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子どもたちをむしばむ
ごみ汚染

www.kcn.ne.jp/~gauss/env/eurohazcon.html

『週刊金曜日』 02年3月8日号
別処珠樹

デンマークのフュン島は、童話作家ハンス・クリスチャン・アナセン(アンデルセン)が生まれたところだ。ユトラント半島と、コペンハーゲンのあるシェラン島に挟まれた海峡の島で、見わたすかぎり美しい緑の牧草地や花咲く農園がひろがる。 この島の東岸には、公営のごみ処理会社 「コムネケミ」 が運営する同国でもっとも大きな有害ごみ処分場があり、焼却では処理できない有害ごみや焼却灰を埋め立てている。 「処分場が近所に来てほしいと思う人はだれもいない」 とデンマーク環境保護庁は認めた上で、欧州連合が近く処分場指令をだすので、きびしい管理体制をとっているという。 このフュン島をはじめ、ヨーロッパの各地にある処分場やごみ焼却炉のまわりでは、妊娠中の女性たちがきびしい環境にさらされ、生まれてくる子どもたちの健康をそこねている可能性が高い。

高い染色体異常発生率

ごみ処分場がまわりにあたえる影響を丹念にしらべた新しい調査結果が、すぐれた研究成果を世に問うことで世界に知られるイギリスの医学雑誌 『ランセット』 二○○二年一月号に発表された。ロンドン大学のM・ブイヘイド、アルスター大学のH・ドルクらが発表した 「染色体の先天異常と有害廃棄物処分場周辺の住民」 という報告だ(注1)。

EU五カ国(デンマーク・英・仏・ベルギー・伊)の研究者一三人が、処分場の近くで集めた医学データをもち寄ったほか、英国イングランド・ウェールズ両地方のダウン症統計を活用した。調査は、五カ国にある合計二三カ所の処分場周辺で行なわれた。

病気や障害が起きている状況から、なぜそうなるのかを探り出そうとする疫学調査では、サンプルに偏りがあると正しい結果が得られない。そのため、対象になった子どもをもつ家庭の経済状態や、女性が子どもを生んだ年齢を考えに入れて補正が加えられた。

染色体異常があった子ども二四五人と健常群の子ども二四一二人を調べたところ、処分場の外側三〜七キロメートルの 「周辺ゾーン」 とくらべて三キロメートル内の 「近接ゾーン」 では染色体異常の発生率が四一%高いという結果が出た。 「染色体異常」 とは、細胞の核の中にある染色体が切れたり欠けたり、数があわなかったり重複したりと、光学顕微鏡で確認できるような異常を示しているものをいう。ダウン症などの症状のほか、流産した胎児にも染色体異常の見られることが多い。またダウン症を除いて計算すると健常群より六四%高いという結果が出た。処分場ごとの違いは少なく、どこも同じような傾向を示していた。

結果について報告書は、 「どんな化学物質が染色体異常を起こすのか、住民がその物質をどのように取り込んでいるのかについて、もっと研究をかさねる必要がある」 と書いている。

この報告を発表したブイヘイドら研究者たちは、一九九八年にも大規模な調査を行っている。このときは、心臓の隔壁が欠けている障害や動脈・静脈の異常、気管・食道の異常、尿道の障害(下裂)など、染色体異常が見られない子どもの先天障害を調べ、今回の調査とよく似た結果を得ている(注2)。

対象とした場所もほとんど同じで、二一カ所の処分場のまわりでデータを集めている。障害をもった出産や死産・流産の一○八九例と、正常出産の二三六六例を調べたところ、三キロメートル内の 「近接ゾーン」 では 「周辺ゾーン」 とくらべて先天障害の発生率が三三%高かった。血管の異常や、胎児の脊髄が発達していく段階に現れる神経管の異常では、発生率が八○%以上高いという結果も出た。

