室内空気汚染削減に対するガイドライン

−カリフォルニア州環境保護庁−


20011015

CSN #208

前報CSN #207において、表1に示すカリフォルニア州環境保護庁の室内空気質ガイドライン[1]の中から、第4回目として、FAQ(良くある質問)「家庭用空気清浄機:Air Cleaning Devices For The Home」の概要を紹介しました[2]。本報では第5回目として、小冊子「室内空気汚染の削減:Reducing Indoor Air Pollution[3]の概要を紹介します。

1 カリフォルニア州環境保護庁の室内空気質ガイドライン[1]をもとに作成)

内容

タイトル

公表年月

ガイドライン No. 1

家庭におけるホルムアルデヒド

19919

ガイドライン No. 2 

家庭における燃焼汚染物質

19943

ガイドライン No. 3

家庭における塩素系化学物質

20015

FAQ(よくある質問)

家庭用空気清浄装置

2000428

小冊子

室内空気汚染の削減

200152

 

室内空気汚染の問題に対しては、建物の設計者や居住者みずからがこの問題を理解し、対処することが大切です。この小冊子は、室内空気汚染全体を簡潔にわかりやすくまとめられており、この問題対して理解を深めるのに役立てることができます。

アメリカ環境保護庁が1987年に行った研究によると、13の環境問題のうち発がんリスクにおいて、室内空気汚染が第4番目にランクされました。また、室内空気汚染に関わる医療費負担、生産活動の低下、訴訟費用等を総合すると、毎年数十億ドル費やしていると試算しています[3]。なぜそれほど重要視されるかについて、この小冊子では次の2つの理由を示しています。

1)日常生活において室内で過ごす時間の割合

カリフォルニア州環境保護庁の空気資源委員会(ARB)の調査によると、カリフォルニア州の人々が室内で生活している時間の割合は、124時間のうち平均約87%であり、室内空気が汚染されていると、汚染された空気を呼吸することによって、多くの汚染物質に曝露することになると述べています。日本においても、私たちは生活時間の約9割を室内で過ごしており、約6〜8割の時間を家屋の中で過ごしていると報告されています[4]

2)空気汚染物質の屋外濃度と室内濃度

この小冊子では、アメリカ環境保護庁の報告などによると、ホルムアルデヒド、クロロホルム、スチレンなどの化学物質の気中濃度は、屋外よりも室内の方が、約250倍高いと述べています。日本の厚生省が行った調査でも、多くの空気汚染物質において、屋外よりも室内の方が約240倍高いと報告されています[5]

 

次にこの小冊子では、室内空気を汚染する物質とその発生源及び健康影響をまとめて示しています。その概要を表2に示します。

2 室内空気汚染物質とその発生源及び健康影響[3]をもとに作成)

汚染物質

主要な発生源

健康影響1)

環境中たばこ煙(ETS)

たばこ

呼吸器系の刺激、子供の気管支炎と肺炎、気腫、肺がん、心臓疾患

一酸化炭素(CO)

ガス器具の不完全燃焼、薪ストーブ、たばこの煙

頭痛、吐き気、狭心症、視力及び精神機能障害、高濃度では死亡

窒素酸化物(NOx)

ガス器具の不完全燃焼

眼・鼻・喉の刺激、子供における気道感染症の増加

有機化合物

噴霧式スプレー、溶剤、接着剤、洗浄剤、殺虫剤、塗料、防虫剤、空気清浄スプレー、ドライクリーニング済みの衣類、家庭用水道水

刺激、頭痛、協調運動障害、肝臓・腎臓・脳障害、発がん

ホルムアルデヒド

合板、パーティクルボード、木製家具、壁紙、中質繊維板

眼・鼻・喉の刺激、頭痛、アレルギー反応、発がん

吸入可能な粒子状物質

たばこ、薪ストーブ、暖炉、噴霧式スプレー、ハウスダスト

眼・鼻・喉の刺激、気管支炎及び気道感染症の増加、肺がん

生物因子(細菌、ウィルス、真菌、動物のふけ、ダニ)

