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兵庫県の事件を単なる“内部告発問題(パワハラ)”で終わらせるのは、“真相を闇に葬る” -“パワハラ”であの二人が自殺するとは思えないし、未だに“不明”とされているのはなぜか-

 3月20日の読売新聞は、「兵庫第三者委 報告書要旨」と言う見出しで、次の様に報じていました。
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兵庫第三者委 報告書要旨 
2025/03/20 05:00 読売
#兵庫・内部告発問題

兵庫県の斎藤元彦知事を巡る内部告発問題で、県の第三者委員会が19日に公表した調査報告書の要旨は次の通り。

【告発文書に記された7項目についての調査結果】

 〈1〉「ひょうご震災記念21世紀研究機構」理事長だった五百旗頭真氏の死亡を巡る経緯

 死亡の少し前に、斎藤氏の了承を得た片山安孝副知事(当時)が副理事長の解任を通告し、五百旗頭氏を立腹させたが、県側の行為と死亡との因果関係を裏付ける証拠はなく、不明だ。

 〈2〉2021年知事選での県職員による投票依頼

 職員が公職選挙法や地方公務員法に違反する事前運動、選挙運動をした事実は認められなかった

 〈3〉次の知事選に向けた斎藤氏による投票依頼

 投票依頼の働きかけをした事実は認められなかった

 〈4〉視察先からの贈答品の受領

 贈収賄と評価できる事実はなく、斎藤氏個人への贈与ではなかった。斎藤氏が贈与を要求している、個人的に贈答品を非常に多くもらっていると他者から疑惑の目で見られるケースがあったこと自体は否定し難い

 〈5〉斎藤氏の政治資金パーティー券の大量購入

 県が圧力で購入させたとの事実関係は認められなかった

 〈6〉阪神・オリックス優勝パレードの寄付集め

 金融機関からの寄付と、県による金融機関への補助金との間に「キックバック」や「見返り」の関係は認められなかった

 〈7〉斎藤氏のパワハラ

 空飛ぶクルマに関する企業との連携協定締結式前に報道が出たことで担当職員を問い詰めたことは、怒りに任せて職員を論難したものと言わざるを得ない感情的に怒りをぶつけることは指導ではない。夜間や休日のチャットによる叱責(しっせき)や業務指示は、職員の生活時間を無用に侵害しているばかりでなく、長期間にわたって繰り返され、パワハラに当たる。(これらを含め、計10件の行為をパワハラと認定

【公益通報の観点から見た県の対応の問題点】

 ▽告発文書の作成・配布が公益通報に当たるか

 告発内容の一部は公益通報者保護法が規定する「通報対象事実」の要件をみたしている

 ▽調査への斎藤氏や片山氏ら利害関係者の関与は妥当か

 告発文書に関係ある者が調査を指示し、処分決定過程にも関与したことで懲戒処分の公正さを疑わせる事態を招き、極めて不当だ。

 ▽告発者を探索した行為の違法性

 斎藤氏は探索を命じた理由を、文書に自身らへの誹謗(ひぼう)中傷や関係企業などへの名誉毀損(きそん)等があったため、拡大を阻止し、迅速な告発者らの特定が必要な緊急性があったと説明した。このような動機による告発者探索は、同法及び指針の趣旨に反するもので、違法だ。

 ▽告発者への懲戒処分の妥当性

 当初から利害関係者が関与し、違法な告発者の探索を行うなどその違法の程度は極めて大きい。文書を作成して配布した行為を懲戒処分の対象とすることは、懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱、濫用(らんよう)するものであるから違法で、懲戒処分は効力を有しない。

 告発者は県の公益通報窓口にも通報していた。懲戒処分を行うにしても担当課の調査結果を待ち、公益通報としての保護が与えられる事案かどうかを確認してからすべきだった。処分を斎藤氏の意向で、調査結果が出るのに先行して行ったことは相当ではなかった。

 ▽斎藤氏の記者会見での発言は適切だったか

 斎藤氏は記者会見で、告発者を「公務員失格」「うそ八百」などと非難したが、文書には数多くの真実真実相当性のある事項が含まれており、「うそ八百」と無視することはできず、むしろ県政への重要な指摘をも含むものだった。斎藤氏の発言は告発者に精神的苦痛を与え、職員一般を委縮(いしゅく)させ、勤務環境を悪化させるもので、パワハラに該当する行為だった。

【まとめに代えて】

 パワハラの発生や、通報に違法・不当な対応が行われた背景と原因には〈1〉斎藤氏と職員とのコミュニケーションのギャップないし不足〈2〉斎藤氏を支える主要メンバーが同質的な集団となり、組織の分断や、異論を受け入れない硬直的姿勢が生じたこと〈3〉斎藤氏らには他の意見を取り入れる姿勢が乏しかったこと〈4〉ハラスメント防止規定や公益通報制度実施要綱が十分には機能していなかったこと――など共通の問題がある。

