ホームオーナーのための化学物質安全性


2001520

CSN #187

私たちは、洗剤などの家庭用品、化粧品、医薬品など何らかの合成化学物質を毎日使用しています。これらの合成化学物質は、私たちの生活に有用ではありますが、その取り扱い方によっては有害となるものもあり、商品の取扱説明書にある使用上の注意事項に従って使用する必要があります。

これらの合成化学物質を含む商品を誤って摂取することによって生じる中毒事例が毎年報告されており、国内では、財団法人 日本中毒情報センターの受信報告によると、起因物質別受信件数の内訳は図1のようになっており、家庭用品による中毒事例が多いことがわかります[1]。また、図2に示すように、家庭用品による中毒事例の内訳をみると、たばこ関連品、化粧品、洗浄剤など、使用する頻度の多い身近な商品が関連していることがわかります[1]

また、アメリカ合衆国では毎年約20万件もの中毒事例が発生し、そのうち約2,500人が死亡していると報告されています[2]。そこで、家庭内における化学物質の安全性に対し、どのようなことに注意しなければならないかについて、199310月にミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)Baker教授が行った大学公開講座「ホームオーナーのための化学物質安全性: Homeowner Chemical Safety」が、アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の国立農業安全性データベース(The National Ag Safety Database: NASD)に掲載されています[2]

この公開講座では、化学物質の保管、殺虫剤の使用、ラベル、容器、家庭での有害物質評価チェックリスト、中毒が生じた時の初期応急処置について概説されています。そこで本報では、これらの概要を以下に紹介します。

 

1.手の届かないところに化学物質を保管すること

引き出し、物入れ棚、戸棚、浴室や台所の流し台の棚、薬箱、地下室、ガレージなどのユーティリティを詳しく調べ、子供の手が届くところに次に示す製品がどれほどあるかチェックすること。

 

これらの商品の保管に関する注意事項の中から、特に重要と思われる内容を以下にまとめました。

  1. これらの商品は誤って飲み込むと、深刻な病気になったり、時には死に至ることがある。特に手に取るものを飲んだり食べたりする可能性がある子供たちが犠牲になりやすい。仮にそれが洗剤、殺虫剤、多量のアスピリンであったならば、悲劇になる可能性がある。そのためこれらの商品は、常に子供の手の届かないところに保管しなければならない。
  2. 最善の予防法は、保管庫に鍵をかけること。それができないのであれば、子供の手の届かないこところにこれらの商品を保管すべきである。
  3. 加圧スプレー容器の廃棄は特に注意が必要。内容物が、殺虫剤や農薬、塗料やラッカー、ヘアースプレーなどの可燃物や目への刺激物である可能性がある。可燃物を使用するときは、喫煙や火気使用に注意すること。加圧スプレーは高温になると破裂するので、焼却炉や加熱炉などで焼却廃棄してはいけない。商品ラベルに表示されている廃棄手順に従うこと。

 

2.殺虫剤の使用

殺虫剤の使用に関する注意事項の中から、特に重要と思われる内容を以下にまとめました。

  1. 殺虫剤については、使用するときに商品ラベルに表示されている注意事項をよく読むこと。特に、購入前、容器を開封する前、調合する前、殺虫剤を使用する前、空の容器や一部残っている殺虫剤の容器を入手する前に、商品ラベルに表示されている注意事項をよく読むこと。
  2. 殺虫剤を使用する時には、殺虫剤の有害性と着用すべき保護衣についてよく理解すること。
  3. 殺虫剤は、経口(口や消化器官)、経皮(皮膚)、呼吸(鼻や呼吸器官)を通じて摂取することができる。保護衣を着用することで、経皮や呼吸を通じた摂取を防止することができる。特に目に対しては注意が必要で、手の甲は手のひらよりも吸収性が高く、脇の下、首の後ろ、太ももの付け根、足は殺虫剤を吸収しやすい。
  4.  一般的な保護衣としては、長袖のシャツ、長ズボンは必須である。また素材は、目の細かい織布で作られるべき。殺虫剤の濃縮作業や有害性の高い殺虫剤を用いて作業するときは、ゴム製の保護手袋、ブーツ、ゴム製のエプロン、呼吸用保護マスクを着用すること。
  5. 作業エリアへのペット・子供・来客の侵入防止、作業者の殺虫剤吸入防止、十分な換気、調理器具・食器・食品付近での殺虫剤の使用を避ける等、商品ラベルに表示されている使用上の注意事項を確認すること。
  6. 室外で殺虫剤を使用する時は、微風や高湿度下では殺虫剤の周囲への拡散が少ないため、天候をよく考えること。
  7. 繁華街、湖、小川、牧場、住宅、学校、遊び場、病院、トマトなどの傷つきやすい作物への殺虫剤の散布は避けること。万が一散布しなければならない時は、低湿度時や風の強いときは散布を中止し、これらの地域の風下に向かって散布すること。
  8. 殺虫剤噴霧器を清掃するために、洗浄液を使ってタンク・ホース・ノズルを洗浄し、家庭用アンモニア溶液で洗い流した後、水で洗い流すこと。また、完全に排水させて乾燥させるために、逆さまにしてタンクを保管し、錆防止のために定期的に軽質油を噴霧すること。
  9. 殺虫剤の噴霧及び後片づけを行った後は、保護衣を消毒し、使用した手袋は外す前に洗浄液で洗浄すること。そして洗浄した後、殺虫剤とは別の場所で保管すること。殺虫剤で汚染された保護衣は家庭用洗濯機では洗わないこと。汚れのひどい保護衣は、おそらく完全に洗浄できないので廃棄すること。殺虫剤を使用した後は、常に入浴すること。 

