<自主調査報告書>


1999年2月25日

東 賢一

PETの再利用について 

1,緒言

PET(ポリエチレンテレフタレート)は、汎用のエンジニアリングプラスティクとして、軽量、耐衝撃性、耐熱性に優れ、工業用、家庭用容器などに多く用いられている。特にペット(PET)ボトルの名で一般市民には身近な容器として用いられている。このペットボトルも500ml容器から、今後さらに小さい350ml容器の導入が予定されており、生産量が増大する見込みとなっている。

そのような背景の中、プラスティック廃棄物問題は年々大きくなっており、ペットボトルも例外ではない。本稿では、ペットボトルの再利用に関して文献調査を行った結果を報告する。

 1996年における、世界のPETボトルのリサイクル(文献1)

地域

回収率%

  地域 回収率%

アジア

日本

  2.9

欧州 ハンガリー   2.2

韓国

  8.5

イタリア  11.8

台湾

 32.3

オランダ  74.0

中国

  5.1

ノルウェー  10.0

インド

  0.0

ポーランド   2.4

インドネシア

 10.7

ポルトガル   0.0

豪州

オーストラリア

 34.6

スペイン   0.2

ニュージーランド

 11.1

スゥェーデン  66.7

欧州

オーストリア

 41.0

スイス  81.7

ベルギー

 23.0

トルコ  20.8

デンマーク

 15.0

イギリス   1.4

チェコ

  1.2

北南米 カナダ  39.5

アイルランド

  2.8

メキシコ  20.0

フィンランド

 25.0

アメリカ  23.7

ドイツ

 21.7

ブラジル  20.0

アイスランド

100.0

チリ   6.2

ギリシャ

  1.2

 

2,廃ペットボトルの行き先 

1)廃棄物

 文字通りごみとして捨てること。PETの焼却テストでは、有害物質が発生しないことが確認されているが、焼却残灰には、PET製造時の重合触媒であるアンチモン(強い毒性を持つ物質)やバナジウム化合物が数%残留することが確認されている(文献2)。また、焼却されずにPET樹脂そのものが環境中に投棄された場合、1,4−ジオキサン(急性毒性物質)やアセトアルデヒド(急性毒性物質)が副産物として生成する可能性がある。実際に廃棄物処分場のからは、1,4−ジオキサンが検出されており、PETとの関連性が疑われている。(文献3、4)


2)リサイクル(文献3)

* マテリアルリサイクル *
化学的変化を伴わず、破砕粉砕などしてペレットを作成して原料として再利用する。しかし、バージンの原料と比較すると品質劣化は避けられない。また、最終的には廃棄物となるので、1)廃棄物と同じことが問題視される。

* サーマルリサイクル *
ごみ発電などの燃料として再利用する。燃料として排出される廃棄物の状態(ラベル、不純物、着色、結晶化度)が一定でないので、高エネルギー回収率が期待できない。また、焼却残灰については、1)廃棄物と同じことが問題視される。

* ケミカルリサイクル *
樹脂を溶解・分解して化学原料に戻して、原料として再利用する。つまり再資源化である。原料としての回収率がどこまで上げられるかということと、分解副産物の処理が課題である。

3)リユース(文献2)

容器として回収したPETを、洗浄、再充填して利用する。ヨーロッパでは進んでおり、ドイツでは洗浄液として1.5%の水酸化ナトリウム水溶液と0.1%特殊洗剤水溶液を用いている。洗浄回数はコカコーラなどのガス入り飲料水で約20回、牛乳やミネラルウォーターなどのノンガス飲料水で50回から100回までが限界であり、その後はケミカルリサイクルなどの用途に利用される。リターナブブルプラスティック容器の利用法の1つである。 

3,ケミカルリサイクルについて 

1)PETのケミカルリサイクル(文献3)

 * 現在実用化されている方法

溶解、加水分解プロセスとして、エチレングリコール分解、メタノール分解、エステル交換、エチレングリコール分解/エステル交換併用法があり、いずれも実用化されている。PETは加水分解されるとエチレングリコール(EG)とテレフタル酸(TPA)になるが、これらの方法では、TPAではなく、テレフタル酸ジメチル(DMT)が生成する。DMTからPETを作成する時に使用する触媒では、TPAを使用した場合に比べて品質が悪化する。また、メタノールが副産物として生成する場合もあり、その利用方法を考える必要がある。

 * 今後有力な方法?――――――超臨界状態を用いたプラスティックの分解

超臨界水を用いたPETの加水分解では、DMTが生成せずにTPAが生成するので、また、高温高圧の水を使用するため余分な有機溶剤を用いないで分解できる。現在のところ、TPAが90%、EGが20%の回収率であり、回収効率の向上が課題である。回収効率が向上しないのは、EGなどがさらに分解して副生成物となるからである。

2)超臨界水によるケミカルリサイクルについて(文献3)

水の臨界温度及び臨界圧力である374℃、22.1MPaになると、水は気体/液体の両方の性質をもつ高密度流体となる。この状態を超臨界状態という。この状態では、通常の水では溶解しない有機系物質を溶解することが可能になる。

PETのようにエチレングリコールとテレフタル酸を脱水縮合重合したものは、超臨界水を反応溶媒として用いると、容易に短時間で加水分解されて元の原料にすることができる。 

4,総括

  今後の生産量増加が見込まれるPETについて、廃棄物削減の観点から再利用について調査した。廃棄物としては、焼却灰中の有毒物質や環境中での分解生成物が懸念される。リサイクルについては課題が多いが、超臨界水などの利用によって、回収効率が高く副産物の生成が少ない技術の開発が望まれる。リユースは、使用できる回数の増加と、最後に残ったボトルのをどうするかが問題となると思われる。 

「参考文献」
1)Andrew Noone, 英国PCI社資料, September,1997.

2)旧橋 章、プラスティックス、Vol49, No3, 1998

3)福里隆一、資源環境対策、Vol34, No.12, 1998

4)安原昭夫、環境化学、Vol2, No.3, 1992

Author: Kenichi Azuma


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