家庭ごみの焼却による汚染
1999年9月23日
CSN #097
近年、高度な産業の発達の伴い、私たちの社会経済活動は、大量生産、大量消費、大量廃棄型となりました。そのため、廃棄物の増大、廃棄物の多様化、廃棄物処分場の容量不足が深刻な社会問題を引き起こしています。そのため資源の有効活用と廃棄物発生量削減のために、資源循環型の社会構造が必要とされています。特にリサイクル、再利用(リユース)、持続可能な製品と開発に関する研究が進められており、発生した廃棄物については、分別回収が進められています。
平成11年度の環境白書によると、日本では平成元年度以降、毎年年間約5,000万トンの一般廃棄物が排出されています。排出量はここ数年横這いの傾向が続いていますが、平成8年度は、総排出量5,110万トン(東京ドーム137杯分、平成7年度5,069万トン)、国民1人1日当たり1,110g(平成7年度1,105g)と微増しています。また、市町村が行った一般廃棄物の中間処理のうち、直接焼却処理された割合は77.1%(平成7年度76.2%)にのぼり、焼却以外の中間処理(破砕・選別による資源化、高速堆肥化等)の割合は12.6%(平成7年度12.3%)と年々増加しています。最終処分量は1,297万tで、前年に比べ63万t減少しました。また、一般廃棄物の最終処分場の残余年数は、平成7年度で全国平均8.5年であり、逼迫している状況です[1]。このように再資源化傾向が見られますが、依然として焼却処理されている廃棄物は大量にあります。
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」では、廃棄物は次のようにに定義及び分類されています。([2]をもとに作成)
分類 |
内容 |
廃棄物 |
ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。)。(2条1項) |
一般廃棄物 |
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産業廃棄物 |
|
一般廃棄物には、家庭から出されるごみやし尿が含まれ、ごみは可燃ごみ、不燃ごみ、粗大ごみに分けられます。また、焼却後の残灰も含まれます。
このような一般家庭から発生する家庭ごみは、日本国内では大半が焼却処理されています。その中で、家庭や学校に備え付けられた小型焼却炉での焼却も一部行われています。このような家庭用小型焼却炉は、例えばドラム缶に小さい煙突が据え付けられたような焼却炉で、この中にごみを投入・着火して焼却する焼却炉です。
家庭用小型焼却炉は低温で燃焼するため、ほとんど酸素が供給されずに大量の煙を発生します。そのため非常に多くの有害化学物資を発生させます。そしてそれらの有毒化学物質の大半は、私たちが吸い込みやすい地表面に近い大気中に放出されます。
このような家庭用小型焼却炉で家庭ごみを焼却した場合の問題点と対応策について、アメリカ、ミシガン州環境質省(State of Michigan Department of Environmental Quality)、大気質部門(Air Quality Division)のJohn Englerらが1999年8月に“Burning Household Waste: 家庭ごみの焼却”という報告書を発表しました[3]。この報告書によると、ミシガン州の大半の地域では、家庭用小型焼却炉で未だに家庭ごみの焼却が行われているようです。
一般に、家庭ごみの焼却から排出される化学物質の中で最も代表的な化学物質が、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物(NOx)です。その他わずかですが、煙の中からベンゼン、スチレン、ホルムアルデヒド、ダイオキシン類であるポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDDs)やポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)、ポリ塩化ビフェニール(PCBs)、鉛や水銀やヒ素などの重金属がこれまで検出されています。この報告書では、家庭で焼却された生ごみから排出される化学物質の推定量について、表1のようにまとめられており、深刻な大気汚染源になり得ると概説しています[3]。
表1 家庭ごみ焼却による米国の有害化学物質排出量([3]をもとに作成)
化学物質 |
米国における家庭ごみ焼却からの全排出量 |
|
(ポンド/年) |
(kg/年) |
|
ベンゼン |
4,500,000 |
2,041,166 |
スチレン |
3,400,000 |
1,542,214 |
ホルムアルデヒド |
