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「新潮社の少年事件報道訴訟」、適格性を欠く裁判所

 新潮社が月刊誌「新潮45」で、大阪府堺市の少年事件の犯人の少年について、実名でその生い立ちなどを詳細に報じたことに対し、殺人罪で起訴されている少年側が、名誉、プライバシーを侵害されたとして、2,200万円の損害賠償を求めていた裁判で、裁判所は被告の新潮社に対して、「非難を承知の上での掲載は極めて悪質」として、250万円の支払いを命じました。

 判決は「・・・二度にわたって法務当局から再発防止の勧告を受け、雑誌発行に当たって強い反発や非難が予想できたにもかかわらず、あえて掲載したのは極めて悪質」といっていますが、強い反発とか、非難とは誰のものを言っているのでしょうか。裁判所の耳には新潮社を支持する人々の声は全く届いていないのでしょうか。裁判所は法務当局と、弁護士会という、業界関係者の声しか聞いていないと思われます。

 この裁判はあくまで民事の損害賠償訴訟です。原告の受けた精神的な苦痛を賠償する必要があるか。あるとすればそれは金銭にしていくらが妥当かという裁判のはずです。それにもかかわらず、原告弁護団が損害賠償額が請求よりも減額されたことについて、「経済的に割に合わないことを認識させない限り、こうした報道が続く」と言っているのは、この訴訟の目的が損害賠償よりも、新潮社に高額の罰金を科して、実名報道を断念させることにあったことを窺わせます。

 弁護団が、この裁判で勝訴した場合、「得られた損害賠償金は、被害者への賠償資金に充てるか、被害者の同意の下に、シンナー等の薬物依存からの離脱を支援しているNGOの活動資金やシンナーの薬害の啓発をする公私の団体の諸活動のために寄付等する予定」といっている事からも、この裁判の目的が本来の精神的な苦痛に対する償いではなく、被告の新潮社に高額の慰謝料を支払わせ、新潮社を屈服させることであることが分かります。少年法には罰則規定がないにもかかわらず、司法関係者が原告を抱き込み、訴訟を起こさせ、民事訴訟を悪用して新潮社に罰金を支払わせようとしているのです。

 神戸の少年事件の際の、新潮社、文芸春秋社両社の報道以来、最高裁判所、家庭裁判所は、法廷外で繰り返し両社を非難し、出版の中止、雑誌の回収を求める声明を発表して来ました。この問題に関しては、裁判所は既に事件の当事者であり、公平で、公正な第三者とは言えません。今回の損害賠償請求事件に関しては、裁判所は裁判所としての適格性を欠いていると思います。

平成11年6月12日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