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「2024年問題」とは何か −日本郵便とヤマト運輸、上位企業2社の「協業」は健全な市場経済と消費者の利益に反する−
日本郵便とヤマト運輸の“協業”に関して、6月19日のNHKと、6月20日の読売新聞は、それぞれ次の様に報じていました。
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日本郵便とヤマト運輸 メール便などで協業へ 物流ひっ迫に対応
2023年6月19日 17時41分 NHK
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日本郵便とヤマト運輸は、深刻化する物流のひっ迫に対応しようと、メール便と薄型の荷物の分野で協業すると発表しました。
発表によりますと、両社は、ヤマト運輸が手がける
▽メール便の「クロネコDM便」と、
▽薄型の荷物を届ける「ネコポス」の事業について、
配達業務を日本郵便に委託する形で協業することで、基本合意したということです。
一方、ヤマト運輸は、荷物の預かり業務は引き続き行うとしています。
(中略)
しかし、請求書などの「信書」は法律で郵便以外では認められない中、一部で抵触する事例もあり、2015年以降は内容物をカタログなどに限定していました。
(中略)
両社は今回の協業について、物流業界で人手不足が深刻化する、いわゆる「2024年問題」に対応するためだとしています。
メール便をめぐっては、佐川急便もすでに配達業務を日本郵便に委託していて、日本郵便がほぼ一手に配達を担うことになります。
日本郵政“安定した物流サービス提供の解決に資する”
日本郵政の増田寛也社長は、記者会見で「物流事業者を取り巻く環境が厳しさを増し、安定した物流サービスの提供が課題となる中、両社の協業は、この課題の解決に資する取り組みだ。委託料はこれから協議するが、経営にも大きなプラスになる」と述べました。
ヤマトHD“品揃え維持しながら さらにいいサービス構築”
ヤマトホールディングスの長尾裕社長は「メール便などのサービスを提供するために、それなりの経営資源を使っていたことは否定できない。今回のパートナーシップで、商品の品揃えは維持しながら、さらにいいサービスを構築できると思う」と述べました。
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日本郵政・ヤマト協業 メール便を郵便配達 「24年」見据え
2023/06/20 05:00 読売
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協業で合意した(左から)ヤマトホールディングスの長尾裕社長、日本郵政
の増田寛也社長、日本郵便の衣川和秀社長(19日、東京都内で)
日本郵政とヤマトホールディングス(HD)は19日、チラシなどを配送するメール便や厚みの薄い小型荷物といった宅配事業で協業すると発表した。ヤマト運輸の宅配を日本郵便が担う。トラック運転手が不足する「2024年問題」を控え、両社は連携して、それぞれの配送体制の効率化を図る。
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ヤマト運輸は、郵便受けに届ける小型荷物「ネコポス」を今年10月以降順次、メール便「クロネコDM便」を24年2月から、それぞれ集荷後の配送について日本郵便に任せる。新サービスの名称(仮称)は「クロネコゆうメール」と「クロネコゆうパケット」としている。両サービスの集荷は引き続きヤマトが担う。
日本郵便は以前から、「ゆうメール」や「ゆうパケット」といったほぼヤマトと同じサービスを手がけている。ヤマトは、郵便物などの配達で全国に配送網を持つ日本郵便に配送を委ねることで、ドライバーを主力の宅急便事業などに注力させることができる。
一方、日本郵便にとっても、デジタル化の進展ではがきや封書の取り扱いが減る中、ヤマトからメール便や小型荷物の宅配を受託することで、配達員をより活用できる利点がある。
