アメリカ毒性物質疾病登録機関(ATSDR)による有害物質の優先リスト


1999年11月2日

CSN #106

アメリカの厚生省(HHS)と毒性物質疾病登録機関(ATSDR)は、19991021日付けのアメリカ連邦公報(Federal Register)で、1999年度版「CERCLA有害物質優先リスト」を作成したと発表しました[1] 

このリストは、2年ごとにアメリカ環境保護庁(EPA)と毒性物質疾病登録機関(ATSDR)の最新情報をもとに改訂されており、公衆衛生に重大な影響を与える化学物質、あるいは有害廃棄物と確定された化学物質を、優先順位を付けてリストアップしたものです。 

またこのリストの化学物質には、スーパーファンド改正・再承認法(SARA: Superfund Amendments and Reauthorization Act)に基づき改訂される、包括的環境対応補償責任法(The Comprehensive Environmental Response, Compensation and Liability Act: CERCLA or Superfund)の国家優先リスト(NPL)に挙げられている処理場で対象とされる、最も一般的な化学物質が含まれています。CERCLAは有害廃棄物の処理・浄化に関する法律で、例えば過去に廃棄物処理を依頼した処理場など、過去に遡って浄化責任があるとされる処理場を含め、国家優先リスト(NPL)にリストアップされています。 

CERCLA有害物質優先リスト」は、毒性物質疾病登録機関(ATSDR)が計画している毒性物質プロファイルの候補となる化学物質です。275の有害物質がリストアップされていますが、19991021日付けのアメリカ連邦公報(Federal Register)では、そのうちの上位25の化学物質が公表されています。1997年度、1995年度のCERCLA有害物質優先リストと併せて上位ランク25の化学物質を表1に示します。また、1997年度のランク26からランク275までの化学物質の中から、最近よく取り上げられる化学物質を追加しました。 

表1 毒性物質疾病登録機関(ATSDR)による年代別有害物質の優先リスト[1][2]をもとに作成)

ランク

1999

1997

1995

1

ヒ素

ヒ素

2

ヒ素

3

水銀

水銀

水銀

4

塩化ビニル

塩化ビニル

塩化ビニル

5

ベンゼン

ベンゼン

ベンゼン

6

ポリ塩化ビフェニール(PCBs)

ポリ塩化ビフェニール(PCBs)

ポリ塩化ビフェニール(PCBs)

7

カドミウム

カドミウム

カドミウム

8

ベンゾ[a]ピレン

ベンゾ[a]ピレン

ベンゾ[a]ピレン

9

多環芳香族炭化水素(PAHs)

ベンゾ[b]フルオランテン

クロロホルム

10

ベンゾ[b]フルオランテン

多環芳香族炭化水素(PAHs)

ベンゾ[b]フルオランテン

11

クロロホルム

クロロホルム

DDT, P,P'-

12

DDT, P,P'-

AROCLOR 1254

AROCLOR 1260

13

AROCLOR 1260

DDT, P,P'-

トリクロロエチレン

14

AROCLOR 1254

AROCLOR 1260

AROCLOR 1254

15

トリクロロエチレン

トリクロロエチレン

6価クロム

16

6価クロム

6価クロム

クロルデン

17

ジベンゾ[a][h]アントラセン

ジベンゾ[a][h]アントラセン

ジベンゾ[a][h]アントラセン

18

ディルドリン

ディルドリン

ヘキサクロロブタジエン

19

ヘキサクロロブタジエン

ヘキサクロロブタジエン

DDD, P,P'-

20

DDE, P,P'-

クロルデン

ディルドリン

21

クレオソート

クレオソート

ヘキサクロロシクロヘキサン

22

クロルデン

DDE, P,P'-

DDE, P,P'-

23

ベンジジン

ベンジジン

クレオソート

24

アルドリン

シアン化合物(青酸カリなど)

シアン化合物(青酸カリなど)

