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日本は韓国に対して何か「悪いこと」をしたか

 韓国の金大中大統領の来日に合わせ、9月30日の朝日新聞に「日韓に真の新時代を」と題する社説が掲載されました。

 その中で金大統領は「日本も韓国も歴史をはっきり、勇気を持って見つめるべきです。日本は韓国やアジアで犯した過ちがあったら、それをはっきり認めるべきです」と言っています。「過ち」とは曖昧な言葉です。韓国人の金大統領が韓国語で何といったか分かりません。しかも日本人に「過ち」があったとも言っていません。しかし、そのあとで、「逆に私たちも、ただ侵略された、悪い悪いとばかり言わないで、なぜ我々が侵略されるような弱い国になったかを反省しなければいけないと思う」と言っています。「悪い悪い」の「悪い」は日本を指しているのだと考えられますので、結局「日本は悪いことをしたのだから、それをはっきり認めるべきだ」と言っているのだと思います。

 それでは日本は韓国に対してどんな悪いことをしたのでしょうか。ここでまず重要なことは、「善い」とか「悪い」と言う善悪の基準は時代によって(時には地域によって)異なると言うことです。日本が韓国を武力と威嚇によって併合したのは、今から88年前の1910年のことです。当時はアジア、アフリカのほとんどが列強の植民地で、植民地支配は決して悪とは考えられていませんでした。そして、ヨーロッパ諸国の植民地支配下では、容赦ない徹底した弾圧、殺戮と過酷な収奪が行われていました。

 日韓併合は日露戦争後のそのような時代に行われたわけですが、当時の列強はいずれも日本の勝利に伴う当然の権利としてこれを認めました。つまり、当時の国際世論の承認を得た国際法上合法的な行為であったと言うことができます。そして日本の植民地支配はヨーロッパ諸国の植民地支配に比べて遙かに人道的で、建設的な支配であったことは間違いありません。すなわち、日本は当時の善悪の基準に照らせば決して悪いことはしていないのです。それを、なぜ今になって、現代の善悪の基準を当てはめて日本が謝罪をしなければならないのでしょうか。

 朝日新聞は
「『どこまで謝罪すればいいのか』と言い立てたり国際的に通用しない歴史観ふりかざしたりすることは、日韓関係を損なうだけでなく、日本のためにもならない」と言っていますが、誰の、どういう、歴史観が国際的に通用しないのか、何ら具体的な指摘がなく、きわめて非論理的な非難になっています。

 一体、「国際的に通用する歴史観」とは、どのようなものを指すのでしょうか。「国際的」とはなんでしょう。たとえば朝鮮戦争について国際的に通用する歴史観と言うものがあるのでしょうか。ベトナム戦争についてはどうなのでしょうか。歴史をさかのぼってヨーロッパ諸国のアジア、アフリカの植民地化について、あるいはキリスト教十字軍の「遠征」について、モンゴルのユーラシア大陸「制覇」について、国際的に通用する一つの歴史観があるのでしょうか。私はそんなものはないと思います。漠然と国際的に通用する歴史観と思われているものは、単にアングロサクソンの、あるいは白人キリスト教徒の歴史観に過ぎないのではないのでしょうか。日本人が彼らの歴史観に拘束される理由はありません。

 昨年10月イギリスのエリザベス女王が、かつての植民地インドを訪問したときも、3年前オランダのベアトリックス女王がインドネシアを訪問したときも、植民地支配に対して謝罪などしていません。アングロサクソンの、あるいは白人キリスト教徒の歴史観を国際的に通用する歴史観というのなら、植民地支配を悪として断罪し、かつての宗主国が植民地に謝罪と償いをすべきという歴史観は決して「国際的に通用する歴史観」ではありません。

平成10年10月1日      ご意見・ご感想は   こちらへ      トップへ戻る      D目次へ