発展途上国における室内空気汚染


20011126

CSN #214

近年、特に発展途上国では、調理時や暖房時に排出される燃焼排出物による室内空気汚染が非常に深刻な問題となっています。図1に示すように、世界保健機関(WHO)は、室内環境中で高濃度の粒子状物質に曝露することによって毎年280万人が死亡しており、そのうち90%が開発途上国であると推算しています[1][2]

またこの問題は、20009月のWHOの報告書(Bulletin of the World Health Organization)の中で、次のように述べられています[2]

「発展途上国の大半の人々は、家庭用燃料を、石炭、木材、糞尿、作物の残りなどに頼っており、不完全燃焼を伴う簡易コンロで燃やされる。その結果、女性や子供たちは、毎日高濃度の室内空気汚染物質に曝露される。室内空気汚染物質は、子供において、慢性的な閉塞性肺疾患や急性呼吸器感染症(ARI)のリスクを増加させ、発展途上国の5歳以下の子供において、最も重要な死亡原因となっている堅実な証拠がある。またさらに、低体重児出生、周産期死亡率、肺結核、鼻咽腔がん、喉頭がん、肺がん(特に石炭燃焼)のリスク増加に関連している堅実な証拠がある。ただし喘息に関しては、矛盾した証拠が存在している。これまで研究の大半は、直接的に曝露濃度が測定されておらず、観察上での研究であるため、リスクの定量化が不十分で、バイアスが含まれている可能性がある。しかしながら、室内空気汚染物質への曝露は、発展途上国において200万人を超える人々の死亡原因であり、世界中の病気の約4%が室内空気汚染物質への曝露である可能性がある。室内空気汚染は、研究及び政策立案において、さらなる努力が必要とされる、世界的に主要な公衆衛生上の問題である。健康影響に対する研究は、特に、肺結核や急性下気道感染症(ALRI)への関連性に対して強化されるべきであり、室内空気を汚染する燃料において、貧困性と依存性の相互関係に対するより明瞭な認識とともに、よりいっそう体系的なアプローチが望まれる。」

 

図1から明らかなように、発展途上国における室内空気汚染は、都会よりも地方において問題が大きいことがわかります。私たちの健康に影響を及ぼす重要な燃焼排出物としては、粒子状物質、一酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物、ホルムアルデヒド、多環芳香族炭化水素(PAHs)があります。粒子径が10ミクロン以下の粒子状物質はPM10と呼ばれていますが、その中でも粒子径が2.5ミクロン以下の粒子状物質はPM2.5と呼ばれています。特に、PM2.5は粒子径が小さいために肺の奥深くまで入り込み、深刻な影響を及ぼすと考えられています。

発展途上国の地方では、例えば地面に掘ったピットや穴を利用した開放型のコンロやストーブが使用されているため、不完全燃焼を生じるケースが多く、換気が不十分なことも相まって、高濃度の室内空気汚染物質が発生しています。

WHOでは空気質ガイドラインにおいて、粒子状物質に対するガイドラインは定められていません[1]が、アメリカ環境保護庁(USEPA)による空気中の基準値は、24時間平均値でPM10150μgm3PM2.565μgm3と定められています[2][3]。しかしながら、発展途上国の地方では、PM1024時間平均値が300-3,000μgm3、調理時には30,000μgm3に達する可能性があると報告されています[2]

このような中、2001825日付けの英医学雑誌ランセットにおいて、WHOEzzati博士らが「アフリカのケニヤにおける燃焼排出物からの室内空気汚染と急性呼吸器感染症(ARI)に対する曝露/応答研究」を発表しました[4]

この研究では、1996-1999年にかけて、無作為に抽出した55の家庭(5-49229人、5歳未満の子供93人、)の室内におけるPM10の濃度が継続的に測定され、急性呼吸器感染症(ARI)と急性下気道感染症(ALRI)における縦断的データ(Longitudinal data)が臨床試験によって毎週記録され、図2及び図3に示す結果が得られました。図2及び図3から明らかなように、PM10への曝露濃度の増加に伴って、ARIALRIに対する過剰リスク(excess risk)が増加し、特にPM10濃度が約1,000-2,000μgm3からそのリスクの増加が著しく、逆にPM10濃度を約1,000-2,000μgm3より低く抑えることによって、PM10曝露による影響を大きく低下できる可能性があるという結果が得られました[4]

 

先進工業国のように、燃焼排出物が極力低減された燃焼機器や換気設備が十分に備わっていない発展途上国の地方では、燃焼排出物による室内空気汚染によって、いまだに非常に大きな公衆衛生上の問題が生じています。世界中の人たちが健康的な室内空気環境が得られるように、先進工業国による国際協力活動によって、これらの問題に対して積極的に取り組んでいく必要があります。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1]World Health Organization (WHO), Geneva, “Air quality guidelines”, December 10, 1999
http://www.who.int/peh/air/Airqualitygd.htm

[2] Nigel Bruce, “Indoor air pollution in developing countries: a major environmental and public health challenge”,Bulletin of the World Health Organization, Vol. 78, No. 9, pp1078- 1092, 2000
http://www.who.int/

[3] USEPA Office of Air Quality Planning and Standards (OAQPS), “National Ambient Air Quality Standards (NAAQS)”, The Clean Air Act, 1990
http://www.epa.gov/airs/criteria.html

[4]Majid Ezzati et al., “Indoor air pollution from biomass combustion and acute respiratory infections in Kenya: an exposure-response study”, Lancet, Vol. 358, pp619-624, August 25, 2001
http://www.thelancet.com/


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