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出版妨害をしているのは誰か?(その2)

 各地の公立図書館が「文芸春秋」と「新潮45」を閲覧禁止にしています。いったい彼らはどんな権限があって、何を根拠にこのような措置をとっているのでしょうか。公務員が市民に対して特定の書物の閲覧を禁止する権限があるのでしょうか。少年法の趣旨に反するといっていますが、法律の趣旨に反しているかどうか誰が判断したのでしょうか。図書館長でしょうか。あるいは図書館に勤務する公務員の労働組合でしようか。法律の趣旨に反する本を読んではいけないのでしょうか。彼らは図書館にあるすべての書物について少年法の趣旨に反していないかチェックしたのでしようか。少年法以外の法律の趣旨に関してもチェックしているのでしょうか。そんなことは不可能です。もしそんなことをしていればそれは公務員による検閲に他なりません。恣意的に市民の閲覧を制限することは市民の基本的権利の侵害です。

 また、最高裁判所、家庭裁判所、法務省、日弁連、各地の弁護士会が相次いで「文芸春秋」、「新潮45」を非難し出版の中止、回収を求めています。司法関係者総ぐるみの反応で、異論を唱えるものが一人もいないところに、救いのなさを感じます。司法の問題に司法業界以外のものが口を挟み、批判することに対して、日頃の対立を越えて3者結束して排除するという姿勢がありありです。

 裁判所が法廷以外の場で、訴訟当事者でもない国民に対して、このような命令をする権限があるのでしょうか。法的な根拠のないこれらの行為は法治国家として許せません。両社がこの裁判所の命令に不服で争おうとするときはいったいどのような方法を採ったらよいのでしょうか。最高裁判所がすでに命令を出していることに対して裁判を通じて争う道が残されているのでしょうか。図書館の閲覧禁止が違法であると訴える人がでたら、すでに当事者になっている裁判所に裁判をする資格があるのでしょうか。各地の図書館はこれらの裁判所の命令を根拠に閲覧制限を正当化しているからです。国民の権利が不当に侵害されたとしかいいようがありません。

 日弁連や弁護士会はその地域で弁護士業務を独占している団体です。その団体が今回のような個別の事件に介入し、一方の側に立つことは、他の一方である、文芸春秋社や新潮社にとっては致命的な不利益となります。両社が弁護士に委任して法廷で争おうとすれば、その弁護士は自らが所属している業界団体(強制加入で脱退することはできない)を敵に回して争わなくてはなりません。弁護士は後込みするかもしれません。弁護士団体の介入はきわめて不当な行為です。それとも日弁連はこのような、けしからん出版社は法律の保護に値しないとでも考えているのでしょうか。何が正しくて、何が正しくないかは弁護士業界が決めることではありません。弁護士はサービス業です。弁護士は依頼人の意に副って専門的なサービスを提供し、依頼人の利益を護り、対価を受け取るものです。業務上の立場を利用して、また業界団体として独占を許されている立場を悪用して政治的な影響を与えようとする行為は民主政治をゆがめるものです。

 オウム真理教に対して破防法を適用することにすら反対している権利意識の強い人々が、出版の妨害、図書館の閲覧制限という国民の基本的権利の侵害を傍観しているに止まらず、積極的にこれに荷担しているのは不可解と言うほかありません。彼らの権利意識は所詮自分の権利の主張に止まり、他人の権利、普遍的な権利の主張ではないのです。

平成10年2月21日      ご意見・ご感想は   こちらへ      トップへ戻る      J目次へ