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身体障害者と人権
 

 10月31日の読売新聞の一面トップに、「障害者 医師へ門戸開放」という見出しの記事があり、医師免許などの欠格条項が見直され、目の見えない人、耳の聞こえない人、口のきけない人にも医師、歯科医師、看護婦などの道が開かれるようになると、次のように報じられていました。

 「『目の見えない者、耳が聞こえない者、または口がきけない者には免許を与えない』などの『絶対的欠格事由の条項がそれぞれの関係法にあり、・・・見直し案はこれらの条項を撤廃し、『免許を与えないことがある』という相対的欠格事由」に緩める」、「これにより、目が見えなくても、エックス線写真を他人に見てもらって総合的な診断をしたり、・・・耳が聞こえない場合は手話通訳者を通じた診断や、筆談での意志疎通も想定されている」、「欠格条項は、政府が昨年8月障害者の社会参加を妨げるものとして、2002年度までに見直しを決め各省庁で検討を進めている」

 この見直しは患者の立場から考えて歓迎すべきものでしょうか。大変不安です。エックス線写真を他人(医師?素人?)に見てもらうことは医師が自分で診察することになるのでしょうか。耳の聞こえない人は聴診器は使えません。やはり他人に聴いてもらうのでしょうか。目の見えない人、耳の聞こえない人が注射をしたり、手術をしたりすることが可能でしょうか。やはりこれも他人にしてもらうのでしょうか。
 常識的に考えても、これらの障害者が医師として働くことは無理であると思います。誤診や医療ミスの可能性を否定できません。患者にとっては大変迷惑な話です。

 このことは今回この緩和措置を決めた、厚生省の医療関係者審議会の小委員会の人達も、多分認識していると思います。絶対的から相対的に変わったとは言え、これらの障害が欠格事由として存続することや、記事の中で小委員会が「・・・障害の種類によっては診察が困難な診療科もあるが、実際の選択については、本人の判断に任せる」と言っているのはその表れだと思います。実際に障害者にすべての門戸が開放されたわけではありません。開放されたように見せかけ、法律で排除するのではなく、運用で排除することに変わるだけだと思います。

 それではなぜわざわざ今回のような緩和策を決めるのでしょうか。それは、障害者に対して医師になる道を閉ざすことが、「差別」とか「人権侵害」と言われることを恐れているからだと思います。しかし、障害者が医師になれないのは彼らが医師になる権利を奪われているからではなく、彼らが医師として働く能力を欠いているからです。これは明白な事実であって、事実を指摘することは「差別」でも、「人権侵害」でもありません。法律上の欠格事由は単にその事実を再確認して規定されているに過ぎません。

 医師として働く能力を欠く人に、法律上医師となる道を開いたところで何の意味もありません。実際に医師として働けるわけがありません。それを承知の上で行われる法律上の緩和策とは偽善、欺瞞以外の何ものでもないと思います。

平成12年11月4日   ご意見・ご感想は   こちらへ     トップへ戻る      目次へ