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弁護士会による私設裁判所開設は違法

 8月19日の読売新聞朝刊に大阪弁護士会が「民間裁判所」(民事紛争処理センター)を開設していることが報じられました。同センターは、弁護士が裁判官役になって非公開の話し合いで解決を目指しているそうです。

 裁判官役を務める弁護士は一体、誰の委任を受け、誰から報酬を得て、誰のために行動するのでしょうか。一方から報酬を得ているのであればその行動は報酬を支払い、依頼をした者のためであり、依頼人のために最善を尽くすのが弁護士の務めということになります。利害の相反する相手方にとっては公平な仲介者ではありません。それを公平な仲介者であるかのように装っているとすれば、それは相手を欺いて解決していることになります。逆に依頼人の利益に反した行動をとればそれは背任になります。また、もし双方から報酬を受け取っているとすればそれは法律によって禁じられている「双方代理」になります。
 このような不明確な関係の中で双方の権利が十分守られる保証はありません。「法的効果」は同じでも公平さ、公正さが同じであるとは言えません。弁護士の職務は依頼人から依頼を受け依頼人のために代理人として行動することです。公平、公正な仲介者ではありません。

 弁護士会の設立目的は弁護士法によって定められており、「弁護士が品位を保持し、弁護士事務の改善進歩を図るため、弁護士の指導、連絡及び監督に関する事務を行うこと」とされているに過ぎません。どう解釈しても弁護士会による「私設裁判所」開設は正当化できません。全弁護士が強制加入して、地域で弁護士業務を独占している業界団体である弁護士会は、消費者の利益を損なうことのないように、法律によって定められた活動範囲を厳格に守らなければなりません。

 もし弁護士会が「スピード解決、安上がり」を目的とするなら、弁護士費用を安くして、誰もが気軽に弁護士に頼めるようにするのが正しい方向です。現に「私設裁判所」が格安の料金で請け負っているのなら弁護士費用も安くできるはずです。日弁連が決めている高額な報酬基準カルテルを直ちに撤廃すべきです。国民にとっては裁判に時間とお金が掛かる以前の問題として、気軽に安い料金で引き受けてくれる弁護士がいないことの方が困ったことなのです。弁護士の数を増やして誰もが気軽に安い料金で委任し、双方の弁護士同士の交渉によって解決を図ることができるようにするべきです。そしてそれでも解決しない、少額の事件を解決するためには簡易裁判所を活用すればよいのです。

 訴訟が長引く原因は弁護士の数が少なく、弁論の準備に時間がかかることも原因の一つです。ということは、裁判に時間とお金がかかる原因の多くは今の弁護士制度にあるのです。そして、今の弁護士制度の見直しに強く反対しているのが日弁連、弁護士会です。弁護士の増加(自由化)、カルテルの撤廃に反対して、国民を裁判所から遠ざける一方で、 このような私設裁判所づくりを進めることは、国民の裁判を受ける権利を奪うことになります。

平成10年9月6日      ご意見・ご感想は   メールはこちらへ      トップへ戻る      D目次へ