 組織の幹部は、感情をコントロールし、特に公式の場では、人を傷つける発言、事態を混乱させるような発言は慎むべきだ。県には、自らの力でパワハラをなくし、公益通報者を保護する体制を築く自浄力が求められる。
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 報告書は「認められなかった」の連発ですが、その証拠・根拠には全く触れていません。これでは「なかった」事を意味しません。調査が不十分であれば「認められなかった」事はいくらでもあり得ます。「あった」ことを証明することは可能(容易)ですが、「なかった」ことを証明するのは困難(不可能)です。

 これではいくら「要旨」といえども何の証明にもならなず、どうでも良い意味のない指摘でしかありません。報告としては読むものに対して何の説得力もなく、説得の意思も感じられない代物です。


 弁護士達は「有罪の証明」がなければ、「無罪推定」により、自分たちの勝利だと考えているのかも知れませんが、それは刑事裁判に限られた話しです。

 弁護士達は日頃していることが、刑事事件に関してはそのほとんどが「悪人の味方」で有るため、相手(検事)が立証出来なければ、自分たちの勝利と短絡的に考えて居るようですが、この問題が俎上に挙げられているのは刑事事件法廷ではない、政治の世界です。

 政治問題を判断する場で、「第3者」が全員弁護士である事は偏った(不適切な)構成と言わざるを得ません。

 この問題の本質は、長年兵庫県政にはびこっていた不正と、それに戦うべく多数の県民により選出された「知事」との戦いです。「パワハラ」問題は、それから派生した両者の戦いの一端でしかありません。本質ではないのです。本質から外れた部分を議論して、本質から目を逸らそうとしているのです。

 「内部告発」という見出しで、「内部告発」の問題として捉えるならば、その告発の対象の原点となった問題の問題点とその当事者達の行動の正否・善悪について十分吟味すべきであり、それをせずに通報に対する抵抗・反論だけを問題視するのは、刑事事件としてならともかく、政治の問題に対する対応としては片手落ちと言わざるを得ません。

 この報告では知事を有責としていますが、知事がなぜ県の職員達厳しい対応をしたか(余儀なくされたか)、何の説明もありません。
 長期にわたり知事と県職員がどの様な問題で、対立していたかが不明のままです。

 そもそも公益通報者が私利私欲ではなく、公益のために行動するのであれば、いきなり公益通報をするのではなく、自分の職場、職責に於いて自分の意見を言うべきであり、同時に周囲の意見に耳を傾けるべきです。それをせずにいきなり「公益通報」に走るのは、他意あるもので、職場の秩序を乱す反乱であり保護に値しません。知事が厳しい対応をしたのはそれなりの理由があったものと考えられます。

 「告発者の文書に真実と真実相当性のある事項が含まれていた」と有りますが、これは文書には少なからぬ(多分多数の)嘘が書かれていたことを表現するものです。嘘と本当が混じっていた時は、“本当”を評価するのではなく、“嘘”を非難する事が先に来るはずです。この評価は本末転倒です。

 通常であれば、仮に県職員が反対であるとしても、自己の利害がかかわっていなければ、あるいは知事に違法行為でもなければ、知事の厳しい叱責を招く様な反対行為に出るとは考えられません。上司の命には従うのが職場の原則です。
 県職員がなぜ、知事に反する行動を取っていたのかが問題ですが、この報告書では具体的な指摘(説明)がありません。
 2名の“自殺者”について、未だに“自殺”と断定されておらず、家族からの聴取も明らかにされていないのは不可解です。

 「パワハラ」発生に至る経緯・原因如何により、知事と県職員が取った行動のどちらの行動が正しいかは大きく左右されます。
 そうであるとすれば、「パワハラ云々」の是非は、県政の不正疑惑に遡って判断すべきであるにも拘わらず、それには臭いものには蓋で、それらに一切触れることなく、表面に発生した「パワハラ」に的を絞って単なる「パワハラ事件」として議論し、結論を出しているのは大きな誤りです。法律の趣旨だけからすれば、それで済む話しかも知れませんが、政治問題に対する判断としては、不十分で誤りです

 知事と問題の県職員との関係は劣悪であった事が窺われ、職員達は知事の意に反し、意に沿わない行動を取っていたものと見られますが、その実態は何も明らかにされていません。県職員の行動が、「公益」に合致する(知事に不正・不法行為があった)ものでなければ、公益通報者とは言えません。
 上司に逆らって言う事を聞かない公務員の行動は、「公益」に合致することが証明されなければ「公益通報」にはなりません。

 知事と職員のどちらも立証できなければ、後は有権者の多数意見尊重するしかありません。たった6人の弁護士が結論を出す問題ではありません。

 「まとめに代えて」では中身のないことをダラダラ書いているだけで、パワハラ事件の原因・背景について説得力のある事は何も明らかにされていません。知事の厳しい叱責で自殺するような二人ではないと思います。
 これでは“まとめ”になっていません。

令和7年3月24日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