アメリカの学校におけるIAQ問題


2000年10月9日

CSN #156

室内空気質(Indoor Air Quality:以下IAQ)あるいは室内気候(Indoor Climate)に起因する健康影響の問題は、1970年代後半に北米で生じたシックビルディング症候群(SBS)や、最近国内で社会問題化しているシックハウス症候群などがあります。これらの問題は、一般住宅、公共施設、オフィス、学校などの室内空間における「室内空気質:IAQが重要であり、空気質に影響を与える因子としては、揮発性有機化合物(VOCs)・粉塵などの化学的因子、カビ・ダニ・細菌などの生物的因子、温度・湿度・音振動・電磁波・ラドンなどの物理的因子があります。

オフィスのIAQ問題としては、1985年アメリカ環境保護庁(USEPA)の新しい庁舎においてシックビルディング症候群(SBS)が生じたことは有名ですが、アメリカでは子供の健康保護に対する取り組みが活発で、身体が発育途上にある子供たちにとって、学校におけるIAQ問題は最優先事項として取り組むべきだと言われています[1] 

また、アメリカ会計検査院(GAO)の報告書[2][3]によると、アメリカの学校の約20%IAQ問題を抱えており、840万人の子供たちが影響を受けており、約36%の学校においてHVAC (Heating: 暖房, Ventilating: 換気, Air Conditioning: 空調の略称)システムの能力が不十分であると報告しています。特にアメリカ肺協会(ALA)の喘息に関する報告書によると、年齢別では18歳未満の子供の喘息数が最も多く、1982年以来、年々増加傾向となっており、IAQ問題との関連が懸念されています[1][4]

このような状況から、ジョージア技術研究所(GTRI)Charlene Bayer博士(アメリカ暖房冷凍空調学会(ASARAE)の会員)らは、アメリカエネルギー省(DOE)の研究プロジェクトとして、アメリカのジョージア州にある10の学校におけるIAQ問題について調査した結果を報告しました[1] 

この調査の目的は、学校におけるIAQ問題に関して、連続換気システムと湿度コントロールの影響と、どのようなレベルであると不満がでないかを調査することでした。 

調査した10の学校は、これまでIAQ問題がなかった学校で、そのうち5つの学校は、湿度コントロールシステム(加湿/除湿の両方の機能付)が設置されていました。そして二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、揮発性有機化合物(VOCs)、細菌由来の揮発性有機化合物(MVOC)、粒子状物質、空気中の細菌、温度、相対湿度、換気率を測定しています。全てのデータの解析が完了していませんが、教室内の二酸化炭素(CO2)濃度、空気中の細菌数、総揮発性有機化合物(TVOC)濃度と、一人当たりの気流(1cfm=0.5 l/s)との関係について、報告されています。図2にはその中からTVOCと気流の関係について示します[1]。また表1には、今回調査した10の学校のHVACシステムに関わる問題点を示します。 

図2から明らかなように、調査した10の学校のHVACシステムは十分でないため、気流の値がASHRAE推奨値:15 cfm/人(1秒あたり7.5リットル)を満足していませんでした。それでも気流が高く湿度コントロールシステムが設置されている学校の教室では、TVOC濃度が低い傾向がみられました。またこの傾向は、二酸化炭素(CO2)でも同様でした。しかし室内空気中の細菌数との間では、その傾向は弱いものでした。ただし湿度コントロールシステムを有する学校では、外気の細菌数よりも教室内の細菌数はかなり減少していました。 

 

表1 調査した学校のHVACシステムに関わる問題点

No.

問題点の概要

1)

この中の2つの学校では、湿度コントロールシステムの設置状況に問題があり、正常に動作していないシステムがあった。湿度コントロールシステムが連続的に湿度コントロールと換気を行うことを、システムの管理者が理解していなかった。また、管理者たちは湿度がそれほど高くなかったので、運転する必要がないと判断していた。

2)

他の学校では、教員や職員が室内汚染物をコントロールする必要性を全く理解していなかった。美術や図工に使用する材料(塗料や絵の具、接着剤など)には、室内空気汚染源となる材料がある。複写機などの機器が、排出ガスの換気口もなく、無計画に教室に配置されていた。

Charlene Bayer博士らは、1)学校職員が換気システムの動作方法を理解していない、2)例えば芳香剤や美術材料(塗料や絵の具、接着剤)など、どのような空気汚染物が教室内にあるかを理解していないこれらのことが学校のIAQ問題の原因であるかもしれないと述べています。そして、積極的に湿度コントロールを行うことや、24時間換気システムなどの連続換気システムを使用することによって、IAQ問題を改善できると述べています。Charlene Bayer博士らは自身の研究結果に基づき、次の3つの項目を行うことによって、学校でのIAQ問題の大半を避けることができると述べています。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] Charlene W. Bayer, American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers (ASHRAE) IAQ Applications, Humidity Control And Ventilation in Schools, July 27, 2000
http://www.ashrae.org/ABOUT/iaqstudy.htm

[2] GAO (General Accounting Office), School Facilities: Condition of America’s Schools, GAO/HEHS-95-61, 1995

[3] GAO (General Accounting Office), School Facilities: America’s Schools Report Differing Conditions, GAO/HEHS-96-103, 1996

[4] American Lung Association, TRENDS IN ASTHMA MORBIDITY AND MORTALITY, February 2000
http://www.lungusa.org/


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