home

樹脂加工フライパンから
有害ガスが発生

www.kcn.ne.jp/~gauss/env/pan.html

『週刊金曜日』 03年6月6日号
別処珠樹

世界の各地でポリマー蒸気熱(PFF)という風邪に似た奇妙な症状が報告されている。

26歳のオランダ人女性が台所仕事をするうち、呼吸困難を訴えて入院した。胸が締め付けられたようになり、激しいセキが出る。脈拍が速くなり、血圧も上昇した。血液を調べると白血球の数が増えていた。

一か月たっても肺機能は完全には回復しなかった。使っている調理器具の表面にコーティングされていたフッ素樹脂が、高温で分解して蒸気となり、これを肺の奥深くまで吸い込んだためだという。

人間に影響が出るのは、かなりの高温でフッ素樹脂が分解された場合だと考えられるが、ガスに敏感な鳥では多くの事故死が報告されている。彼女が飼っていたインコは五分で死んでいたという。

シカゴで鳥の病院を開いていピーター・セーカス獣医は「テフロン中毒で日に一羽の割合で鳥が死にます。急死の原因は主にこれです」と『シカゴ・トリビューン』紙の記者に語っている。年間一○五件、計二九六羽の事故を確認しているという。人と鳥に、いったい何が起きるのだろうか。

「テフロン」は開発したデュポン社の商品名で、調理器具の表面を焦げつかないようにした表面加工のことである。他のメーカーは「ノンスティック加工」とか「フッ素樹脂加工」と表示している。

フッ素樹脂は、他の物質とあまり反応しないために、食品がくっつきにくい。デュポン社は、摂氏二○○度くらいまでの温度で普通の使い方をするかぎり樹脂は分解しないという。

では、なぜ人が健康被害を受けたり、鳥が死んだりするのだろう。首都ワシントンに本部を置く市民団体「環境ワーキンググループ」(EWG)が食品衛生研究者と協力し、五月に レポート を発表した。

フッ素樹脂加工のフライパンを食品なしで加熱し、非接触赤外線温度計で温度を測定すると、電磁調理器の場合は三分〜五分の加熱で三八○度を超え、ガスコンロの場合は五分で三五○度まで上昇した。これまで行なわれた加熱実験の報告を踏まえ、分解して何が出てくるかをEWGがまとめた。

まず二四○度。樹脂から発生した超微粒子や気体が出る。臭いがしないため、気づきにくい。しかし、きわめて細かな粒子が肺の奥まで入り込む危険性がある。粒子と気体が同時に出てくると、一緒に肺に入り、健康への影響が出て来やすいという報告もある。食品を入れずに予熱すると短い時間でこの温度に達する。

三六○度になると、さまざまな有機フッ素化合物が発生しはじめる。

まずテトラフルオロエチレン。これは国際がん研究機関の分類で「人に対して発がん性を示す可能性がある」物質に分類され、ラットの肝臓に腫瘍を作るという報告がある。

次にトリフルオロ酢酸。環境中濃度が高く、フッ素樹脂から発生すると考えられている。植物に有害だといわれ、非常に分解しにくい。

それから、いまアメリカで問題になっている物質、パーフルオロオクタン酸(PFOA)。これも分解しにくく環境に残留する。胸腺や脾臓に影響を与え、マウスの免疫力を低下させるなど、安全性に疑問がある。

これよりさらに温度を上げると、化学兵器として使われるホスゲンによく似た成分が出てくると報告されている。猛毒のフッ化水素などフッ素を含む物質が色々と発生する。

さらに気がかりなのは、有機フッ素化合物が人体に蓄積し始めていることだ。毒性が強く体内に蓄積しやすい有機塩素に次いで、有機フッ素化合物が問題となり始めた。フッ素と塩素は同じハロゲン族に属する元素で、フッ素化合物のほうが分解しにくい。

アメリカ人の血液を調べてみると、九割以上にPFOAが含まれている。子どもは平均して一ミリリットル中に5ナノグラム(ナノは十億分の一を表す単位)の濃度だ。体内で半分に減るのに四年かかるという調査もあるため、PFOAが人の生殖や免疫に与える毒性などについて、環境保護庁が調査に取り組み、詳しいデータの提出をメーカーに求めている。

このようなことから調査を行なったEWGでは、フッ素樹脂加工製品に「健康に害を与える可能性があります」という趣旨の表示を付けるよう求めている。

鉄製の調理器具を使う機会が減って体内の鉄不足に拍車をかけているという意見もある。有害ガスを発生する恐れがあるフッ素樹脂加工のフライパンを使うより、鉄製の調理器具で十分安全に料理をすることができる。