3,100,000 |
1,406,136 |
ポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDDs) |
139 |
63 |
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs) |
22 |
10 |
ポリ塩化ビフェニール(PCBs) |
10,962 |
4,972 |
塩酸(HCl) |
1,000,000 |
453,592 |
シアン化水素(HCN、青酸ガス) |
1,700,000 |
771,107 |
鉛 |
1790 |
812 |
水銀 |
232 |
105 |
ヒ素 |
8186 |
3,713 |
1ポンド=453.59237グラム
非常に大量の有害化学物質が排出されていることが表1からわかります。この報告書では、家庭用小型焼却炉による家庭ごみ焼却から発生する、このような有害化学物質の問題点として、表2に示す3つの理由を挙げています。
表2 家庭ごみ焼却の3つの問題点([3]をもとに作成)
項目 |
概要 |
健康への影響 |
|
環境中への影響 |
|
臭いの問題 |
|
この報告書では、アメリカの1人当たりの家庭ごみ平均発生量は、固形物換算で1日当たり3.72ポンド(約1.7kg)(注:庭ごみは含めない)だと推計しています。また、アメリカの5,000万人以上の人々が大都市以外の地域に住んでいるので、アメリカ環境保護庁(USEPA)の試算によると、大都市以外の地域に住んでいる人々の40%が家庭でごみを焼却し、これらの人々が1日に発生する家庭ごみの63%が家庭用小型焼却炉で家庭ごみを焼却しており、18億ポンド(約82万トン)以上の家庭ごみが、毎年家庭用小型焼却炉で焼却されていると概説しています。
また、温度管理などが行われている都市ごみ焼却炉と家庭用小型焼却炉での有害化学物質排出量の比較が行われており、表3に示します。
表3 家庭用小型焼却炉と都市ごみ焼却炉(MWC)の比較([3]をもとに作成)
化学物質 |
都市ごみ焼却炉に対する排出量 |
ポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDDs) |
10,000倍 |
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs) |
1,000倍 |
多環芳香族炭化水素(PAHs) |
3,000倍 |
表3から明らかなように、低温で燃焼する家庭用ごみ焼却炉からは、都市ごみ焼却炉(MWC)に比べて非常に多くの有害化学物質を排出します。ポリ塩素化ジベンゾフラン(PCDDs)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)は様々な毒性が報告されているダイオキシン類であり、多環芳香族炭化水素(PAHs)は、ものが燃焼するときに発生する有害化学物質で、ベンゾピレンなどの発癌性を有する化学物質の総称です。
このように、ドラム缶式焼却炉などの家庭用小型焼却炉を使った家庭ごみの焼却は、大気・土壌・河川・海洋に対して深刻な汚染源となり、私たちの健康に多大な影響を与えると考えられます。この報告書では、家庭用小型焼却炉での家庭ごみのを焼却に代わる手段について報告されていました。その内容を表4に示します。
表4 家庭用小型焼却炉での家庭ごみの焼却に代わる手段
手段 |
概要 |
|
Reduce |
ごみの減量 |
|
Reuse |
再利用 |
|
Recycle |
リサイクル |
|
Disposal |
処分 |
|
表4に示された4つの手段は、私たちが日常生活で比較的取り組みやすい手段だと思われます。これらの手段を参考に、私たちの日常生活の中で気づいたことから少しずつ積み重ねていくことが大切だと思います。
Author:東 賢一
<参考文献>
[1] 平成11年版環境白書(環境庁)
http://www.eic.or.jp/eanet/hakusyo/1999/mokuji.htm
[2] 廃棄物六法、厚生省生活衛生局水道環境部計画課、中央法規出版、平成7年1月20日
[3] John Engler, Governor Russell J, State of Michigan Department of Environmental Quality Air Quality Division, Aug 1999
http://www.deq.state.mi.us/aqd/publish/burnhousehold.htm
“Burning Household Waste”; A Source of
Air Pollution in Michigan