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長年の少子化対策の破綻に目をつぶる「人口戦略推進本部」には、少子化・人口減少の改善は何も期待できない。彼らは「臭いものに蓋」をするだけ

1月9日のNHKテレビニュースは、「日本の人口問題 有識者が提言「2100年に8000万人目指すべき」と言うタイトルで次の様に報じていました。
茶色字は放送 黒字は安藤の意見)
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日本の人口問題 有識者が提言「2100年に8000万人目指すべき」
2024年1月9日 19時59分  NHK

 人口減少が進む中、このままでは経済社会システムが維持できなくなるとして、
有識者のグループが提言を発表しました。人口を8000万人の規模で安定させて成長力のある社会を構築することを目指し、官民を挙げて対策に取り組むよう求めています。

 厚生労働省の「国立社会保障・人口問題研究所」は2020年の国勢調査の結果を基に、日本の人口が
2056年には1億人を下回り2100年にはおよそ6300万人に半減するという推計をまとめています。

 
「人口問題」としていますが、それは「増加」ではなく「減少」の問題で、しかもその原因は戦争や疫病の大流行などが原因の死亡の増加ではなく、出生の減少が原因ですから、これは実質的には従来“少子化対策”として論じられてきた問題と同一の筈です。

 
しかるに「人口問題」と言い換えられているのは、なぜでしょうか。それは少子化対策を諦めたと理解する他はありません。人口の増加・現状維持を諦め、減少を前提として、目標値を下げたと言う事になりますが、人口の現状維持を諦めて目標を大幅に下げる行為正しい目標設定と言えるでしょうか。

 この記事では、
少子化の原因究明と、長年の少子化対策が何の成果を上げることもなく推移したことに一切触れていませんが、「少子化問題」と「人口問題」が実質的には同一の問題であるとすれば、原因と対策について認識を新たにしなければ、減少に歯止めを掛けることは期待できないはずです。

 なぜ
8000万人が目標なのか。低くすればいいのでしょうか。何の根拠も説明がなく安易過ぎます。単に目標未達の批判を回避することだけを意図しているとと解さざるを得ません。この一つだけとってもいい加減な提言である事は明らかです。

 
理由もなく目標を8000万人と低くし達成時期を2100年と先延ばしにすれば、その間は、少子化、人口減少が回復しなくても、責任追及を免れる口実とすることができると言うことです。何と無責任・悪質な人達でしょうか。

 こうした中、日本商工会議所の前会頭の
三村明夫氏や、日本郵政社長の増田寛也有識者グループ記者会見を開いて人口問題に関する提言を発表しました。

 
「有識者」という言葉が何度も出てきますが、どういう意味で、どういう人達が該当するのか、誰がどういう基準で選任したのか、曖昧で明確な定義も基準もない言葉で、今や“いかがわしい言葉”の代表格と言うべき言葉です。
 「・・・
」と有るだけで、総人数も、他のメンバー氏名も公表されず、今までの経緯も何も説明がなく、“いかがわしさ”満開です。

 
提言では、このまま急激な人口減少が続けば市場の縮小によって、あらゆる経済社会システムが現状を維持できなくなり、先行して人口が減少する地方消滅する自治体が相次ぐと指摘しています。

 
地方の問題は、“少子化、人口減少”とは区別すべきです。地方の“過疎化”は少子化が認識される以前の人口増加の時代に既に発生しており、地方で過疎地域が出来ても、都会に移住することが出来れば、国の問題、経済の問題としては解決する問題です。別の問題を混入させ,論点をぼかすのは問題点とその原因を明らかにして、ここに至った原因を明らかにする妨げとなります。

 
そのうえで、おととしの時点で1.26となっている合計特殊出生率を、2060年に人口を長期的に維持するのに必要な2.07に改善させ、2100年に人口を8000万人の規模で安定させて成長力のある社会を構築することを目指すべきだとしています。

 
「出生率を・・・必要な2.07に改善させ・・・目指すべきだ」とありますが、「その為に何をするのか、どうしたらいいのか」に何も触れていません。目指せば実現すると思っているのでしょうか。正気とは思えません。

 そして、
内閣司令塔となる「人口戦略推進本部」を設置するほか、有識者や経済界、地方自治体などが自主的に参加する「国民会議」を立ち上げて、総合的・長期的な視点から議論を行うとともに官民挙げて対策に取り組む必要があるとしています。

