ヘテロサイクリックアミンの発癌抑制方法


1999年5月11日

CSN #047

 

肉や魚の焼け焦げを摂取すると癌になると言われるが、その中に極めて強力な突然変異原生を示す物質が含まれているためで、ヘテロサイクリックアミン(HCA)である PhIPGlu P 1MeIQMeIQx などが単離同定されている。その中で10種類ほどのHCAは、ラットやマウスの肝臓、前胃、大腸、小腸、乳腺、膵臓、膀胱などに発癌性が確認されている。特にPhIP は、雄ラットで大腸癌、雌ラットで乳癌を誘発することが確認されているため、欧米に多く見られる人間での大腸癌や乳癌への関連性が懸念されている。

サイエンスニュース Volume 155, Number 17 (April 24, 1999)では、HCAの発癌抑制方法について概説しているので紹介したいと思う。

 

サイエンスニュースの原文

URL: http://www.sciencenews.org/sn_arc99/4_24_99/bob1.htm

 

1,タルトチェリー

<参考文献>

1)Raloff, J. Arthritis care: Beyond tea and sympathy. サイエンスニュースScience News 155(April 17, 1999.): p247. 

2)Britt, C. . . . J.I. Gray, et al. 1998. Influence of cherry tissue on lipid oxidation and heterocyclic aromatic amine formation on ground beef patties. Journal of Agricultural and Food Chemistry 46(December):4891.

ある種の酸化防止剤がHCAの発癌を抑制することはこれまでも研究されているが、ミシガン州立大学の食物科学者イアン・グレーらが、タルトチェリーから1つの酸化防止剤を単離した。タルトチェリーの色素が肉に対する酸化防止剤として作用するらしい。 

グレーらはハンバーガーを焼いた時に発生するHCAを、タルトチェリーが抑制する能力について実験を行っている。ハンバーガーの肉を11.5%タルトチェリーに置き換えて試験した結果、10% PhIP 発生を抑制した。このタルトチェリー入りハンバーガーは、やや酸味を帯びており、マイルドなチェリーの味がするが、基本的にはハンバーガーの味であるという。

 

2,ビタミンE 

グレーらの研究チームは、味に影響を及ぼさないHCA抑制剤として、ビタミンEが効果的という研究を行っており、料理前の肉にビタミンEを添加すると、タルトチェリーと同様のHCA発生抑制効果が得られると報告している。 

グレーによると、1ポンドの牛肉に対して40ミリグラムのビタミンEを添加することで、HCA発生抑制効果が得られる。 

 

3,マリネード 

<参考文献>

Dingley, K.H. . . . J.S. Felton, and K.T. Turteltaub. In press. Adduct formation in the colon and blood of humans following exposure to a dietary-relevant dose of 2-amino-1-methyl-6-phenylimidazo[4,5-b]pyridine (PhIP). Cancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention. 

酢、ぶどう酒、油、香辛料などを合わせた漬け汁をマリネードと言い、肉や魚にマリネードを漬けた料理をマリネという。このマリネが肉に対してHCA発生抑制効果があることをロレンス・リバモア国立実験所 (LLNL) のジェームス・フェルトンとマーク・ナイズの研究チームが明らかにした。 

例えば砂糖、油、酢を混合したソースに一晩漬けた鶏肉を焼いた時、このソースに漬けていない鶏肉と比較して PhIP 発生量が1/10になる。 

しかしフェルトンによると、PhIP 発生量は抑制できても MeIQx 発生量が増加する。またその理由は、マリネード中の砂糖が MeIQx 生成触媒となっているとフェルトンらは考察している。最初に PhIP MeIQx よりもはるかに大量に存在するので、たとえマリネードによって MeIQx 発生量が2倍になっても全体的にはHCA発生量が抑制されているとフェルトンは説明している。 

また、ハワイ大学癌研究センターのプラティバ・ネルカーらが、一般的な照り焼きソース、ウコン−ニンニクマリネードに一晩漬けた牛肉を焼いて試験したところ、PhIP MeIQx 発生量が40%から65%抑制されたという研究結果を報告している。しかしトマトベースのソースでは、逆に2から3倍の PhIP、3から4倍の MeIQx が発生している。

 

4,マイクロ波 

前述のフェルトンのグループは、マイクロ波を2分間肉に照射してから焼くことによって、10%HCA発生量を抑制できるという研究結果を報告している。 

 

5,酒類 

<参考文献>Arimoto-Kobayashi, S., et al. 1999. Inhibitory effects of beer and other alcoholic beverages on mutagenesis and DNA adduct formation induced by several carcinogens. Journal of Agricultural and Food Chemistry 47(January):221.

岡山大学の秋本、小林らのグループは、モナスカス菌に含まれるある色素が遺伝子突然変異を防止することを発見した。希薄したビール、日本酒、ブランデーにモナスカス菌を添加したところ、HCAはほとんど変異原生を起こさなかった。 

また、日本酒、ブランデー、白ワインはHCAによるDNA損傷を抑制するが、その効果はビールの1/2で、ウイスキーの10倍であり、ノンアルコールビールでは効果がないと言う。 

彼らによると、ビールなどのアルコール飲料はある種のHCA発生を抑制するが、肉の焼け焦げで発生するPhIP MeIQxには効果がないそうだ。

 

他に紹介されている参考文献を以下に示します。

1)Mauthe, R.J. . . . and K.W. Turteltaub. 1999. Comparison of DNA-adduct and tissue-available dose levels of MeIQx in human and rodent colon following administration of a very low dose. International Journal of Cancer 80(Feb. 9):539. 

2)Augustsson, K., et al. 1999. Dietary heterocyclic amines and cancer of the colon, rectum, bladder, and kidney: A population-based study. Lancet 353(Feb. 27):703. 

3)Dingley, K.H. . . . and K.W. Turteltaub. 1998. Covalent binding of 2-amino-3,8-dimethylimidazo[4,5-f]quinoxaline to albumin and hemoglobin at environmentally relevant doses. Drug Metabolism and Disposition 26:825. 

4)Forman, D. 1999. Meat and cancer: A relation in search of a mechanism. Lancet 353(Feb. 27):686.

  

また関連情報が下記サイトにあるのでご参考下さい。

酸化防止剤の発がん性と癌予防作用(名古屋市立大学医学部第一病理学教室)

URL: http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/animal.dir/nenpo3.mokuzi3.html


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