25

AROCLOR 1248

アルドリン

AROCLOR 1242

・以下1997年度のランクから抜粋

42

-n-ブチルフタレート

143

パラチオン

61

トルエン

173

アセトン

66

2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)

217

二酸化窒素

67

-2-エチルヘキシルフタレート

222

オゾン

83

全キシレン

235

ホルムアルデヒド

86

アスベスト

236

ピレン

97

ラドン

254

メチルパラチオン

114

メチル水銀

258

スチレン

133

トリブチルスズ

267

マラチオン

 

表1のリストを見ると、電池や電子基板などの廃棄物で問題になっている重金属類(ヒ素、鉛、水銀、カドミウム、6価クロム)、塩化ビニル樹脂の原料となる塩化ビニル、工場や自動車などの排出ガスから放出されるベンゼン多環芳香族炭化水素(ベンゾ[a]ピレン、ベンゾ[b]フルオランテン、ジベンゾ[a][h]アントラセンも含まれる)、カネミ油症事件、ベルギーダイオキシン汚染を引き起こしたポリ塩化ビフェニール類AROCLOR類)、溶剤および化学的中間体として殺虫剤の製造に用いられるクロロホルム、電子・電気産業などで部品洗浄溶剤として使用され、工場の地下水で検出されて問題になったトリクロロエチレン、木材の防腐剤に用いられるクレオソート、綿用染料の原料として使われていたベンジジンなどが上位にランクされています。特に多環芳香族炭化水素(PAHs)が、1997年度から上位にランクされていることは特筆すべきことです。多環芳香族炭化水素に関しては、毒性や曝露経路など未解明な部分が多く、今後注意すべき化学物質とされています。 

国連環境計画(UNEP)が対象としている12種類の残留性有機化合物(POPs)リスト[3]の農薬DDT、ディルドリン、クロルデン、アルドリン)が上位にランクされており、これらの農薬の多くは、先進国では製造・使用・販売が禁止されています。しかし残留性・蓄積性が高く、土壌、底質、魚貝類、鳥類などで未だに検出されています。 

しかしながら、最近大きな問題として取り上げられているダイオキシン類内分泌攪乱化学物質(ジ-n-ブチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、トリブチルスズ、スチレンなど)、室内空気汚染物質(トルエン、全キシレン、ラドン、アセトン、二酸化窒素、ホルムアルデヒドなど)は、ややランクが低くなっています。

 

CERCLA有害物質優先リストは、表2の3つの要素に基づいて計算されランク付けされています。国家優先リスト(NPL)の場所が重要視されていますので、ダイオキシン類、内分泌攪乱化学物質、室内空気汚染物質などがリストの下位になることがあります。また、アメリカのリストですので、日本や欧州では状況が異なることも考慮しなければなりません。 

だた、地球環境汚染全体を考えた場合、優先的に対策を行わなければならない有害化学物質にどのような化学物質があるのか、また、その優先順位がどうなっているのかにいついて総合的に見ることができます。 

表2 CERCLA有害物質優先リストの作成で考慮される3つの要素[2]をもとに作成)

No.

要素

1

国家優先リスト(NPL)の場所でよく検出される

2

毒性

3

国家優先リスト(NPL)の場所で検出される化学物質に対するヒトの曝露の可能性

 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] Federal Registerアメリカ連邦公報, Vol.64, No.203, p56792-56794, October 21, 1999
http://www.access.gpo.gov/su_docs/fedreg/a991021c.html
 

[2] 毒性物質疾病登録機関(ATSDR)275種類の有害物質優先リスト(1997年度)
http://atsdr1.atsdr.cdc.gov:8080/97list.html
 

[3]「残留性有機汚染物質(POPs)」国立医薬品食品衛生研究所 化学物質情報部
http://www.nihs.go.jp/hse/chemical/pops/index.html


「住まいの科学情報センター」のメインサイトへ