樹木から放散する汚染物質

−カリフォルニア州環境保護庁−


2001910

CSN #203

地球上の植物の多くは、大気中にイソプレンやテルペン(α-ピネンなど)というガスを放出しています。イソプレンは、大気中で太陽光による光化学反応により、一酸化炭素やオゾンを生成します。北米の大都市近郊の森林地域で観測される高濃度のオゾンは、このような植物が関連している可能性が示唆されています[1]。大気中のイソプレンとその反応生成物の濃度を観測した結果、日中の方が夜間よりも濃度が高く、植物からのイソプレンの放出と大気中の反応が、日中に盛んに行われていることが報告されています[1]。またテルペンからは、大気中での光化学反応により、エアロゾルや一酸化炭素を生成することが報告されています[2]

これら植物起源の化学物質に対する光化学反応によって生成される反応生成物に関する研究は、おもに地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの生成機構という観点で行われています。

イソプレンやテルペンの排出量は、植物の種類によって異なります。また、オゾンやエアロゾル(特に外径が小さい粒子状物質)は、高濃度になると人の呼吸器系に対して影響を与えます。そこでこれらに関連した報告が、200179日にカリフォルニア州環境保護庁の空気資源委員会(the California Air Resources Board)から発表されました[3][4]

この委員会は、1,400種以上の樹木について、汚染物質と花粉の排出状況を調査した結果、新しい樹木を選ぶ時には、樹木による日除けの必要性(気温上昇の抑止)、植樹する地域の気候、樹木からの排出物の種類と量、これら3つの点に注意しなければならないと述べています。

また、ある特定の樹木を広い面積で植えていると、オゾンやエアロゾルの濃度が局地的に上がり、空気質に影響を与える可能性があるため、光化学スモッグなどの問題が生じやすい都会のオゾンやエアロゾルの濃度を減少させるためには、低排出量の樹種を選択することが重要だと述べています。以下に、主にイソプレンとテルペンを排出する樹種の例を示します。

1)主にイソプレンを排出する樹種

オーク、ポプラ、ハコヤナギ、ヤナギなどの落葉樹

2)主にモノテルペンを排出する樹種

松、ヒマラヤスギ、アメリカスギ、モミなどの針葉樹

3)イソプレンとモノテルペンの両方を排出する特殊な樹木

エゾマツ、ユーカリなど

 

これらの樹木から排出される排出物の量は、樹種によって大きく異なり、およそ10,000倍の差を生じる場合があります。そこで、植物が排出する揮発性有機化合物(VOCs)に関連するデータベースが、Cal Poly San Luis Obipso'のホームページの「Selectree」(参考文献[5]のアドレスへアクセス)で公開されています[3][4]

大気資源委員会は、樹種によって空気質に与える影響が異なるため、樹木を植える際にはその特性をよく理解するよう勧告しています。樹木が空気質に与える影響の例を表1に、また樹種の例を表2に示します[4]

1 樹木が空気質に与える影響[4]をもとに作成)

1)プラス効果

日除けによる気温上昇抑止

ある種の汚染物質の除去

2)マイナス効果

植物起源の揮発性有機化合物(VOCs)の排出

花粉アレルゲンの排出

 

2 空気質に影響を与える樹種の例[4]をもとに作成)

1)空気汚染を
低減する樹木

(Peach)、アボガド(Avocado)、エノキ(Chinese Hackberry:落葉の高木)、トリネコ(Ash)、ケヤキ(Sawleaf Zelkova)、アメリカハナズオウ(Eastern Redbud)

2)空気汚染源と
なる樹木

アメリカスズカケノキ(California sycamore)、レイランドヒノキ(London Plane)マンサク科(Liquidamber:(ふう)など)モミジバフウ(紅葉葉楓: Chinese Sweet Gum)、モクゲンジ(Goldenrain Tree,Koelreuteria paniculata)スカーレット(Scarlet)アカガシワ(Red Oak)ヤナギバナラ(Willow Oak)

 

空気資源委員会(ARB)Alan Lloyd委員長は、次のように述べています[4]

「人々は、家を美しく飾りたい、日陰を作りたい、エネルギー費用を削減したいなど、多くの理由で樹木を植えている。しかしながら、ある種の樹木は、空気汚染や花粉の量を低減させるということに、気づいていないかもしれない。都会のスモッグや花粉を最も効果的に減少させる樹種を選択するたに必要な情報(注釈:Selectree」参考文献[5]のアドレスへアクセス)が、今では利用できるようになっている。」

Selectree」では、健康影響に関して、アレルギー性、刺激性、有害性の3つの分類が用いられています。また、排出物に関しては、イソプレンとモノテルペンの1時間当たりの総排出量(μgg葉の重量/hr)に基づいて、少ない(1μg未満)、適度(1-10μg未満)、多い(10μg以上)の3段階に分類されています[5]

Author: Kenichi Azuma

<参考文献>

[1] Yoko Yokouchi, “Seasonal and diurnal variation of isoprene and its reaction products in semi-rural area” (大気中イソプレンとその反応生成物の季節変化と日変化), Atmospheric Environment, Vol. 28, No. 16, pp2651-2658, 1994

[2]鷲田伸明ら、「温室効果気体等の大気化学反応過程の解明に関する研究」地球環境研究成果データベース, B-4(1), pp40-47, 1992
http://www.airies.or.jp/wise/KENSAKU.htm

[3] Environmental News Network, “Planting the wrong tree increases air pollution”, July 24, 2001
http://enn.com/news/enn-stories/2001/07/07242001/pollution_44398.asp

[4]California Environmental Protection Agency Air Resources Board, “Air Quality and Pollen: How the Tree You Choose Can Effect the Environment”,July 9, 2001
http://www.arb.ca.gov/newsrel/nr070901.htm

[5] SelecTree for California, “A Tree Selection Guide”
http://selectree.cagr.calpoly.edu/


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