各国のダイオキシン類排出量の目録
1999年11月16日
CSN #109
ダイオキシン類は、これまで問題になった農薬DDTや、絶縁油などの工業製品ポリ塩化ビフェニール(PCBs)などとは汚染の構造が異なり、新しいタイプの汚染物質です。非意図的生成物といって、ダイオキシン類を生成させようとして生成されるのではなく、塩素を含む都市ごみの焼却、野焼き、金属精錬などの過程で生成されます。そのため、ダイオキシン類の使用・製造・販売禁止などの措置によって汚染を阻止できないタイプの汚染物質です。
ダイオキシン類の生成機構はいくつかありますが、最も重要な生成機構は廃棄物の焼却などの燃焼過程であり、現在問題となっている焼却施設でのダイオキシン類生成の主要部分はこの過程での生成機構によるものです。この生成機構は、別名de novo反応と呼ばれています。基本的な反応は、炭素原子、塩素原子、酸素原子が高温で共存すると、ラジカル反応によりダイオキシン類をはじめとする有機塩素化合物が生成します。最も単純な例としては、プロパンやアセチレンに塩化水素を混入して燃焼すると、ダイオキシン類を含む多くの有機塩素化合物が生成します。焼却施設で燃焼したごみの内容は多種多様であるにも関わらす、生成するダイオキシン類の異性体分布が極めて類似していることから、単純なラジカル反応による有機塩素化合物の生成機構が想定されます[1]。
またダイオキシン類の生成は、300℃付近で極大が観察されており、ダイオキシン類の生成を抑制するためには、高温で活性化あるいは分解した廃棄物や生成物が、この温度になる時間をできるだけ少なくする必要があります。そのため、1,000度以上の高温で焼却したり、排出された灰やガスを、その後一気に190度まで冷却する技術などが開発されています。
塩ビ樹脂を焼却するとダイオキシン類が生成するかどうか意見が分かれていますが、燃焼条件によって生成しやすさが変わるので、そのような議論はあまり意味がないと思われます。また、生成量を少なくする焼却制御を行うためには、高額な設備投資とメンテナンスが必要なため、事業収支を考えるとこのような設備投資を一般に行うことは、実質的には困難であると考えられます。ですから、「有害化学物質の発生を少なくするように塩ビを焼却することが難しいため、塩ビは削減すべきである。」との考え方がベターだと思います。
化学工業製品に必要な原料を合成するために、塩化ナトリウム(塩)から苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を得ています。その際に、塩素が余剰物質として生成されます。塩ビは、その塩素を用いて作られます。そのため塩ビを削減することは、この塩素の活用方法を考えなくてはなりません。苛性ソーダ製造の代替法なども検討されており、この塩素の問題は、塩ビ削減にあたり今後解決すべき重要課題の1つです。
塩ビのリサイクルも検討されていますが、リサイクル用途の開拓、劣化の問題など解決すべき困難な問題がたくさんあります。基本的には、塩ビは削減すべきだと思います。
少し脱線しましたが、ダイオキシン類の排出削減に対しては、これまで世界各国で多くの取り組みがなされてきました。そして、ダイオキシン類の排出量の目録(インベントリー)が公表され、年度別にその状況が把握できるようにされています。図1から図4までに日本、アメリカ、オランダ、カナダの各環境省庁が公表した、大気中への発生源別ダイオキシン類排出量を、また図5に各国の大気中へのダイオキシン類総排出量を示します([2][3][4] [5]をもとに作成)。
図1、2、3、4から明らかなように、ダイオキシン類の排出は、家庭から排出される一般ごみ、産業廃棄物、病院などから排出される医療廃棄物が大きな比率を占めています。ダイオキシンの排出を抑制するためには、廃棄物焼却技術の向上も必要ですが、最も根本的な問題は、私たちの生活や企業活動から排出される廃棄物です。図6に国内の一般廃棄物と産業廃棄物の年度別排出量、図7に一般ごみの年度別リサイクル率、図8に1996年度の産業廃棄物の種類別排出量を示します([6][7]をもとに作成)。
*リサイクル率(%)=(資源化量+集団回収量)/(計画処理量+集団回収量)× 100
図6から明らかなように、一般廃棄物及び産業廃棄物は、ほとんど横這いのまま推移しています。また図7から明らかなように、一般ごみのリサイクル率は、徐々に増加しています。図8からは、企業の事業活動によって排泄される汚泥が産業廃棄物の約半分を占め、動物の糞尿と建設資材を合わせると約8割を占めていることがわかります。次に、1996年度の最終処分場の残余容量及び残余年数はを表1に示します。
表1 1996年度の最終処分場の残余容量と残余年数
最終処分場 |
残余容量(万m3) |
残余年数(年) |
|
一般廃棄物 |
14,150 |
8.8 |
|
産業廃棄物 |
全国 |
20,767 |
3.1 |
首都圏 |
1,910 |
1.0 |
廃棄物の問題は、深刻な問題となっています。それにも関わらず、廃棄物の排出量は減少する傾向が見られません。一般ごみのリサイクル率は増加していますが、まだまだ低いレベルです。最終処分場の残余容量と残余年数は、いぜんとして厳しい状況にあります。ヨーロッパでは、4Rというごみ削減の原則があります。4Rの概要について表2に示します。
表2 4Rの概要
4R |
概要 |
Refuse(リフューズ) |
ゴミをなくす |
Reduce(リデュース) |
ゴミを減らす |
Reuse(リユース) |
再利用する |
Recycle(リサイクル) |
再生する |
このようなごみ削減の原則を参考にしながら、私たち自身一人一人において、ごみを削減する努力がこれまで以上に必要です。
これまで述べたように、狭い国土にも関わらず、日本の大気中へのダイオキシン類排出量は世界1です。また、主要なダイオキシン類排出源となっている廃棄物の排出量は、減少する傾向が見られません。1999年3月19日に、日本政府のダイオキシン対策推進基本指針として、2002年にダイオキシン類総排出量を1997年比で約9割削減する目標が、ダイオキシン対策関係閣僚会議で正式に決定しました。つまり2002年には約600から700gTEQ/年まで低減する目標です。しかし図5の各国のデータと比較すると、2002年に目標としている日本のダイオキシン類排出量はそれでも多いと言えます。つまり、2002年以降もさらに段階的な対策が必要だと言えます。
Author:東 賢一
<参考文献>
[1] 安原昭夫、ぶんせき、Vol.7, p512-519, 1998
「ダイオキシン類生成メカニズム」
[2]「ダイオキシン排出抑制対策検討会第二次報告について」環境庁大気保全局大気規制課、1999年6月25日
http://www.eic.or.jp/kisha/199906/59539.html
[3] アメリカ環境保護庁, EPA's National Center for Environmental
”Inventory of Sources of Dioxin in the United
States” (EPA/600/P-98/002Aa, April 1998).
http://www.epa.gov/ncea/diox.htm
[4] オランダ環境庁
オランダ留学中の方から情報をいただきました。
[5] カナダ環境庁
http://www.ec.gc.ca/dioxin/english/index.htm
“Dioxins and Furans Release Inventory Report
“(January 1999)
[6] 「平成8年度の一般廃棄物の排出及び処理状況等について」厚生省 水道環境部環境整備課、1999年8月30日
http://www.mhw.go.jp/search/docj/houdou/1108/h0830-3_14.html
[7] 「産業廃棄物の排出及び処理状況等について」厚生省 水道環境部環境整備課、1999年2月18日
http://www.mhw.go.jp/search/docj/houdou/1102/h0218-3_14.html#no1