低ホルムアルデヒド仕様の室内におけるIAQ


2000年10月23日

CSN #158

住宅の内装材として使用される複合フローリングやパーティクルボードなどからは、ホルムアルデヒドが放散する可能性があります。そのため、室内空気汚染による健康影響が懸念されます。日本農林規格(JAS)による合板等(複合フローリング含む)のホルムアルデヒド放散量と、日本工業規格(JIS)によるパーティクルボード等のホルムアルデヒド放散量を、それぞれ表1−1と表2に示します。なお表1−1の区分は、20005月以降に表1−2のように変更されました。

表1−1 日本農林規格(JAS)による合板等のホルムアルデヒド放散量

表示区分

平均値

最大値

使用用途の目安

F0

0.0 mg/L

0.005 mg/L

 

F1

0.5 mg/L以下

0.7 mg/L以下

ホルムアルデヒドに関する安全性について特に配慮すべき気密性の高い建築物の内装用

F2

5.0 mg/L以下

7.0 mg/L以下

一般の建築物の内装用

F3

10.0 mg/L以下

12.0 mg/L以下

気密性があまり高くなく、合板等の使用量がさほど多くなく、内装工事をしてから人が入居するまで3週間以上経過する場合の建築物の内装用。

20度のデジケーター内に一定量の試料を24時間放置した際、デシケータ内の蒸留水に吸収された濃度

表1−2 日本農林規格(JAS)による合板等のホルムアルデヒド放散量(20005月以降製造品)

表示区分

平均値

最大値

FC0

0.5 mg/L以下

0.7 mg/L以下

FC1

1.5 mg/L以下

2.1 mg/L以下

FC2

3.0 mg/L以下(集成材)
5.0 mg/L以下(合板類、フローリング類)

7.0 mg/L以下

表2 日本工業規格(JIS)によるパーティクルボード等のホルムアルデヒド放散量

種類

記号

ホルムアルデヒド放出量

E0タイプ

E0

0.5 mg/L以下

E1タイプ

E1

1.5 mg/L以下

E2タイプ

E2

5.0 mg/L以下

20度のデジケーター内に一定量の試料を24時間放置した際、デシケータ内の蒸留水に吸収された濃度

(参考)厚生省によるホルムアルデヒドの室内基準値

0.1mgm3以下(30分平均値):この数値は、室温 5-35℃で約0.08ppm

1997年頃まで一般住宅ではF3F2合板が使用されてきたのですが、ホルムアルデヒドによる室内空気汚染によって生じるシックハウス症候群や化学物質過敏症などの健康影響が大きな問題となってきたことから、最近ではF1合板を使用する住宅が増えてきています[1]。しかしF1合板であっても、ホルムアルデヒドがゼロになったわけではないことに注意しなければなりません。

例えばF1合板を使っても、木材表面からの放散実験によって作成された理論計算式[2]によると、F1フローリング床材を使った室内で次のような条件の場合、室内ホルムアルデヒド濃度は約0.2ppmとなり、厚生省の基準値(0.08ppm)を上回ります。

C=0.639(0.158Ds0.017)*{2/(1+N/L)}*1.09(t1−t2−3)*{(55+h)/100

C=0.2ppm

(注)この式は、木材表面からの放散実験によって作成された式なので、木材表面からの放散が支配的である場合には比較的よく合致するが、それ以外では合致しない。例えば木質フローリング床材からの放散が支配的で、木質フローリング床材以外の壁や天井からの放散がない場合には、比較的合致する。

記号

概要

条件例

C

気中濃度(ppm)

Ds

住宅の壁等の木質部材表面からのホルムアルデヒド放散量(mg/l)

0.5
(F1合板の最大値)

N

換気回数(回/hr)

0.2

L

材料設置率(m2/m3)

S/V=0.5

t1

気中濃度測定時の温度()

30

t2

デシケータ値測定時の温度()

20

気中濃度測定時の相対湿度(%)

70

換気量(m3h)

部屋の容積(m3)

40

材料の放散表面積(m2)

20

N=Q/V、L=S/V、N/L=Q/S 

そしてこれに関連する実大モデルの実験結果が、2000927日から29日にかけて岩手県立大学で行われた空気調和・衛生工学会で報告されました [3]。この実大モデルルームの仕様と実験条件を表3に示します。

表3 実大モデルルームの仕様と実験条件([3]をもとに作成)

項目

条件A

条件B

内装仕様

床(置き床式)
F1フローリング+F1捨貼合板+E1パーティクルボード

壁、天井
石膏ボード下地にビニルクロス仕上げ(ゼロホルムアルデヒド接着剤使用)

室温調整

なし(施工後21日まで約3070%RH、その後はそれ以下へ低下)

エアコンで25度に調整

換気

測定前日18時から測定開始までエアコン・換気停止。測定中(12時−13)も換気なし(0.05回/hr)

換気回数0.5回/hrに設定後、8時間経過してから測定開始。測定中も換気回数0.5回/hr

表3から明らかなように、使用する部材から実際に存在可能な低ホルムアルデヒド仕様となっています。夏場の施工直後から4ヶ月間にわたって室内濃度を測定した結果、条件Aでは、施工後21日頃まで約0.4ppm以上の高いホルムアルデヒド濃度を示しており、厚生省の基準値を下回るまで60日以上かかっています。しかし条件Bでは、施行直後から、ほぼ厚生省の基準値まで抑制されています。

これらの結果から研究者らは、室内ホルムアルデヒド濃度の低減には、放散量の少ない低ホルムアルデヒド仕様であっても、適切な換気(換気回数0.5回/hr2時間に1回はしっかり換気する)とエアコンなどによる温度調整が必要であると述べています。

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] 坊垣和明, 住宅における空気汚染問題の現況と対策の動向について, 日本建材開発工業界, April 17, 2000

[2] 牧 勉, 財団法人 日本住宅・木材技術センター, 住宅と木材, Vol. 7, pp12-25, 1999

[3] 細谷奈保子, 実大モデルルームを用いた室内化学物質汚染に関する研究, 空気調和・衛生工学会 平成12年度学術講演会講演論文集, pp33-36, 2000


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