B26
法曹改革は決して多難ではない
−弁護士業はビジネス、サービス業である事を認めよ−

 6月27日の産経新聞は、「法曹改革 多難な道 『司法試験年3000人合格』撤回」という見出しで、次のように報じていました。
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 法曹人口や法科大学院のあり方を考える政府の法曹養成制度検討会議(座長、佐々木毅・元学習院大教授)は26日、最終会議を開き、最終提言を承認して終了した。7月の法曹養成制度関係閣僚会議に提出され、政府は新組織を作って検討を続ける。司法試験合格者を年間3千人程度とする政府目標が撤回されたほかは、司法制度を支える人材の育成に関する主要テーマで具体案が示されず、問題先送りで終わった

 受験テクニックばかりで応用力に疑問がある受験者が多いと批判された“一発勝負”の旧司法試験制度に比べ、「国民の社会生活上の医師たる専門的職業人としての自覚と資質を備えた人材育成」を掲げてスタートしたのが法科大学院を柱とする現法曹養成制度。だが、法科大学院全体の司法試験合格率が約20%にとどまるなど危機的状況だ。

 法曹人口を増やすために合格者数をアップさせた結果、弁護士人口の供給過多も進み、就職難状態に。法科大学院入学から試験合格、司法修習といったプロセスを経て法曹資格を取る時点で若い人も20代半ば過ぎの年齢に達し、企業への転身も難しい。法曹界は質量ともに人材難と劣化に歯止めがかからない“負のスパイラル”に陥り始めた。複数の法曹関係者は「制度の設計時点で、法科大学院の数と司法試験合格者の数が多過ぎた」と、法曹人材の需給アンバランスが生じた点が問題とみる。

 企業内弁護士として活躍する松原功日本生命保険リスク管理統括部長は「法曹へのニーズは伸びるが問題はスピード。年間1千名超の新人弁護士を吸収するには至っていない」と指摘。「養成にかかる時間も長過ぎ。大学法学部、法科大学院、司法研修所の役割を整理し、教育期間を短縮するのも一案」と述べた。
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 「司法試験合格者を年間3千人程度とする政府目標が撤回された」、「制度の設計時点で、法科大学院の数と司法試験合格者の数が多過ぎた」とありますが、そもそも、弁護士の数を恣意的に決定しようという発想が間違っています

 国民に職業選択の自由がある以上、特定の職業について適正数を決定してそれを目標にして誘導しようという発想が間違っています。弁護士業というのは、ビジネスです。サービス業です。毎年何人の参入が適正であるかは、希望者の数と需要の多寡によって公正な市場で決定されるべきものです。
政治が決めるという発想が間違っています

 司法試験が資格試験である以上、合理的な最低限の合格ラインに達した者は、全員合格とすべきです。同じように国家資格である調理師免許の合格者が、何人が妥当であるかが政治で議論されることはありません。それと全く同様です。適正な人数は需要と供給で決まるのです。

 それにもかかわらず弁護士の業務に限って、なぜこのようなややこしい議論になるかと言えば、
弁護士業がサービス業でありビジネスであるにもかかわらず、業界関係者(いわゆる法曹界)にその認識がなく、サービス業としての資格制度、消費者目線に立った業者の監督、市場の監視、情報公開が全くできていないからです。

 弁護士業は実際はビジネスであるにもかかわらず、ビジネスではないとの虚構に立ち、ビジネスマンとして社会に対してあるいは消費者に対して果たすべき基本的な義務を果たそうとしていません。
 その典型が
自由競争を忌避していることと、業界団体(弁護士会)が公然と競争の抑制と業界利益のための活動をしていることです。

 弁護士業界が消費者目線に立った競争を忌避しているため、
経営規模の拡大(株式会社化)が進まず、小規模零細経営が多く、近代的なビジネスとしての営業活動、マネジメントができていないところから、サービスの向上が進まず、需要が伸びず、不祥事件が発生するという悪循環に陥っています。

 ビジネスであるにもかかわらず、ビジネスである事を否定し、
非営利という虚構を維持することがいかに高い物につくか、我々は思い知らされています。

 法曹改革は決して多難ではありません。今の制度を前提に、弁護士業界の特別扱いと既得権を維持することを前提に考えるから改革は進まないのです。
 
弁護士業務がサービス業であり、ビジネスであるという現実を正しく認識し既得権の維持を前提にしなければ改革は決して多難ではないと思います。

平成25年6月30日   ご意見ご感想は こちらへ   トップへ戻る    目次へ