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弁護士の無責任

 イトマン事件の被告人許永中が保釈中に逃亡し、裁判所が保釈金6億円全額(現金3億円、弁護士保証3億円)の没収を決定したことについて、弁護団の弁護士7人全員が抗議し、辞任しました。辞任の理由としてそのうちの四人の弁護士は、「全額没収は不当に重い決定で、被告が逃亡したかどうかは不明」であることを挙げ、他の三人は「被告の失踪は弁護側への背信行為」としています。

 韓国へ渡ったまま昨年10月以来所在不明で、これが逃亡かどうか不明だというなら、被告人が逃亡声明でも出さない限り、ほとんどの逃亡は逃亡かどうか不明になってしまいます。弁護人に対する背信行為と言うなら、そのような失踪とは逃亡に他なりません。また、全額没収は納得できないというのは辞任の理由になるのでしょうか。弁護士を引き受ける、辞めるは弁護士と被告人との問題で、保釈金を裁判所が全額没収したから辞任するというのは理由にならないと思います。逃亡でないという立場をとるのなら辞任せずに引き続き弁護士として被告人の利益を護る義務があるのではないでしょうか。

 弁護士への背信行為を理由に辞めるというのは自分の立場だけしか考えていない辞め方です。失踪を理由に辞めるのならもっと早い時期に辞めても良さそうです。この時期になって辞めるのは保証した保釈金を没収されることに対する腹いせではないでしょうか。被告人の無実を信じていたならともかく、そうでないなら、彼はたとえ検事の言うとおりではないにしてもかなりの悪党なのです。すきがあれば、そして3億円が惜しくないと思えば逃亡することは十分考えられるのです。犯罪者とは多かれ少なかれそういうものだと思います。しかし、それは弁護士が辞任する理由にはならないと思います。いったん引き受けた以上安易に辞めるのは無責任です。これにより新たに弁護人の選任届が出されていないので(逃亡しているのだから当たりまえ)公判は事実上停止することになったそうです。

 また、弁護士の一部は検察庁に対して支払期限の延長を求めているそうですが、期限の延長という制度があるのでしようか、延長を求める理由は何なのでしようか。お金がないというのであれば、その人物は元々保証人には不適当な人物であったわけで、そのような保証人を認めた裁判所の責任が問われます。このような外国人の保釈決定や、本国への旅行許可が妥当であったかどうかも問い直す必要があります。(ちなみに、韓国では民事訴訟でも被告になっている外国人は、帰国を禁止されると聞きます)

平成10年3月11日     ご意見・ご感想は   メールはこちらへ     トップへ戻る     B目次へ