地球を周る月。地球を見続けてきた月が垣間見せた、男と女の愛の残像。 〜表代作ほか、太古から、現代・未来宇宙までを描く珠玉の短編集〜
● 加筆改稿 ●
ま、それにしても、相棒のコーベットがタキに訊ねるシーンで言った「あの女とおまえはいったい、ありゃあ今はハゲのコレだぜ」と小指を立てるシーンが俗っぽくて好きだったんだけど、
改稿によりカットされてしまったのは残念でならない。(笑)
● 珠玉の短編 ●
当時、「砂漠の女王」からこちら、少しエアポケットに入ったような時期を過ごしていた。就職で何かと気ぜわしかったせいもあるだろう、
星野漫画の存在を忘れていたのかもしれない。ようやく仕事にも慣れ余裕が出来てきた八月に職場で偶然「残像」を読んだ。
何と言えばいいのだろうこれは。しばらくの間次の漫画に移れず、この世界に浸りたくってもう一度読み返した覚えがある。
この感覚。そうだ、昔に読んだウェルズやハインラインと同列のSFマインド溢れる情景と人間ドラマだ。
しかも星野氏の手により、女性の弱さ・強さ、人生の儚さ・切なさが見事なまでに描かれ、鏡子への感情移入がごく自然と行われてしまうのだ。
私の場合、それは今までの星野作品全体をも包み込んでしまった。
「やっぱり星野作品が好きなんだ」。
この認識を再確認させられてしまった。自分自身の第二次星野ブームの到来だ。
これを機に星野作品の初出誌を全て手元に残しておくようになった事からも、そう言っていいだろう。
今ここにこうして再発された『残像』を手にした時、昨年、皆で星野先生に再発を懇願した事や、
個人的な想いだが新作表紙の事など、色んな想いが次々と交錯して浮かんでくる。
そして、何よりも一つの「星」をずっと追い続けてきた自分がここにいる事を改めて思い起こし、
とても感慨深いものがあります。奇しくも作中で日下が言った「なにしろ20年が過ぎ去ったのだ」の言葉と同じく、
作品発表より20年にあたるこの年に再発された事は偶然なのだろうか。
ともあれファンとして何よりも嬉しくSF界にとってもこれは福音となろう。願わくば今までの絶版状態を文字通り揶揄された"残像"ではなく、
"実像"としていつまでもSF界で輝いていて欲しい。
思えば私自身のターニングポイントな作品だった「残像」。
|