エアゾール噴霧器と空気清浄スプレーによる室内空気汚染


1999年9月26日

CSN #098

家庭でヘア・スプレーなどのエアゾール噴霧器や、消臭スプレーなどの空気清浄スプレーを頻繁に使用すると、赤ん坊や妊娠中の女性が病気にかかるリスクが増大するという記事が、94日付けの米科学雑誌「ニュー・サイエンティスト:New Scientist」に出ていました[1] 

この記事は、19998月に英国エジンバラで行われた「室内空気汚染国際会議:International Conference on Indoor Air Pollution」で発表された研究報告を紹介しています。英国ブリストル大学 チャイルド・ヘルス部のJean Goldingらは、妊娠中の女性14,000人を調査し、表1の結果を得ました。 

表1 家庭でのエアゾール噴霧器及び空気清浄スプレーの使用頻度と妊婦や赤ん坊への影響[1]をもとに作成)

健康影響

ほとんど毎日使用/1週間に1回程度使用

頭痛を患った女性

25%増加

出産後の女性のうつ病

19%増加

生後6ヶ月以下の赤ん坊における耳の疾患

30%増加

生後6ヶ月以下の赤ん坊における下痢症状

22%増加

家庭で使われているエアゾール噴霧器や空気清浄スプレーには、キシレン、ケトン類、アルデヒド類などの有害な揮発性有機化合物(VOCs)が数十種類含まれていること、英国は、ヨーロッパ最大のエアゾール噴霧器の生産及び使用国であり、1家庭で1年当たり、平均36個のエアゾール噴霧器(消臭剤、ヘアー・スプレー、家具用の艶だし剤など)を買っているとこの記事は述べています。 

この研究では、「1週間に1回以上エアゾール噴霧器や空気清浄スプレーを使用する場合は注意すべき。」と結論付けています。 

また、この記事によると研究者らは、「化学物質が病気にかかりやすい人々を生み出すという生体への作用機構は、まだまだ解明されていない。しかしながら、空気清浄スプレーに含まれるたくさんの化学物質が皮膚へ浸透することによって、体の抵抗力を弱める可能性のあることがマウスの実験で示された。」と報告しています。 

この記事によると、Jean Goldingらの報告は、英国ウォトフォードにある英国政府の建築研究機関(BRE)の報告でも裏付けられており、「ブリストル大学の研究における170の家庭での室内空気中の揮発性有機化合物(VOCs)平均濃度は、415マイクログラム/m3であった。」と述べています。 

また、BREJeff Llewellynによると、「この濃度は健康影響が起こるとされている濃度よりも低い。しかし短期間ではさらに高濃度の揮発性有機化合物(VOCs)に曝露している可能性がある。」と指摘しています。つまり、エアゾール噴霧器や空気清浄スプレー使用時やその直後には、揮発性有機化合物(VOCs)が高濃度であるということです。

 

この記事では、もう一つエジンバラの会議で報告された、家庭用消臭剤の影響に関する研究報告が紹介されていました。米国バーモント州にある民間研究施設であるアンダーソン研究所のRosalind Andersonらは、「固形の消臭剤から発生する揮発性有機化合物(VOCs)に曝露したマウスにおいて、呼吸困難が発生した。」と報告しました。彼は人間に対しても同様の影響があるだろうと述べています。 

この会議での報告を受けて、英国エアゾールル噴霧器製造協会は、「ブリストル大学の研究報告は知らなかったが、常にエアゾール噴霧器の使用に関する研究報告には関心がある。この問題については今後調査する。」と述べています。 

 

洗剤関係では、静電気防止剤(エアゾール剤)エタノール4080%含まれています。芳香剤(トイレボールは除く)には、エタノール(またはイソプロピルアルコール)1.53.0%含まれています。また、芳香剤(トイレボール、パラジクロルベンゼン製品)には、嘔吐、下痢、腹部痙攣、メトヘモグロビン血症、軽度の肝障害など引き起こすパラジクロロベンゼンが含まれている製品があります[2]。エタノールには、中枢神経系、特に大脳機能、体温調節中枢、血管運動中枢に対する抑制作用を有する毒性があります[2]。この研究で報告された女性の頭痛やうつ病は、希釈剤や噴霧剤として用いられているアルコール類や、それらが何らかの要因で酸化されたアルデヒド類やケトン類による影響の可能性が考えられます。 

「1週間に1回以上エアゾール噴霧器や空気清浄スプレーを使用する場合は注意すべき。」との勧告については、室内の換気状況や、室内容積などによって変化すると考えらるので、一概には言えないと思います。しかし、この報告での症状に心当たりがある場合は、エアゾール噴霧器や空気清浄スプレーの使用を控えた方が良いと思われます。 

Author:東 賢一

<参考文献>

[1] Rob Edwards , New Scientist, 4 September 1999
http://www.newscientist.com/ns/19990904/newsstory6.html
"Far from fragrant"

[2] 「誤飲物質の毒性検索システム」外来小児科学ネットワーク
http://city.hokkai.or.jp/~satoshi/TOX/tox.html


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