin2,3,7,8,−TCDD)に曝露した労働者における癌、心臓病、糖尿病

 

<研究者、所属>

Kyle Steenland, Laurie Piacitelli, James Deddens, Marilyn Fingerhut, Lih Ing Chang

アメリカ国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH

 

<問い合わせ先>

Kyle Steenland:キール・スティーンランド化学博士

世界保健機関(WHO)付属 国際癌研究機関(IARC

E-mail: steenland@iarc.fr

 

<概要>

1)背景

2,3,7,8,−TCDDは、数百種類あるダイオキシン類の中でも最強の毒性を有するダイオキシンである。国際癌研究機関(IARC)は、化学物質の人に対する発がん性を疫学および動物実験、短期試験の結果に基づいて各国の専門家による会議で討議し、分類評価を行っている。そのIARC が1997年に2,3,7,8,−TCDDを分類1の化学物質とした。(分類1:人に対して発がん性がある)この研究では、産業労働曝露における2,3,7,8,−TCDD(2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン)の発癌性について調査し、労働曝露マトリックス表を作成している。 

2)解析方法

寿命表技法とコックス線図を用いて、1942年から1984年までのアメリカ国内12の化学工場男性労働者5,132人の癌、心臓病、糖尿病による死亡率と 2,3,7,8−TCDD(以下TCDD)の関連性について統計的調査を行った。その中から労働環境などのデータからTCDD曝露を受けたとされるうち69%、つまり3,541人の群の曝露反応解析を行った。 

3)解析結果

解析結果はSMR(標準化死亡者数比率)で表現している。

疾病

SMR

95%信頼区間

備考

1.13

1.02−1.25

 

1.60

1.15−1.82

TCDD曝露濃度が最大の群

心臓病

やや増加傾向であったが、統計的には重要でないレベル

糖尿病

やや減少傾向であったが、統計的には重要でないレベル

4)総括

 

<補足>

ダイオキシンに曝露する可能性のある職場は以下の例がある。ダイオキシンは意図的に製造されるのではなく、製造過程や燃焼過程で副生成物として生み出される。

欧米では産官協力のもとダイオキシン対策が進んでおり、近年はダイオキシン排出量が削減している。これらの工場でもダイオキシンが発生しないように設備改善や製法改良が行われてきている。日本はようやくダイオキシン削減計画が宣言された段階である。 

また、今回の研究報告では発癌性の統計的調査研究が行われたが、ダイオキシンは内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)作用がある。そのため生殖器異常、精子数変化、メス化行動などの微量曝露による生殖障害研究が必要だと思う。


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