具体的には、両社は、それぞれが集めたメール便や小型荷物を、日本郵便の荷物の仕分け拠点に集めたうえで、一体的に配送先に届けることを想定している。22年度の年間取り扱いは、メール便が日本郵便(約31億個)とヤマト(約8億個)を合わせて約39億個、小型荷物が合計約8億個となる。国内のメール便配送は、日本郵便がほぼ全て担う形となる見通しだ。
物流業界では、24年からトラック運転手の残業規制が厳しくなるため、30年度に国内の輸送力が34%不足するとの試算もある。ヤマト運輸にとって、メール便や小型荷物はいずれも、主力の宅急便の取り扱い(約19億個)の半分以下にすぎない。ヤマトHDの長尾裕社長は19日の記者会見で「いかに経営資源を有効活用するかは最大の経営問題だ」と語った。
全国に日本郵便の配達網を持つ日本郵政の増田寛也社長は会見で、「相互のネットワークを活用することで、社会課題の解決を目指す」と協業の意義を強調した。もっとも、物流業界に詳しい青山ロジスティクス総合研究所の刈屋大輔氏は、「日本郵便の 投函とうかん サービスを生かす協業だが、チラシ配送などの市場は縮小傾向で、中長期で協業が成功するかどうかは見通しづらい」と指摘する。
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今回の報道でヤマト運輸と日本郵便の「協業」と、その前提として宅配運送業界が“抱える問題点”が報じられましたが、ヤマト運輸の宅急便はかつての郵便局の悪名高い“郵便小包”とは比較にならないきめ細かいサービスで、消費者に歓迎され業務を急拡大して消費者に大歓迎されて来ました。ヤマト運輸無くして通販の繁栄はあり得ません。
それに対して日本郵政側は郵便小包を廃止して、“ゆうパック”で対抗し、市場経済の元で好ましい“競争関係”を維持してきたと理解してきました。
新聞を見ても、社会のどこからも、荷主の販売店側からも、荷受け側の消費者からも不平・不満の声は出てきていないと認識していたからです。“官営”を離れた宅配業界は自由な・市場競争の元で、健全な展開をしていると思っていました。
今回の“協業”を日本郵便・クロネコヤマトの両者が歓迎し、記事を見ると報じている読売新聞社も歓迎している(少なくとも異論は無い)様に見受けられますが、本当にそれで良いのでしょうか。
業界一位と二位の企業が“協業”すると言う事は、取引企業、消費者にとって手放しで歓迎できることなのでしょうか。日本郵政の増田社長の発言には消費者の利益・不利益は全く眼中にありません。自分のことだけです。これに対して、「いいサービス」と、たった一言でも消費者に触れているヤマトの長尾社長とは明かな違いがあります。
今回の事態を招いた原因として、労働関連法規の改正により、長時間労働が禁止され、運転手不足が生じ、運送業界にひっ迫が生じることを“協業”の理由に挙げています。
しかし、そもそも運転手の長時間労働が問題視されていることは余り報じられおらず、それによる事故多発のデータが示されたこともありません。
残業時間の短縮は(実質的に固定給でなく時間給の)運転手にとっては“減収要因”となる可能もあります。
少なくとも労働者側から改善を求めて強くアピールされている状態ではなかったと思います。
また荷主・消費者にとっても運転手不足が運賃の引き上げを招く事は明らかに大きな不利益であり、巨大化しているネット通販市場関係者にとっても大きなマイナスです。
そう考えてくると今進行している“協業化”の事態は、“協業”の当事者以外には、不利益以外の何物でも無いと言う事になると言えます。大きな人形を脇に並べての発表会見はそれを覆い隠す演出だと思います。
更にこの“協業”により、クロネコ側は集荷だけとなり、その後の配達は全て日本郵便が行うという事は、クロネコ側は日本郵便の実質的な“下請け代理店”と成り、“メール便”配達業務から撤退する事になるのではないでしょうか。
もし、読売の言うように日本郵便の配達業務の先細りが“協業”の原因であるならば、日本郵便が“労働改善云々”を口実にして(便乗して)、クロネコ大和と佐川急便を下請け化すると言うことになります。NHKの言っている宅配業界の“ひっ迫”を理由として説明しているのとは大きな開きがあります。
そうなると今回の“協業”の動きは、事実上日本郵便の独占が復活されることになります。これが今回のシナリオを書いた人の本当の目的ではないのでしょうか。
令和5年6月24日 ご意見・ご感想は こちらへ トップへ戻る 目次へ