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新潮社攻撃は弁護士ファッショ

 毒カレー事件の林真須美被告が、法廷内の隠し撮り写真を掲載した写真週刊誌「フォーカス」の発行元新潮社と、同誌の山本伊吾編集長に対して、1,100万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴訟を起こすことが報じられました(8月5日読売新聞)。

 記事によると、「真須美被告は6月中旬、提訴の意志を伝える委任状を刑事弁護団に提出した。同弁護団の依頼を受けて『隠し撮り』訴訟に向けて新たに10数人の弁護団が結成される。メンバーの中心は昨年1月に起きた大阪府堺市の連続通り魔事件で、殺人罪に問われている男性(21)の未成年時の顔写真と実名を報道した月刊誌に対し、損害賠償を求めた訴訟の弁護団に参加している」と報道されています。

 真須美被告の刑事弁護団は確か国選弁護人のはずです。人数は3〜4人だったと思います。夫の健治被告との分離公判が決まったときは、国選弁護士の増員を求めていました。私費で刑事弁護士を依頼できない人が、どうして民事の裁判で10数人もの弁護士を私費で依頼できるのでしょうか。普通、弁護士を一人依頼するだけでも相当な費用がかかります。自費で10数人もの弁護士に依頼することは不自然です。弁護団としても、1,100万円の損害賠償訴訟では、100%勝ったとしても、そこから得られる報酬を10数人で分ければ大した額にはならないと思います。弁護団は報酬を度外視して、自ら弁護を買って出たとしか考えられません。弁護団はなぜ報酬を度外視して、弁護を買って出たのでしようか。それは彼らの目的が、新潮社を叩くことにあるからだと思います。

 わが国の裁判は公開で行われており、傍聴人は被告人の顔を見る事ができます。裁判そのものが非公開の少年事件とは根本的な違いがあります。そして裁判の公開とは、限られた傍聴人にだけ公開するというのが本旨ではないと思います。裁判所は法廷での写真撮影を禁止していますが、これは被告人の肖像権の保護とは関係ありません。法廷では裁判官や検事、弁護士の写真も撮ってはいけないのです。撮影禁止は裁判所、司法業界の秘密主義、権威主義を象徴しているに過ぎません。法廷で被告人の写真を撮ることは、裁判所の規則には抵触しても、肖像権の侵害にはならないと思います。それに、新聞社は法廷内の被告人の似顔絵を描いて新聞に掲載しています。似顔絵は肖像権の侵害にならなくて、写真は侵害になるというのは、おかしいと思います。肖像権の侵害というのなら、新聞社をも提訴すべきです。

 弁護団が新潮社を狙って訴訟を起こしたのは、原告林真須美の権利を守るためではなく、少年事件の裁判のあり方をめぐって、司法業界を批判する新潮社を叩くためだと思います。マスコミ各社が揃って被告人のプライバシーを侵害した、ロス疑惑の三浦和義被告の数多くの損害賠償訴訟では、弁護を買って出る弁護士はおらず、彼は本人訴訟でがんばりました。刑事被告人のプライバシーを守ることが目的なら、相手が新潮社の時だけ弁護士が集まってくるのは不自然です。弁護士集団が人に勧めて訴訟を起こさせ、出版社を攻撃するのは弁護士の業務を逸脱したものであると思います。言論の自由、表現の自由を脅かす、弁護士ファッショだと思います。

 なお、この訴訟では裁判所の撮影禁止の是非が争点になります。この点について、裁判所は当事者であり、公平な第三者ではないので、公正な裁判は期待できないと思います。

平成11年8月11日   ご意見・ご感想は   メールはこちらへ     トップへ戻る      目次へ