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東急百貨店の催告状は恐喝まがい

 山一証券が廃業に追い込まれた詳細な経緯が、社内の調査委員会で作成され、「調査報告書」として発表されました。
 その中で東急百貨店との取引で生じた損失をめぐるトラブルで、東急百貨店側の弁護士から送付された平成4年1月21日付の催告書に注目すべきです。その催告書には「・・・万一返済がなされないときは、同社は直ちに東京地検特捜部に詐欺の被害にあったものとして貴社代表取締役らを告訴し、また報道機関を通じて事案の全容を公表する意向であります」と書かれています。

 ふつうこの種の催告状では、請求に応じないときは訴訟提起をすると書くものです。訴訟とはもちろん民事訴訟です。金銭の請求なのですから当然です。ところが産経新聞4月17日朝刊の記事に漏れがなければ、この弁護士は「請求に応じなければ民事訴訟にする」という、当然言うべき事を言っていません。これは何を意味するのでしょうか。

 証券会社に利回り保証させる契約を結ぶことは、違法ないし公序良俗違反となる可能性が高く、訴訟をしても勝てないことを知っていたものと思われます。特に“被害者”が一般の個人投資家でなく、専門の財務担当者がいる大企業であれば、違法性を認識していたと考えられます。だからこそ訴訟提起と言わず、詐欺として訴えるとか新聞に書くとか発表するとかの恐喝まがいの催告をしているのです。民事訴訟で勝てない事件が詐欺罪になる可能性はほとんどありません。検察庁と新聞業界は恐喝のだしに使われたわけです。

 「報道機関を通じて事実の全容を公表する」と言っても、記事にするかしないかは新聞社がすることで、催告書に書くべき事ではありません。「マスコミにばらす」は恐喝の決まり文句です。新聞社に通知すれば、すぐ飛びついてくると思っていた節が窺えます。

 山一は大蔵省が干渉してくるまでは訴訟で争うつもりでいました。山一証券が恐喝に屈したのは、自分にも弱みがあり強くでられなかっただけです。恐喝犯罪とは常に相手の弱み、人に知られたくない弱みをついてくるものなのです。相手が恐喝に屈したからと言って恐喝したものに理があることを意味する訳ではありません。

平成10年4月19日      ご意見・ご感想は   こちらへ      トップへ戻る      Z目次へ