 

3.ラベル

商品の表示ラベルには、使用や貯蔵に関する重要な情報が含まれており、殺虫剤などの一部の商品では、予防に関する情報、有害性や緊急時の応急処置に関する情報が含まれていること、ラベルのキーワードは、可燃性・腐食性・有害性などの「危険性」、貯蔵や取り扱いに対する「警告」や「注意」であることが概説されています。

 

4.容器

中毒事例の原因には、ビールや飲料ボトルなどの容器の不適切な使用があり、子供にとって飲料ボトルは、その中に飲み物が入っていることを意味することをよく考えなければならない。そのため購入時に使用されていた容器で保管しなければならないこと、移し替える時は商品の表示ラベルも貼り替えること、容器の再利用は行わないこと、洗浄して廃棄することなどが概説されています。

 

5.家庭内での有毒物質評価チェックリスト

家庭内での有害物質評価チェックリストとして、チェック場所とチェック項目が示されていますので、表1にその概要を示します。

表1 家庭内での有害物質評価チェックリスト[2]をもとに作成)

チェック場所

チェック項目

キッチン

  • 流し台の下に家庭用品がない。
  • 冷蔵庫や窓の下枠の上になどの開放場所やカウンターの上に薬がない
  • 全ての清掃用品、家庭用品、薬は、子供の手の届かないところにある。

浴室

  • 薬箱は定期的に清掃されていること。
  • 古い薬は廃棄されていること。
  • 全ての薬は、安全な販売時の容器で保管されていること。
  • 全ての薬、スプレー、粉、化粧品、マニキュア、整髪料などは、子供の手の届かないところにあること。

寝室

  • ドレッサーやベッド横のテーブルに薬をおかないこと。
  • 全ての香水、化粧品、粉体、におい袋は、子供の手の届かないところにあること。

洗濯室

  • 全ての漂白剤、石けん、洗剤、柔軟仕上げ剤、青着色剤、スプレーは、子供の手の届かないところにあること。
  • 全ての商品は、販売時の容器で保管されていること。
  • 全ての清掃用品は、子供の手の届かないところにあること。

ガレージ/地下室

  • 殺虫剤は、鍵のかかった場所にあること。
  • ガソリンやカー用品は、鍵のかかった場所にあること。
  • テレピン油、塗料、塗料関連製品は、鍵のかかった場所にあること。
  • 全ての商品は、販売時の容器で保管されていること。

その他

  • アルコール飲料は、子供の手の届かないところにあること。
  • 灰皿は空にするか、子供の手の届かないところにあること。
  • 植物は、子供の手の届かないところにあること。
  • 家庭用品や個人所有物などは、子供の手の届かないところにあること。

 

6.中毒が生じた時の初期応急処置

本件に関しては、個々の事例によって対処方法が異なるので概説は省略します。また、もし何らかの商品による中毒が生じた場合、国内では財団法人 日本中毒情報センターにある中毒110番の電話サービスへすぐに問い合わせて指示を受けて下さい[3]

表2 財団法人 日本中毒情報センターの中毒110番・電話サービス案内[3]をもとに作成)

項目

概要

たばこ中毒110

テープ応答(一般市民)無料:06-6875-5199

大阪中毒110

24時間・年中無休(情報料1分間100円+通話料)

0990-50-2499(ダイヤルQ2)

06-6878-1232(医療機関専用有料電話: 1件 2,000)

つくば中毒110

9時−17時・12/31から1/3を除く
(情報料1分間100円+通話料)

0990-52-9899(ダイヤルQ2)

0298-51-9999(医療機関専用有料電話: 1件 2,000)

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1]財団法人 日本中毒情報センター,受信報告(1998, 1999年度)
http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf

[2] David E. Baker,the University Extension University of Missouri-Columbia, “Homeowner Chemical Safety”, G01918, October 1993
http://www.cdc.gov/niosh/nasd/docs2/as23900.html

[3]財団法人 日本中毒情報センター、中毒110番・電話サービス
http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf


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