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教室を弁護士業界の宣伝の場にするな

 大阪の高校が弁護士業界の宣伝攻勢にさらされようとしています。11月4日の朝日新聞に掲載された、「まいどぉ 法律ですぅ」というけったいな見出しの記事によると、大阪弁護士会が高校に弁護士を講師として派遣し、独自のテキストを持ち込み、無料で「出前授業」を行うことになったと報じられています。弁護士会は「実生活で役立つ法律知識を身につけて社会に巣立ってほしい」と言っているそうですが、和歌山の「砒素カレー事件」の弁護活動が非難を浴びている折から、弁護士業界による、判断力の乏しい子どもにねらいを定めた宣伝活動だと思います。

 教育の場を特定の業界の宣伝の場にしてはなりません。この出前授業が、法律を教えるのが目的なのか、弁護士の仕事を紹介するのが目的なのかはっきりしません。講師を派遣するのが弁護士会の「少年委員会」であるところから、目的が単なる法律の勉強、弁護士の仕事の紹介ではなく、少年法改正反対や子供の権利条約を視野に入れた、少年の取り込みを狙った動きと考えられます。

 子どもに法律の初歩を教えるのであれば、それは社会科の教師がすればいいことで、弁護士がする必要は全くありません。特に刑事事件について弁護士が教えることは、偏った立場、犯罪者の立場で教えることになり、非常に問題があります。司法関係者を講師にするなら、公益の代表者である検察官を講師にしたほうがまだましだと思います。

 新聞の記事を見ると、高校生向けに書かれた冊子に「幼なじみが逮捕された!」と言う見出しにはじまる、友人がひったくりで逮捕されたという設例ありますが、初めて「法律」を学ぶ高校生に犯罪者の立場に立って法律を教えるのは、極めて不適切であると思います。弁護士の教科書としては普通かもしれませんが、高校生に教える内容ではありません。刑事事件について教えるなら、それは一般国民、被害者の立場で教えるものでなければなりません。

 高校の授業について、このような教育を認めれば、金融経済を教えるには銀行協会から講師を招き、銀行協会の作った冊子に基づいて授業をする必要がある、と言うことになりますが、それが教育としてふさわしいと言えるでしょうか。高校生に法律の基礎を教える必要があるとしても、その内容は、何が高校生にふさわしいかという、教育の観点から決められなければいけないと思います。弁護士業界はそのような観点を持ち合わせてはいません。法律を学ぶと言うことは弁護士の仕事を覚えることではないのです。

 和歌山の「ヒ素カレー事件」の弁護活動に対する、国民の批判に対する弁護士会側の反論を見ても分かるように、弁護士の職務は、事件の真相の解明と犯罪者の処罰ではなく、あくまで被疑者、被告人の擁護です。それが正義に反せず、正義にかなうものだとしても、それは極めて特殊な正義です。弁護士の仕事がそもそも特殊なのです。高校生の授業の講師を、そういう特殊な職業人に依頼するのは誤りです。

平成10年11月23日      ご意見・ご感想は   メールはこちらへ     トップへ戻る      
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