2000年5月15日
CSN #135
塩化ビニル樹脂またはポリ塩化ビニル(PVC)は、様々な用途に用いられ、私たちの生活に深く浸透している汎用性の高いプラスチックスです。塩化ビニル樹脂の安全性について、2回に分けて概説します。本報ではPart1として、塩化ビニル樹脂の特徴と用途、添加されている成分について概説します。
塩化ビニル樹脂の歴史は古く、1835年にフランスで塩化ビニル樹脂の原料である塩化ビニル(VCM)が発見され、1838年に塩化ビニル樹脂が生成されました。1931年ドイツで工業化が開始され、第2次世界大戦中の1943年には、ドイツ、アメリカとも約36,000トン/年が生産されました[1]。その後年々成長を続け、1997年には世界中で2,673万トン/年が生産されました[2]。表1に塩化ビニル樹脂の特長と製品事例を示します。また、図1に1997年度の国内プラスチックス生産実績[3]、図2に分野別の塩化ビニル樹脂の使用割合[2][4]を示します。
表1 塩化ビニル樹脂の特長と製品事例
用途 |
特長 |
製品事例 |
食品包装材 |
・ 適度な柔らかさ ・ 透明性が優れる ・ ガス透過性が少ないので、食品保存性が優れる |
食品包装用ラップ、プラスチックボトルなどの容器 |
医療器具 |
・ 適度な柔らかさ ・ 透明性が優れる ・ 薬品に侵されにくい |
人工腎臓の血液回路(人体と透析器をつなぐ回路)、輸血器具(輸液チューブ、輸液バッグ)、カテーテルなど |
文具・玩具 |
・ 適度な柔らかさ ・ 丈夫さ |
書籍カバー、字消し、筆ペン、下敷き、トランプ、ビーチボール、簡易プール、ワッペン、人形など |
建材 |
・ 薬品に侵されにくい ・ 防音、防湿性が優れる ・ 施工性、耐久性が優れる ・ 燃えにくい(難燃性) |
壁紙、床材、天井材、塩ビサッシ、防水シート、サイディング材、水道管、電気絶縁テープ、電線被覆材など |
その他 |
・ 適度な柔らかさ ・ 丈夫さ |
農業用フィルム、テーブルクロス、ビニル製バッグ、自動車用内装材 |
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塩化ビニル樹脂は、図3に示す工程で製造されます。使用用途に応じて様々な添加剤が含まれますが、柔軟性を与えるために使用される可塑剤が含まれるかどうかによって、大きく硬質塩化ビニル樹脂と軟質塩化ビニル樹脂に分けられます。図4には塩化ビニル樹脂の用途別構成比率を示します[2]。
一般に可塑剤を10%- 60%程度配合している塩化ビニル樹脂を軟質塩化ビニル樹脂(軟質塩ビ)、可塑剤を配合していない塩化ビニル樹脂を硬質塩化ビニル樹脂(硬質塩ビ)と呼びます。 この可塑剤として、一般にフタル酸エステルが使用されます。また塩化ビニル樹脂は、成形加工時の熱による分解や、紫外線などの光による分解を防止するために、安定剤が添加されています。表2に塩化ビニル樹脂の主な配合[4]を、図5に1998年における可塑剤の種類と国内生産割合[5]、図6に塩化ビニル樹脂に使用される安定剤の種類と国内生産割合を示します[4][6]。
表2 塩化ビニル樹脂の添加剤の種類と役割([1][4]をもとに作成)
添加剤 |
役割 |
代表成分 |
含有量 |
安定剤 |
成形加工工程における熱分解(脱塩酸)防止、耐候性(太陽光、熱、水など気候に関する因子)向上 |
鉛系、有機スズ化合物、バリウム・亜鉛系、カルシウム・亜鉛系など |
1-8% |
着色剤 |
着色(外観)、耐候性向上 |
染料・顔料(有機顔料、酸化チタン、酸化鉄、クロムやカドミウム化合物など) |
最大15% |
可塑剤 |
柔軟性付与、機械的性質向上 |
フタル酸エステル類(DEHP, DBP, DINP, BBP, DIDPなど) |
10-60% |
充填剤 |
電気的、機械的性質向上 |
炭酸カルシウム、アスベスト、クレー、タルクなど |
最大50% |
滑剤 |
透明性、艶出し、表面仕上げ、印字性向上 |
ワックス、脂肪酸(ステリアリン酸など)、脂肪アルコールなど |
1-4% |
難燃材 |
難燃性(燃えにくい)付与 |
塩素化パラフィン、有機りん系化合物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなど |
10-20% |
※その他使用用途に応じて、発泡剤、帯電防止剤、衝撃改良剤が使用される。
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表2に示すように、塩化ビニル樹脂には様々な添加剤が含まれています。塩化ビニル樹脂の安全性を考える場合、これらの化学物質がどのような毒性を持っているか、またこれらの化学物質が環境中でどのような動きをするかが重要です。次報Part2では、塩化ビニル樹脂の生産・消費・廃棄の各ライフステージにおける、環境や健康面での安全性に焦点をあてます。
Author:東 賢一
<参考文献>
[1] 実用プラスチック事典, 産業調査会, May 1, 1993
[2] 塩ビ工業・環境協会統計資料
http://www.vec.gr.jp/
[3] 日本プラスチック工業連盟統計資料
http://www.jpif.gr.jp/
[4] ARGUS in association with University Rostock-Prof.
Spillmann, Carl Bro a|s
and Sigma Plan S.A., European
Commission DGXI.E.3, The
behaviour of PVC in landfill
Final Report, February 2000
http://europa.eu.int/comm/environment/waste/report7.htm
[5] 可塑剤工業界統計資料
http://www.kasozai.gr.jp/
[6] ポリ塩化ビニルの安定化の解明と安定化助剤の配合・効果の実際, ソフト技研出版部, 1984