 
「議論を行う前から、8000万人が決まっている」のは本末転倒です。具体的な対策の提言がない“提言”何の意味もありません。

 
記者会見に先立ち、日本商工会議所の前会頭の三村明夫氏や、日本郵政社長の増田寛也氏ら有識者のグループのメンバーは、総理大臣官邸を訪れて岸田総理大臣提言を手渡しました。

 提言作成に至る経緯が何も報じられていませんが、何もなく、この日に
いきなり“提言”発表、“内閣に人口戦略推進本部”設置“国民会議”立ち上げ“首相官邸”訪問“提言”手渡しとなることはあり得ず、この報道そのものが国民がその提言今後の進行方向可否を判断するに必要な情報を隠しているとしか言えません。

 提言で4つのシナリオ示す
今回の提言では、76年後、2100年の日本の人口規模について独自の推計を行い、4つのシナリオを示しています。

 「Aケース」…2100年に9100万人
「Aケース」では、2040年に合計特殊出生率が人口を長期的に維持するのに必要な2.07に到達し、人口は2100年に9100万人になるとしています。

その時点での高齢化率は28%となり、外国人の割合は10%となるとしています。

 「Bケース」…2100年に8000万人
「Bケース」は、出生率が2060年に2.07に達し、2100年には人口が8000万人で安定します。

高齢化率は30%、外国人の割合は10%としています。

 「Cケース」…2100年に6300万人
一方、「Cケース」は出生率が1.36で推移するシナリオで、2100年に6300万人となります。

 「Dケース」…2100年に5100万人
「Dケース」は1.13で推移するとしたもので、2100年には5100万人まで減少するとしています。

CとDの2つのケースでは、その後も安定せず減少しつづけます。

 目指すべきは「Bケース」と結論
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提言では、Aケースを「実現可能性としては極めて難しい」として、目指すべきシナリオはBケースだと結論づけています。

 ただ、実現させるためには、2040年ごろまでに出生率が1.6、2050年ごろまでに1.8に到達することが
望まれるとしていて、Bケースについて「容易ではないが、総力を挙げて取り組むなら決して不可能ではない」としています。

 
数字結論には何の根拠もなく、単なる数字遊びに過ぎません。

 
提言を発表した有識者のグループ「人口戦略会議」の議長を務める日本商工会議所の前会頭の三村明夫氏は「これまで政府も民間も危機意識を十分持っていなかった。2100年と言うと遠い世界に見えるが、何とかそれまでに『安定してこれ以上減らない』という人口状況が必要だ。人口減少のスピードをとどめるのがわれわれの責任だ」と述べました。

 政府、官僚、有識者,マスコミも
危機意識は十分で、大声でその具体策(子育て支援、共働きの母親支援)を提案し、少子化対策を主導してきました。その言動を表面的に評価する限り、危機意識に不足はありませんでした。ところがその少子化対策を何年続けても、更に対策を強化しても一向に少子化は改善することなく、更に深刻の度を増していく事態となりましたが、彼ら・彼女らは効果・成果の全く無い少子化対策を廃止・見直しする動きは全く見せることがありません。危機意識が偽装であり、本音は別の所(少子化に便乗した共働きの優遇と、専業主婦・準専業主婦撲滅)にあったと言うことはもはや否定のしようがない現実です。

 また、副議長を務める日本郵政社長の増田寛也氏は「もしこの数字が達成できなければ、社会保障などは完全に破綻する。若い人たちもさらに出産に慎重になり、地域のインフラの維持も難しくなり、さまざまな場面で選択肢が狭められる社会になっていく。容易ではないが、決して諦めることなくやっていくことが大事だ」と述べました。

 
「容易ではないが」「決して諦めることなく」という発言からは、残念ながら“危機意識”を感じることが出来ません。未達成に備えて予防線を張っているように感じられます

 次に1月10日の読賣新聞はこの問題について、「人口戦略会議 提言要旨」と言う見出しで次の様に報じていました。(
茶色字は記事 黒字は安藤の意見)
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人口戦略会議 提言要旨
2024/01/10 05:00 読売

 人口戦略会議が9日発表した「人口ビジョン2100」の要旨は次の通り。

 【冒頭】

 このままでは総人口は年間100万人のペースで減少し、わずか76年後の2100年には6300万人に半減する。少子化の流れに全く歯止めがかかっていないが、挽回は可能だ。決して諦めず、世代を超えて取り組まなければならない。

 【日本が目指す姿】

 
安定的で、成長力のある「8000万人国家」目指す。現在より小さい人口規模であっても多様性に富んだ成長力のある社会を構築し、一人ひとりにとって豊かで幸福度が世界最高水準の社会の実現を目指す。