ハウスダスト、ペット、寝具、メンテナンス不足のエアコン・加湿器・除湿器、湿気のある建物、家具

アレルギー反応、喘息、眼・鼻・喉の刺激、加湿器熱、インフルエンザ、他の感染症

アスベスト

破損した断熱材、耐火材、吸音材

石綿症、肺がん、中皮腫、その他の発がん

脱落した塗料、ハウスダスト

神経系及び脳障害(特に子供)、貧血症、腎臓障害、発育遅延

ラドン

建物の下の土壌、土や岩石由来の建築材料、地下水

肺がん

1)短期影響としては粘膜刺激(眼、鼻、喉)、長期影響としては呼吸器系疾患や発がんがあり、曝露量・曝露持続時間・感受性によって異なる。

 

健康影響に対してこの小冊子では、特に感受性の高いグループとして、乳幼児や高齢者、心臓疾患・肺疾患・喘息をもつ人々、化学物質に対して極度に過敏になってしまった人々(いわゆる化学物質過敏症)をあげており、これらの人々は室内で過ごす時間がとても多いため、特に注意するよう促しています。

最後にこの小冊子では、私たちがとるべき行動について、最も有効な手段は室内汚染物質の排出を最小限化することとしたうえで、次のように概説しています。

1)  製品使用時における安全性の確保

洗浄剤、塗料、接着剤などの製品は、可能な限り屋外で使用し、ラベル表示の注意書きに従うこと。やむを得ず室内で使用する時は、できるだけ大量に換気を行うことなどについて概説しています。

2)  喫煙の制限

喫煙は、喫煙者本人に対して有害であるだけでなく、喫煙者が排出するたばこの煙を吸う周囲の人たちに対しても有害であるため、喫煙の制限は特に重要であると概説しています。

3)  燃焼器具の適切な使用

室内の暖房目的で開放燃焼型のガスストーブは使用しないこと、薪ストーブや暖炉は、適切なサイズ及び年齢の薪を使用すること、燃焼器具のメンテナンスを十分行うこと、販売業者に依頼し、年に1度は点検と清掃を行うことなどが概説されています。

4)  建材や家具の選定に注意すること

ある種の合板やパーティクルボードなど、大量のホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOCs)を放散する製品はできるだけ選定しないこと、カーペットや家具は、出荷前に空気の入れ換えを十分に行うよう販売店に要求すること、それができない場合、自宅のガレージや庭で十分に空気を入れ換えてから室内に持ち込むことなどが概説されています。

5)  その他

ハウスダストやカビを除去するために室内を頻繁に清掃すること、十分に換気を行うこと、キッチンや浴室の排気ファンは調理時やシャワー時の換気のために有効に活用することなどについて概説されています。

 

私たちは、空気を呼吸することによって生きています。つまり、私たちは空気がなければ生きていけません。その空気が汚染されていると、必然的に私たちは、その空気を吸ってしまいます。私たちは、日常の生活時間の約9割を室内で過ごしています[4]。私たちが呼吸する空気が快適で健康的であるように、室内空気汚染に対する理解を深め、その汚染を削減する努力を行う必要があります。

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] A department of the California Environmental Protection Agency, The California Air Resources Board (ARB), “Indoor Air Quality and Personal Exposure Assessment Program
http://www.arb.ca.gov/research/indoor/indoor.htm

[2] Kenichi Azuma,「家庭用空気清浄機に対するFAQ集」, CSN #207, October 8, 2001
http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Oct2001/011008.htm

[3] The California Air Resources Board (ARB), “Reducing Indoor Air pollution”, May 2, 2001

[4]塩津弥佳 et al.,日本建築学会計画系論文集, No. 511, pp45-52, 1998

[5]厚生省生活衛生局企画課, ”居住環境中の揮発性有機化合物の全国実態調査”, December 14, 1999
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1112/h1214-1_13.html


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