デンマークの室内気候ラベル
2000年10月2日
CSN #155
室内空気に影響を及ぼす因子としては、揮発性有機化合物(VOC)・粉塵(粒子状物質)などの化学的因子、ダニ・カビなどの生物的因子、音・振動・ラドン・電磁波などの物理的因子があります。その中でも特に化学的因子である揮発性有機化合物(VOC)・粉塵には、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンセン、ベンゾ[a]ピレン、たばこの煙、アスベストなど、代表的な室内空気汚染物質があります。
室内空気汚染を減少させるためには、汚染源となる材料が、汚染物質を放散しないことが重要です。日本では、合板とパーティクルボードにホルムアルデヒドの放散量、壁紙ではホルムアルデヒド、塩化ビニルモノマー、重金属、総揮発性有機化合物(TVOC)の放散量に対する基準値が設定されています。
しかしながら、室内空気を汚染する場合、室内に存在する材料単体の放散量よりも、室内に使用された製品全体の放散量が重要です。たとえば極端な例ですが、ある合板単体が単体放散量の基準値をクリアーしていたとしても、その合板を大量に使用した床材、壁材、天井材、家具に囲まれた室内では、極微量放散した揮発性有機化合物(VOC)が濃縮されることによって、高い室内濃度となる可能性があります。そのため、実際の室内濃度に換算して評価する必要があります。
デンマーク室内気候協会(Danish Society of Indoor Climate)とノルウェー室内気候フォーラム(Norwegian Forum of Indoor Climate)は、建築材料と室内で使用する製品に対して、室内気候ラベル( THE INDOOR CLIMATE LABEL )というラベルを表示する仕組みを作ってきました[1]。
これは、デンマークで室内気候ラベリング(The indoor climate labelling)という独立した組織を作り、デンマーク室内気候協会が作成した標準試験方法および製品基準に基づいて、室内気候ラベリング(The indoor climate labelling)がラベル認証を発行する仕組みとなっています。この仕組みの目標は、室内空気質(Indoor Air Quality)を改善するためであり、次の狙いを定めています。また、この仕組み作りに関する経緯を表1に示します。
表1 室内気候ラベルの経緯
時期 |
概要 |
1994年12月 |
建築材料からの放散量測定のための標準試験方法(1997年1月に付属文書改訂) |
1996年 8月 |
室内ドア、折り畳み式間仕切りの製品基準(第1版) |
1997年10月 |
建築材料からの粉塵放散量測定のための標準試験方法(第1版) |
1997年10月 |
天井、壁システムの製品基準(第2版) |
1998年 1月 |
クッションフロアー、木質床、貼合わせフローリングの製品基準(第1版) |
1998年 1月 |
木質製床用オイルの製品基準(第1版) |
1998年 5月 |
窓、外装ドアの製品基準(第1版) |
1998年 9月 |
キッチン、浴室、洋服収納棚 |
2000年 6月 |
一般的なラベリング基準(第1版) |
2000年 6月 |
カーペットの製品基準(第2版) |
*2000年8月現在での室内気候ラベル対象製品
室内気候ラベルの認証を得るためには、デンマーク室内気候協会が作成した標準試験方法と製品基準が用いられます[2]。この試験方法では、揮発性有機化合物(アルデヒド、アミン、イソシアネート、酸、硫黄を含む化合物など)と粉塵(粒子状物質)を測定します。ただし粉塵は、天井システムだけに適用されます。
1.揮発性有機化合物(VOC)の試験評価
VOCの試験評価は、第1段階の化学分析試験と、第2段階の感覚チェック試験の2段階があります。これら2つの試験に合格すれば、室内気候ラベルが認証されます。
1)化学分析試験
VOCは、小型試験チャンバー(小さい試験室)内に対象製品のサンプルを入れて、定められた標準試験条件で測定します。そして、その数値を用いて表2に示す標準試験室(standard room)での濃度に換算します。各製品の測定対象VOCは、事前に放散されるVOCを初期スクリーニングによって選定します。
表2 標準試験室の概要
項目 |
設定値 |
|
標準試験室 |
全容積 |
17.4 m3 |
各製品の面積 |
床材 |
7 m2 |
天井材 |
7 m2 |
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壁材 |
24 m2 |
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ドア表面 |
2 m2 |
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窓枠 |
0.2 m2 |
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シーラント |
0.2 m2 |
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建具 |
4 m2 |
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試験条件 |
換気率 |
0.5回/時間 |
温度 |
23度 |
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湿度 |
50%RH |
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気流速度 |
0.15m/s |
測定対象とする各VOCの濃度が許容濃度に低下するまで測定し、室内適合時間値(Indoor-Relevant Time Value)を求めます。これは許容濃度に達するまでの、標準試験条件における標準試験室での時間を示します。この許容濃度は、800種類以上の揮発性有機化合物それぞれにおける、臭いと粘膜刺激(目、鼻、気道)の閾値をデータベース化した、デンマーク国立労働衛生研究所(Denmark National Institute of Occupational Health)のVOCBASE[3]をもとに、臭いの閾値(OT)と粘膜刺激の閾値(IT)の小さい方の1/2の値が用いられます。
例えば室内適合時間値が10日という結果がでた場合、10日後に据付すれば、臭いを感じたり、粘膜刺激を感じることがおそらくない、ということを意味します。そしてラベル認証を得るための最大時間値よりも小さければ、第1段階は合格となります。
2)感覚チェック試験
感覚チェック試験は、臭いの強度(intensity:全く臭わない−激しく臭う)と、臭いの許容度(acceptability:許容可能−許容不可能)を用いて評価されます。この試験は、化学分析試験で得られた室内適合時間に達した時点で、評価されます。
例えば、許容可能な臭い「0」、適度な臭い「2」を室内空気質の基準値とします。そして室内適合時間に達した時点で、その基準値を満足しているかどうかで合否を判断します。
2.粉塵(粒子状物質)の試験評価
粉塵の試験は天井システムだけに適用されます。これは、化学分析試験で得られた室内適合時間の間、天井から落下してきた鉱物繊維などの粉塵をチャンバーの底部に集め、単位面積あたりの重量を測定します。次の3つの分類を用いて低または中であれば、室内気候ラベルが認証されます。
これら試験及び評価方法の詳細は、参考文献[1]に付属しているリファレンスをご覧下さい。
デンマーク室内気候協会が長年かけて構築してきた室内気候ラベルは、健康的な室内空気質を得るために、非常に有用なものとなっています。そして製造者の製品開発、建築設計者や消費者の製品選定の際に、有効に活用できます。
Author:東 賢一
<参考文献>
[1] Danish Society
of Indoor Climate, August, 2000
http://www.dsic.org/dsic.htm
[2] Wolkoff, P. and Nielsen, P.A. A New Approach for Indoor Climate Labelling of Building Materials - Emission Testing, Modelling and Comfort Evaluation. Atmospheric Environments, Vol. 30, 1996. pp. 2679-2689.
[3] Jensen B. and Wolkoff P. VOCBASE - A database on odor thresholds and mucous membrane irritation thresholds. 45th Nordic Meeting on working environment, NAM '97, Rebild, September 1997.