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三菱自動車の燃費偽装問題、急転直下の資本提携 日産は三菱の弱みにつけ込んだのではないか−不正の公表が遅れたことをなぜ問題にしないのか−


 5月13日の読売新聞は、「再建急ぎ電撃提携…三菱自 不正発覚で方針転換」と言う見出しで、次のように報じていました。
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[スキャナー]再建急ぎ電撃提携…三菱自 不正発覚で方針転換
読売 2016年5月13日5時0分

記者会見に臨む日産自動車のゴーン社長(右)と三菱自動車の益子会長(12日午後、横浜市で)=伊藤紘二撮影

 三菱自動車の燃費偽装問題の発覚から3週間。日産自動車は短期間で、三菱自を事実上の傘下に収める決断に踏み切った。世界販売台数1000万台を達成して「4強時代」を目指す日産と、経営の立て直しが急務となった三菱自の事情が一致した。自動車メーカーは開発販売競争で生き残るため、規模の追求を迫られている。(経済部 井戸田崇志、小沢理貴)

日産 東南アジア拡販にらむ

  信頼回復
 「(燃費偽装で)心配いただいた顧客や取引先、株主、社員に喜んでもらえると思っている」

 三菱自の益子修会長は12日、日産のカルロス・ゴーン社長と臨んだ共同記者会見で、資本業務提携の意義を強調した。ゴーン氏は、「(資本提携は)長期的な展望の延長線上」と述べ、偽装の発覚前から検討していたと説明した。

 
三菱自はこれまで、他社との資本提携に慎重だった。三菱自首脳の一人は昨秋の読売新聞の取材に対し、自動車業界では大型提携の失敗例が多く、業務提携にとどめる方が新型車の開発などで柔軟に対応でき、効果が大きいと述べていた。

 そうした姿勢を百八十度転換させたのは、4月20日に発覚した燃費偽装だ。偽装した車を買った客や、稼働が低迷した部品会社への補償がどの程度の規模に膨らむかは見通しにくい。

 企業イメージが失墜し、早期の販売回復が難しく、自力での再建の道は早々に断念せざるを得なかった。

  御三家
 2000年以降のリコール(回収・無償修理)隠し問題では三菱自を支えたグループの三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行は、今回は支援が難しい状況だった。

 三菱自は軽自動車の生産や販売ができず、業績の足を引っ張る。日産や顧客などへの補償を考えれば、4000億円を超す現預金の蓄えも早晩、底をつきかねず、市場では「御三家に支援を求める」とみられていた。

 しかし、三菱重工は工期の遅れで大型客船の損失が膨らみ、三菱商事は資源価格の低迷で、16年3月期決算で初めて税引き後利益で赤字を計上した。「三菱自への追加支援は株主に説明できない」(三菱グループ関係者)といった声が漏れていた。三菱自は日産の出資を仰ぎ、信用力を高めるしか手がなかった。


 
割安
 ゴーン氏は会見で「東南アジアで素晴らしい仕事をしている」と持ち上げた。

 日産は、中国を除くアジアの販売台数が世界販売に占める割合は1割に満たず、東南アジアでの販売拡大が課題だった。三菱自は東南アジアに複数の生産拠点を持ち、三菱自の世界販売のうち、アジア地域は最多の3割を占める。ゴーン氏は会見で「三菱ブランドを守る」と強調した。

 日産による三菱自株の取得額は約
468円。偽装発覚前日の終値(864円)と比べ、4割以上低い。燃費偽装が発覚した翌日の4月21日から5月11日までの三菱自株の株価に売買高を考慮した価格だ。

 
ゴーン氏は会見で、「今回の事象(燃費偽装)で(提携拡大が)早まった」と述べた。偽装発覚前よりも割安で出資できることも日産の背中を押したとみられる。

(中略)

 三菱自では2000年と04年の2回にわたるリコール(回収・無償修理)隠し問題が起きた。今回も日産の指摘で燃費偽装が発覚した経緯があり、三菱自の益子修会長は11日の記者会見で「問題の根は深い」と述べた。法令や顧客を軽視する企業体質が変わらないことへの批判が多い。

(以下略)

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 記事を読むと、今回の提携は日産にとってメリットが大きいことが分かります。また、
「ゴーン氏は会見で、『今回の事象(燃費偽装)で(提携拡大が)早まった』と述べた。偽装発覚前よりも割安で出資できることも日産の背中を押したとみられる」 とも書かれています。
 誰が背中を押したのかを明らかにせず、あたかも「日産は資本提携に受け身であった」ように書かれていますが、三菱が苦境に陥ることが容易に予測でき、このタイミングでの提携が日産に大きな利益をもたらすことが確実であれば、
「日産が(三菱の)背中を押した」可能性は否定できません。その押し方がきつかったので三菱はよろめき、日産に屈した可能性は否定できません。

 日産が昨年11月に燃費不正を把握してから問題が公になるまでの期間が
約半年と長いのに対して、燃費問題が公になってから資本提携合意までの期間が約3週間短すぎて不自然です。その間に何があったのか、なぜ公にしなかったのか説明がなく不自然です。

 両社が不正を知ったにもかかわらず、正当な理由がなく直ちに公表しなかったのであれば、それは
消費者に対する背信であり、監督官庁に対する届け出義務違反にもなると思います。公表が遅れたことにより損害を被った三菱の株主も少なくないはずです。マスコミや役所はなぜそれを問題にしないのでしょうか。

 日産は本来は三菱に対して「被害者」の立場であるにもかかわらず、今回受けた損害について、何ら怒りを表明することなく、賠償請求について具体的に要求することもなく、「Win Win」を強調するのは不可解で信用できません。
 日産が救世主のごとく振る舞うのは偽善であると思います。

平成28年5月13日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