この九八年の結果についてのコメントで報告者は、 「この調査で、処分場に近づくほどリスクが大きくなる先天異常には、色々な種類のあることがわかった。・・今後の研究では、これらの発見を仮説として使うことになるだろう。中でも、尿道下裂のリスクが大きくなっているのは、内分泌撹乱物質による男子の生殖異常と結びつくかもしれず、特に興味をひく」 と書いている。

ごみの遺産がいまも影響をあたえているのは処分場だけではない。ごみ焼却炉の近くで子どもの白血病などが多発しているという調査結果を、二○○一年にベルギーの市民団体が医学研究者の協力を得て報告した(注3)。

オランダとの国境に近いベルギーの大都市アントワープから南西一五キロほどのところに、人口四万人の小都市サンタクロース市がある。有害物質を出すような工業施設がない田園都市だ。中心部の鉄道駅から西へ二キロ行くと、同市をふくめ周辺五自治体のごみを焼却する日量約一五○トンの炉がある。七七年の操業開始とともに、排ガス中の有害物質を除去するのに電気集塵機を使ってきた。焼却灰は開放型のコンテナにあつめて輸送している。

南西の風が多いため、焼却炉の東北一キロメートルの圏内に入る 「花梨通り」 がもっとも影響を受けると思われる。九八年一月、この通りを一軒ずつ調査員がまわってアンケートを実施した。全一四五世帯の約六割、二八一人が回答をよせた。

このうち九八人が何らかの不調を訴えた。なかでも、二歳から九歳までの男の子の九○%が不調を訴えているのが目につく。特に子どもの白血病・リンパ腫(腺がん)が多く、すでに死亡した人も含めると白血病は六例を数える。日本では白血病の平均的な発生率が二万人に一人なので、この数値は異常に高い。すべて焼却炉の風下一キロ以内で発生している。

がん全体の発生率を見ると、操業当初はベルギー全体の平均と同じだった発生率が、九五〜九七年には四・八倍に跳ね上がっている。

ところが同地区には、乳がんや子宮頸がんで死亡した女性がいない。ベルギー全体では、これらのがんによる死亡率が二一%にもなるのに、卵巣がんなども発生率が低く、大規模なダイオキシン汚染を起こしたイタリアのセベソ(注4)と共通する現象だ。報告書は、ダイオキシン類などが女性ホルモンの働きを抑える効果をもっているからだろうと推定している。

自閉症・心臓欠陥など先天障害をもって生まれる子どもも多い。風下では七キロ離れたところまで先天障害が現れている。循環器系疾患で亡くなる人もきわめて多く、炉ができた当時から呼吸器の問題、湿疹、アレルギー疾患が多発している。操業をはじめてから数年後には免疫系・生殖系、また不眠・疲労感やホルモン系の問題が出はじめている。

ベルギーの平均死亡年齢は女性七八歳、男性七一歳だが、この地区では女性六○歳、男性六五歳と低い。

日本でも危険信号

ひるがえって日本の現状はどうだろうか。私が参加している 「奈良ごみの会」 (以下ごみの会)の資料から、奈良県を例にとってみよう。

奈良県周辺の住民団体は、処分場のまわりで起きている水の汚染を調べるのに、電気伝導度計という小さな測定計器をよく使っている。電気伝導度は、水の中をどれだけ電流が通りやすいかを表す。イオンの量が多くなるほど高くなるので、水の汚染を知るよい指標になる。人工的な汚染のない山の水では、数十μS/p (μSはマイクロジーメンス、ジーメンスの百万分の一。以下、単位を省略)程度だ。汚染が進むと、これが数百〜数千になる。

同県桜井市にある産業廃棄物の 「中和営繕」 処分場で、井戸水の汚染状況を調べるため、昨年十一月、近くの住民が電気伝導度を測ったところ、処分場の下流にある集落で通常の数値を大きく超え、五九五を示す井戸があった。汚れた河川でもせいぜい二○○〜三○○程度だから、井戸がこれだけ高い数字を示すのは異例だ。その家庭の近くでも、多くの井戸で計器が三○○程度の数字を示す。

