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弁護士を選ぶ権利

 1月9日の読売新聞によると、大阪弁護士会が犯罪被害者を支援するため、今春をメドに「犯罪被害者支援センター(仮称)」を発足させる計画だそうです。被害者のために弁護士がすることと言えば、民事上の損害賠償請求を始めいろいろあると思いますが、そのためにセンターが必要というのはなぜでしょう。センターがないと弁護士は活動できないのでしょうか。センターからの紹介や指示がないと弁護士は仕事をしないのでしょうか。
 セクハラ110番、当番弁護士制度など、弁護士業界が作っている類似の組織は数多くあります。試みに日弁連のホームページを見ると、大阪弁護士会だけで次のような窓口があります。
 一般相談、交通事故相談、遺言・相続相談、不動産競売買受け相談、少年刑事問題相談、消費者問題相談、サラ金相談、民事介入暴力相談、セクシュアル・ハラスメント電話相談、外国人の人権電話相談、子どもの人権テレフォン相談、憲法週間記念無料相談、法の日記念無料相談、民事当番弁護士相談。

 これらは一見すると消費者のためによい制度であるかのような錯覚を起こします。しかし、これでは消費者は弁護士を選ぶ事ができませんし、弁護士の間にも、自由競争の原理が働かず、良い仕事をする弁護士が報われることも、能力の劣る弁護士が淘汰されることもありません。消費者にとってよりよいサービスの提供が期待できません。料金決定に市場原理が働く余地がありません。
 これらの窓口の多くは「相談」となっていますが、この業界にとっては、「相談」は仕事の「受注」を意味します。弁護士会の相談窓口制度は、業界団体が受注窓口を一本に絞って受注し、業界団体が仕事を割り振っていることになります。一般の業界では絶対に許されない行為です。そして、これらの行為は弁護士法に定められた「日弁連」や「弁護士会」の役割の範囲を逸脱するものです(これらの行為に限らず、現在日弁連や弁護士会がしていることは、ほとんど全部逸脱しています)。
 このような相談窓口が幅を利かせている背景には、依頼者(消費者)が依頼(発注)しようと思っても、どこに依頼していいのか全く分からないと言う現状があります。それは弁護士業界では広告、宣伝が禁じられているからです。

 日弁連のホームページを見ると「弁護士の見つけ方」として、「人に聞くこと」と「弁護士会に相談すること」とあって、消費者に他に手段がないことを認めています。「人に聞く」と言っても、弁護士を大勢知っていて、依頼しようとする事件について誰が適任か答えられる人が日本中に何人いるでしょうか。良いか悪いかなどは問題外で、ただ知っている人に頼まざるを得ない現状は、消費者軽視も甚だしいと言えます。日弁連のホームページはさらに、弁護士を選ぶポイントとして、@相談者からの訴えを誠実に受け止め、真実の発見に努める姿勢を忘れず(弁護士には真相を解明する義務はないと主張していたのはどこの誰でしたっけ?)、A法律事務に精通し、B社会正義に見合った結論を導く倫理観を持っている、の3点をあげていますが、弁護士に関する情報が何もない中で、どうしてそれを見分けろと言うのでしょうか。名前と顔つきから判断しろとでも言うのでしょうか。

 さらにホームページは、依頼する者の心構えとして、「弁護士と依頼人の間に強い信頼関係を築くことこそが、紛争解決への第一歩、まずそれを肝に命じておきたいものです」とか、「弁護士がどんな分野が得意なのかを聞くのも、決して失礼に当たることではありません」と言っていますが、顧客である依頼人に「肝に銘じておけ」とは、その尊大なものの言い方にはあきれてものが言えません。得意な分野を聞かれて、愛想良く答える弁護士が多数であるとは思えません。それに、得意な分野を聞かれる前に、自分の方からPRするのがサービス業者の常識です。

 新聞や雑誌を見ても弁護士の広告はなく、消費者を対象にした雑誌や書籍にも、「得意分野別弁護士一覧」とか、具体的な名前を挙げた「よい弁護士の選び方」というような記事にはお目にかかったことがありません。宣伝の禁止は自由競争を阻害し、消費者に不利益をもたらす以外の何の効果もありません。マスコミも消費者が必要とする情報を提供するという使命を果たしていません。
 消費者不在の「広告、宣伝の禁止」だけでなく、現在の弁護士制度は弁護士、法律事務所の法人化(企業化)を認めていないため、どこの法律事務所も個人経営で規模が小さく、効率的で十分な消費者サービスに対応できていません。また、司法試験制度は弁護士業界への新規参入を制限し、この業界を消費者に不利な「売り手市場」にしています。
 現在の弁護士制度、日弁連、弁護士会の存在は、著しく消費者の利益を損なっています。

平成11年1月10日   ご意見・ご感想は   メールはこちらへ     トップへ戻る      目次へ