 
人口の規模“質”は別問題です。「目指す」のは誰にでも出来ます。言うまでも無いことですが、目指せば実現すると言うものではありません。口先の発言だけで人口激減の中、「経済大国」から「中堅国家」に転落する中で、「最高水準」が実現出来るとは考えられません。素人レベルの発言です。

 
【戦略と具体策】

 
人口減少の流れを変えるには長い期間を要する。今からすぐ有効な施策を実行しなければならない。〈1〉定常化戦略(人口安定化〈2〉強靱(きょうじん)化戦略(成長力確保)を一体的に推進する。若者の雇用改善女性の就労促進永住外国人に対する総合戦略の策定なども課題だ。

 「定常化、安定化、強靱化」、
具体策に欠けるかけ声ばかり。少し具体的な部分(若者、女性、外国人)は何の効果も無かった今までの少子化対策と何も変わるところがありません。

 
【推進体制】

 内閣への「人口戦略推進本部(仮称)」設置のほか、勧告権を持つ
首相直属強力審議会、各界各層に議論を呼びかける国民会議の創設を提起。国民全体で意識を共有し、官民あげて取り組むための「国家ビジョン」が最も必要だ。

 
組織を作ればそれだけで何でも実現すると思っているのでしょうか。このような知恵も意欲も中身が何もない提言を作らせた岸田総理は「異次元の愚か者(悪党)」です。
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 この報道も少子化・人口減少の原因と、今までの少子化対策について何も触れていません。「
若者の雇用改善女性の就労促進永住外国人に対する総合戦略」と言っていることは、従来の少子化対策と変わるところは皆無です。目標値を現状の1億2000万人から8000万人に下げれば、一時的には「目標達成」となっても、少子化・人口減少の原因と対策について認識を新たにしなければ、その「目標達成」は一時の事で、長続きはせず人口の減少は止まりません。

 戦後のベビーブーム敗戦後の混乱食糧不足の時代に起きたのです。当時の日本人,日本の社会は、敗戦と、経済的な大混乱、食糧不足にもかかわらず、国民として人としての健全な精神を失っていませんでした。

 今の日本人が失ったのは
その点なのです。配偶者を得たい子供を授かりたいというのは、1人の人間として男女を問わず当然の精神なのです。さらに言えば、人間に限らず全ての生物に共通する本能なのです。もし、それを欠いている人がいればそれは精神的疾患に近いと言うべき事態なのであり、今の日本はそういう社会なのです。
 (ただし戦後のベビーブームは長くは続かず、出生率は激減しますが、それは占領軍による堕胎(妊娠中絶)の合法化・推奨が原因です)

 また
第二次ベビーブームの1970年前後の出産期の夫婦は、農業・自営業などを除けば、ほとんどが専業主婦家庭であった(共稼ぎ夫婦は希な)時代の出来事です。そしてその後の未婚の増加が出生率の低下をもたらしました。
 未婚の増加が
少子化・人口減少の最大の原因であるにもかかわらず、その改善策を提案する人達に対して、「“結婚する、しない”は個人の自由であり強制するな」「“産めよ、増やせよ”の再来だ」と言って改善策に反対する人達が多くいました。その多くは少子化対策として子育て支援の拡大(話しのすり替え)を主張して、その実現により恩恵を受けてきた既婚者達と重なります。

 この提言には“人口減少
”改善の可能性を期待できる部分は皆無です。ではなぜ“提言”をしようとするのでしょうか。それは今までの少子化対策の失敗と破綻を取り繕って敗戦の責任を負うべき人達を守る「敗戦処理投手」の役割を果たすことが目的です。
 長年の
“少子化対策の破綻”責任を負うべき人がそれを免れ、しかるべき地位、立場、職業に従事する人達が、このようないかがわしい提言をして、マスコミがその一翼を担っていかがわしい報道をすると言う日本の現状は、健全な社会ではあり得ない、あってはならない事態です。

 1億2000万人の人口から8000万人に目標低く下げれば、当面
失敗を取り繕うことが出来る。彼ら・彼女らの頭にあるのはそれだけです。そしてその背後で、私たちの子や孫達が味わう悲惨な社会がすぐそこまで来ています。

 ではまずどうすれば良いのか。それは政府が今までの少子化対策が
大失敗であった事を宣言して国民に謝罪し、責任を負うべき人達を処分・追放することが第一歩です。

令和6年1月14日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