B25
裁判所が業務(後見人選任)の一部を弁護士会に下請けに出していいのか
−弁護士会は所詮業者団体に過ぎない−

 6月20日の読売新聞は、「成年後見人 弁護士会推薦人に限定 東京家裁 毎年の事務報告 義務化」と言う見出しで、次のように報じていました。
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成年後見人 弁護士会推薦人に限定 東京家裁 毎年の事務報告 義務化

 弁護士による成年後見制度を悪用した着服事件が相次いでいることを受け、東京家裁は今月から、弁護士会の推薦を受けた弁護士しか後見人に選任しない運用を始めた。年に1度の事務報告書の提出を厳守させ、提出が遅れた場合は解任などの厳しい措置で臨む。これを受け、東京の3弁護士会は近く、会員に推薦名簿への登録を呼びかける。
 不正防止に向け、家裁と弁護士会が一体で監督強化を図る全国初の取り組み。東京家裁管内の成年後見制度利用者は昨年末で約1万6800人と全国の50家裁で最も多く、他の家裁の運用にも影響を与えそうだ。
 後見人が付いた人の財産を着服するなどして逮捕・起訴された弁護士、元弁護士は、過去2年間に全国で少なくとも7人おり、被害額は2億円を超える。
 確認できただけで、うち4人は、5月に東京地検特捜部に業務上横領容疑で逮捕された元東京弁護士会副会長・松原厚被告(76)のように、弁護士会を通さず個人的な依頼で後見人を引き受けたケースだった。このため東京家裁は、弁護士会で事前研修を受けて推薦名簿に登録された者だけを選任の対象とすることを決め、3弁護士会に通知した。
 また、報告書の未提出を放置したために不正の発覚が遅れ、被害が拡大したケースもあることから、これまで2年に1度の提出でも認めていた報告書を毎年提出させることにした。
 これを受け、3弁護士会は近く各会員に対し、推薦名簿に登録しないと、同家裁で後見人に選任されない旨を通知する。また、登録時の研修に加え、家裁への報告書の提出遅れなどがないよう指導を強化。東京弁護士会だけが行ってきた家裁への報告の有無のチェックを、第一東京、第二東京の両弁護士会でも始める方針。
 ただ、すでに個人的に後見人を請け負っている弁護士については登録は義務付けられないという。
 ◆家裁が危機感(解説)
 東京家裁が、弁護士会の“お墨付き”を得た者でなければ後見人と認めない運用に踏み切ったのは、
不正対策に及び腰な弁護士会の姿勢に業を煮やしたためだ。
 弁護士会は「弁護士の独立」を重視するあまり、家裁に推薦した後見人の監督に消極的で、会を通さずに後見人になった者については選任の事実さえ把握していなかった。同じ専門職でも、司法書士の団体が推薦者を登録制にして徹底した報告を義務付けているのに比べ、「周回遅れ」(家裁関係者)との指摘もあった。それにもかかわらず、
弁護士の不正が相次いだ後も有効な手立てを講じられず、家裁は半ば一方的に運用を変えざるを得なくなった。
 今回の運用変更で、家裁と弁護士会の「二重チェック」が働くことになる。不正防止に一定の効果が期待されるが、弁護士会の積極的な取り組みがなければ有効には機能しない。
 急速な高齢化に伴い後見制度の利用者は急増が見込まれる。親族だけでなく市民後見人の増加も予想されるが、管理する財産が高額で複雑な案件を担う専門職への期待は依然として高く、これ以上、不正が続けば制度の信頼が揺らぎかねない。全国の弁護士会が危機感を持って、「推薦」の名に見合うチェック体制を整える必要がある。(小林篤子)
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 法律上後見人を選任するのは裁判所の役割のはずです。弁護士会の推薦を条件とするというのは、後見人選任の業務、権限の一部を
弁護士会に下請けに出すのと同じ事です。裁判所が業務の一部を勝手に各地の弁護士会に下請けに出していいのでしょうか

 記事にもあるとおり裁判所が「不正対策に及び腰な弁護士会の姿勢」を承知していながら、弁護士会の推薦を制度化するというのは矛盾しています。単なる
責任転嫁が目的ではないのでしょうか。自分の無能を棚に上げて他人(弁護士会)を非難しています。弁護士業界と裁判所の醜い責任のなすりあいの様相を呈しています。

 裁判所に弁護士選任の能力がなく、任務に堪えられないのであれば素直にそう言うべきです。そして裁判所を補強するか、裁判所以外に任せるかは、立法、行政の判断を待つべきです。勝手に弁護士会へ下請け発注するのは裁判所の越権行為・職務放棄と言うべきです。

 また、弁護士法を見ても、そのような後見人の推薦業務は弁護士会の業務範囲ではありません。弁護士会のような
業者団体が公共事業(裁判所の仕事)の請負業者を推薦したり指名したりするのは、弁護士間の公正な競争を妨げ独占禁止法の精神に反します

 さらに
法務省の監督下にもない業者団体である各地の弁護士会に後見人選任を依頼することは、消費者である被後見人の利益を損なう恐れが十分あります。不祥事が起きたときに、弁護士会が構成員(不祥事を起こした弁護士)をかばうためと、弁護士会自身を守るために消費者(被後見人)の利益に反する行動を取る可能性は十分あります。

 後見人以外でも、弁護士が依頼人に対して横領、背任行為を行う不祥事件は急増していますが、弁護士会の対応は会員弁護士(事件を起こした弁護士)の利益と組織を守る事が第一で、消費者(依頼人)保護の目線はありません。

 
弁護士会は法律でどのように定められていようと、建前がどのようなものであろうとも、その構成から所詮業者団体に過ぎない事を忘れてはいけません。裁判所は司法業界という狭い視野でものを考えてはいけません。

平成25年6月29日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    
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