H181
最低賃金制度は福祉制度の一環であり、経済政策にはならないし、すべきでもない

 7月25日のNHKテレビニュースは、「最低賃金 全国平均の時給1054円に『社会全体の賃金底上げに』」と言うタイトルで、次の様に報じていました。
-------------------------------------------------------------------------------------
最低賃金 全国平均の時給1054円に「
社会全体の賃金底上げに」
2024年7月25日 16時16分  NHK

 今年度の最低賃金について議論していた厚生労働省の審議会は24日夜に決着し、物価の上昇が続いていることなどを踏まえ、過去最大となる時給で50円引き上げる目安でまとまりました。全国平均の時給は1054円となり、これまでで最も高くなります。

 最低賃金は企業が労働者に最低限支払わなければならない賃金で、現在の時給は全国平均で1004円です。

 24日夜、労使双方が参加した審議会が決着し、時給で50円、率にして5%引き上げるとする目安でまとまりました。

 引き上げ額は去年の43円を超えて過去最大です。

H181-2


 地域別では▽東京や大阪などのAランク、▽京都や静岡などのBランク、▽山形や鳥取などのCランクのいずれの地域も50円の引き上げとしました。

 各地域でこの目安通りに反映された場合、全国平均の時給は1054円となり、これまでで最も高くなります。

 引き上げにあたっては価格転嫁が十分にできていない企業があることを踏まえた上で、頻繁に購入する生活必需品の消費者物価指数が平均で5%を超えるなど物価の上昇が続く中で、最低賃金に近い水準で働く人の生活への影響に配慮したとしています。

 また、5%を超える高い水準の賃上げとなった
春闘の流れを維持し、非正規労働者中小零細企業にも波及させることも重視したとしています。

 今回の目安をもとに今後、都道府県ごとに審議会で労使の話し合いが行われ、来月には各地の最低賃金が決まり、10月以降、順次適用される予定です。

連合「社会全体の賃金の底上げにつながる」

H181-3



 労働者側の代表として議論に参加した連合の仁平章総合政策推進局長は「今回の目安は最低賃金に近い水準で働く労働者の暮らしを重視しつつ、公労使で真摯(しんし)な議論を尽くした結果として受け止めている。ことしの春闘の成果を波及させ、社会全体の賃金の底上げにつながるものだ」と評価しました。

 その一方で「どの都道府県でも最低賃金が時給1000円を超えないと暮らしが成り立たない。連合としては来年までにすべての都道府県で1000円超えを目指していて今後の地方の審議にも期待したい」と述べました。

林官房長官「2030年代半ばまでに1500円となることを目指す
 林官房長官は午前の記者会見で「最低賃金の力強い目安の取りまとめを歓迎したい。政府としては中小・小規模企業のため、労務費などの価格転嫁をいっそう図るとともに労働生産性の向上を全力で支援していく」と述べました。

 その上で、さらなる引き上げの必要性について「2030年代半ばまでに1500円となることを目指すとしており、審議会でしっかりご議論いただくとともに、政府として目標をより早く達成できるよう環境整備に取り組んでいきたい」と述べました。

立民 長妻政調会長「最低賃金1500円 早期に目指すべき
 立憲民主党の長妻政務調査会長は記者会見で「過去最大の上げ幅ということだが、それでも日本は賃金が非常に低い。実質賃金はずっとマイナスになっており、政府にはもっと深刻に考えてもらわないといけない。中小企業などへの支援策を講じた上で、最低賃金1500円を早期に目指すべきだ」と述べました。

(以下略)

------------------------------------------------------------------------------------
 市場経済の下では賃金労働の対価であり、又、雇用者の営業業績にも左右されるものであり、一概に政府の都合だけで操作できるものではないし、すべきものでもありません。

 その中で、「最低賃金」とは“労働実態”にかかわらず時間給として一律定められるものであって、本来の賃金の本質である労働の対価というよりも「生活保護」という側面が強いモノです。
 何を基準に定めるべきなのかは詳細不明で、最低賃金で生活が出来るかどうかは、家族構成にもより一概には言えません。

 このような違いから、「最低賃金」は、その他の業界・業種・職種に波及効果を期待できる制度ではなく、困窮する低賃金労働者を救うという、“福祉政策”の一環と見るべきです。

 それにもかかわらず、近年この記事の様に「最低賃金」ベースアップの基準・目安で有るかの様に論じられていますが、それは大きな誤りです。そのようなことを期待するのは、筋違いで時代遅れの“社会主義的発想”で、市場経済の根幹に触れる問題です。

 そもそも日本経済が長期にわたって低迷し、賃金水準が低下した大きな原因は、製造業を中心に低賃金を求めて、海外に工場を移転したことです。また、海外から労働者を受け入れたことも大きなマイナス要因となっているはずです。
 かつて都会に集団就職する若者達が、“金の卵”と呼ばれた時代には“最低賃金”という言葉はあまり聞かれませんでした。

 それにもかかわらず、これらの「賃金停滞」原因・要因に改善の手をつけることなく、安易に最低賃金の引き上げに走り、それを経済政策の一環として、政策に結びつけようとするのは健全な市場経済を「逸脱」するものです。
 各企業、各業界が最低賃金の動きを参考にする必要はありません。最低賃金の方が各企業、各業界の動きを見据えた上で、決定されるべきなのです。これが市場経済の本来の動きです。

 “最低賃金”を経済政策の柱の一つのごとく扱い、マクロ経済の動向が視界に入っていない岸田総理以下の政治家と、厚労官僚、有識者は正に経済音痴というべき人達です。支持率獲得のためと言う目的のためには手段を選ばず、と言う愚行です。

令和6年7月29日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