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月刊 『自然と人間』 03年2月号 小さな生物から見ても、ごみの最終処分場は恐ろしいところらしい。一ミリの一○分の一から一○○分の一、顕微鏡でやっと見える小さな植物、珪藻(けいそう)の仲間が、奇形を生じながらも処分場の下流でじっと汚染に耐えている姿が明らかになりつつある。 珪藻は、岩石の成分でもある珪酸(けいさん)化合物の硬い殻を持ち、表面に細かい線状の模様がある。種類によって模様が違い、水底の石に付着するもの、浮遊する仲間、海水を好むものと、変化に富む。世界中で一○万種とも推定されるが、胞子が空を飛んで移動するため、地球の裏側で同じ種類の見つかることもある。死骸が海底に集まって固まると珪藻土になり、彫刻などに使われる。昔懐かしい七輪は、珪藻土と粘土を混ぜかためて作られていた。
処分場の下流に奇形処分場の下流で珪藻の形に異常があるのを見つけたのは元・京都府立大学講師、小杉廸子(みちこ)さんである。一九七九年に奈良市が東部山間の米谷(まいたに)町に建設中だった処分場下流を調べはじめた。処分場が出来たあとも調査が続けられ、すでに二○年を超えて蓄積されたデータは、類例のない貴重な研究資料となっている。 八三年、小杉さんは初めて奇形を見つけた。京都府立大学紀要の報告には「珪藻の畸型と思われるものが五種類出現している・・どのような条件下で珪藻の畸型が生成されるのか興味深い事実である」とある。細長い糸巻きのような殻の一部が、へこんだり一方に折れ曲がったりくねったりしている。物理的に欠けたり変形したりしたものでないことは模様から明らかだ。育つときに何かの異常があったものらしい。 珪藻の増え方は、弁当箱のフタを開けるのに似ている。一個の珪藻がミとフタのように分裂し、それぞれ内側に新しい殻ができて新しい個体になる。はじめは細胞膜が柔らかいので、この時に異常が生じるのだろうと小杉さんは推測する。奇形発生の仕組みはまだわかっていない。 ただ、珪藻は石に付着する種が多く、光合成をする時に無機物を細胞内に取りこんで有機物を作る。川底には水に溶けない鉛やカドミウム・ヒ素などの有害な重金属が沈殿している可能性もあるから、水質を調べるときは流水だけでなく底質の化学分析が大切だと考えられる。 他にも、ごみの焼却灰には色々な有害物質が含まれるため、処理施設で除去したあと放流している。処理した水は透明だが、塩化ナトリウムなどの無機塩分濃度が高く、処理しても取り除けない。海水の四分の一ほどの濃さになることもある。そのため九一年には汽水(真水と海水が混じる河口の水)だけに生きる種類がここに住むようになった。
産廃処分場には住めない?米谷町の処分場で主に投入しているのは都市ごみの焼却灰である。産廃処分場のように雑多な物質を入れてはいない。では産廃処分場の下流はどうなっているのだろうか。 小杉さんは奈良市中ノ川町の産廃処分場直下でも珪藻の調査を続けてきた。ここには山末組という業者が七○年代に産廃を入れていた処分場跡がある。排水処理の設備も放置されたままだ。二○年以上たった今も川床がオレンジ色に染まり、流れの近くに行くと雑木林に似合わない人工化学物質の臭気が漂う。 最近、小杉さんが下流を調べたところでは、ここには珪藻の破片しか見つからず、ほとんど生きた珪藻が住んでいないようだという。珪藻は水のある場所にはたいてい生息しているもので、こんな例は珍しい。 奈良県だけでも廃棄物の埋まっている処分場跡地は数多い。古いものや不法投棄も多いため、実態はよく分からない。下流では、珪藻が同じ被害を受けていることだろう。
処分場開設で現れた変化二○○○年五月に奈良市は米谷町の南側に新しい処分場を増設した。これまでとは別の川に排水が流れ始めた。その結果、この川に二つの変化が現れた。 第一の変化は川の塩分濃度が上昇して、たちまち汽水種の珪藻が現れたことだ。確認された九四種の珪藻のうち、一四種は汽水種だった。水中の物質の変化を、珪藻がすばやく生活の変化として示したのだろう。下流に水田などがあり、与える影響を軽減するため、奈良市の説明では井戸水で一○倍ほどに希釈しているという。これについて小杉さんは「塩分濃度が低くても、珪藻は微細に早く対応して生活するので、今後も正確なチェックが必要である」と書いている。 もう一つは、投入開始の翌年にさっそく奇形が見つかったことだ。コッコネイスという学名のコバンケイソウの殻が変形していた。中心線をはさんで左右対称のはずが、片方が縮んで非対称になっている。これまでにも小杉さんは京都の加茂川などで奇形が出現するのを時々は観察して来た。しかしこの時は次から次へと顕微鏡の視野に出てくるので「これには驚きました」と話す。珪藻の一世代は一週間ほどと短く、水生昆虫などによる調査よりはるかに早く環境の変化を発見できる。 人間から見ると、珪藻など植物プランクトンは水中に酸素を供給し、河川を自然浄化する重要な生物である。海の珪藻が減ってきたという報告もある。微生物が変化を敏感にとらえ、環境の再生をうったえていると感じられないだろうか。 Copyright: Tamaki Bessho 2003 home |