処分場からの汚水が地下水に流入している可能性が高いが、いったん汚染を受けた地下水をもとどおりにするのは不可能に近い。いまも井戸水を使う家庭があるから、他の地域でも処分場のまわりの地下水を調べることが緊急に必要だ。

一方、奈良市左京地区では以前から焼却炉の建て替えが話題にのぼっている。現在ある焼却炉に問題がないかどうか、奈良市内の小学校でおこなわれた小学生の健康診断結果を、焼却炉の近くに住む市民が解析した。その結果、炉の直近にある小学校で耳鼻関係のアレルギー症状をもつ児童が一○○人以上いて、その割合が奈良市で上位にランクされることがわかった。この結果を公表したところ、翌年の健康診断では同様のアレルギー症状をもつ児童がたった一人と報告された。あまりにも恣意的な診断に対して批判の声が出ている。

解析した市民は 「焼却炉周辺三千人のなかに、知るかぎりで白血病の患者さんが三人います。一人は最近なくなり、二人は子どもさんです。いくら焼却炉を更新して排ガス処理を完備したとしても、過去の被害は残るのではないかと不安です」 と話す。前述のように白血病の平均発生率は二万人に一人で、奈良市左京地区の数字はきわめて高い。

同じ地域で別の住民がビルの屋上にたまった土を分析に出したところ、鉛が一グラムあたり一○○マイクログラム(一○○ppm[一○○万分の一]にあたる)という濃度で検出された。日本には土中の鉛の基準はないが、この数値はドイツで 「予防値」 といわれ、子どもの遊び場など特に安全性について配慮する必要がある場所で土の入れ替えも考える値だ。重金属類はいったん体内に入ると蓄積しやすいところに問題がある。水銀・鉛などがADHD(注意欠陥・多動性障害)をはじめ、子どもの神経症状に大きくかかわるという研究が次々と出ている(註4)。

この焼却炉から南東一・五キロのところに奈良市のごみ処分場がある。ここでは埋め立てたプラスチックごみを掘り起こして運び出す作業をしており、作業にともなって有害物が飛散している可能性がある。ここからの排水は処理して放流しているにもかかわらず、強い化学物質臭を放つ。これらの影響はわかっていない。

すぐに大規模な調査を

いま日本のごみ処理は、ガス化溶融炉・灰溶融・キレート処理など、 「高度」 な技術で汚染を封じ込める方向に進みつつある。その技術がどれだけのものであるかは別として、これまでの汚染はどうなっているのかという問題が忘れ去られようとしている。瀬戸内の豊島など、声が大きく上がったところを除いて、過去の処分場という処分場は、ほとんど何の対策もとられていないに等しい。

例えば、奈良市街の東に、世界自然遺産の登録地である春日原生林がある。この周辺をとりまく緩衝地帯のすぐ外側には、ごみの会で 「法用の産廃」 とよんでいる大規模な処分場群がある。総面積は香川県の豊島を上回る約二四ヘクタールである。ここから排出される水は不法投棄の山から流入する水のためか、数年前に処理装置を付けた後もオレンジ色ににごり、つよい化学物質臭を放ったままだ。奈良県・奈良市は対策を施す気配がない。この水は奈良市の上水道に入り、市民の飲み水となる。

焼却炉の排ガス対策や焼却灰対策も必要だが、それだけでごみ汚染を防ぐことはできない。影響が大きいのは最終処分場だろう。処分場は有害物質を閉じ込めておくための場所だと一般に信じられている。しかし実際は有害物質をゆっくりと環境に拡散させるための仕掛けだ。そう見方を変えなければ本当の姿が見えてこない。ヨーロッパの報告を真剣に受け止め、処分場や焼却炉のまわりで大規模な調査を実施する必要がある。

ベルギーで焼却炉の報告書を作成した二人のサンタクロース市民、フレッドとクリスティーネは、報告書の最後に 「子どものことを考えない社会は、原始時代や途上国の社会より劣っています」 と書いている。

Copyright: Tamaki Bessho 2002


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