学びと環境の広場・表紙に戻る環境ホルモン目次へ

イギリス環境局
◆意見交換のための報告書◆

環境に広がる内分泌撹乱物質
何をなすべきか?

<後半 2/2>
(前半に戻る)
訳:安濃一樹・浦沢毅・別処珠樹 (*は訳注)
『技術と人間』 98年6月号に掲載。
(株)技術と人間(TEL.03-3260-9321)刊。850円+送料。

第5章

内分泌撹乱物質から環境を守るのに
どんな施策が必要か?


以下の評価(アセスメント)は、これまでの法規制が実際にどう運用されているか、そこに何を追加すればよいかを分析した結果に基づいている。問題が多面的だし、関係する物質が色々あって環境に入り込む可能性のある経路も様々であるため、社会の各分野が関わってくる。

<第1節>リスク評価と環境基準(EQSs)*

環境にとって最もリスクの大きな物質に努力を集中できるよう、比較対照して優先順位をつけるための視点が不可欠である。化学物質を適切に管理するため、どの物質の危険性が相対的に高いのかがよくわかるようにすべきなのだ。これまで慣習的に行われてきたリスク評価の方法は、化学物質にさらされる度合とその影響の強さに関する情報に頼ってきた。ところが内分泌撹乱化学物質は多くが信頼できる情報を欠いているので、正しいリスク評価を実施するのが難しい。従って、相対的な優先順位が適切かどうかは、常にその時点の情報に基づいて判定しなければならない。また優先順位のリストを定期的に見直して、新情報が入るたびに改訂していく必要がある。ある化学物質に内分泌撹乱性があるかどうかを決定したり優先順位を付けたりする際の評価基準を確立するため、環境局は環境運輸地方省などの機関と協同で仕事をしている。この作業は、次に必要な施策を決める際に欠かせないだろう。

* environmental quality standards、環境の質に関する基準。

最近開かれたオスロ・パリ委員会(OSPAR)の会議で、危険物質対策の改訂が承認された。これによって優先取り組みリストに内分泌撹乱化学物質が入ることになった。98年に開かれる閣僚会議で最終合意する予定である。試験管実験と生体内実験でわかった影響の報告をもとに、内分泌撹乱が知られている物質を分類し、すでに暫定的なリストが作られている。優先順位を決めるには、これらの物質を相対的にリスク評価する作業がさらに必要になる。

環境局の調査にもとづいて優先カテゴリーに入れようと提案のあった物質を 表2 に示した。この表は取りあえず優先順位を査定してみたもので、現在進めている作業の結果が出れば改訂の必要が出てくるだろう。これらの物質をリストに入れた理由はいくつかある。内分泌撹乱の報告がある化学物質は、すでにEC法や各国間の取り組み、環境危険物質の規制にとりあげられたり、施策が提案されたりしている。ただしこれらは、ほとんど内分泌撹乱性以外の理由で施策の優先順位がつけられているので、内分泌撹乱効果の証拠が出れば、将来その基準を見直したり、必要な管理方法を考えたりすることが求められる。

その他、環境局後援の最新研究で得た証拠に基づいてリストにいれた化合物(アルキルフェノールとステロイド類)がある。また、環境やヒトの健康に影響があるという一般的な懸念から入れたもの(フタル酸化合物類やビスフェノール類)もある。環境局は、内分泌撹乱物質の優先順位をどのように決めたらよいか、優先リストにはどのような種類の化学物質をいれたらよいかについて、ご意見をいただきたいと考えている。

優先物質の暫定環境基準を至急に仕上げることが必要である。環境の有効利用を確保し野生生物を保護するため、どんな被害防止策や管理方法を追加すればよいかを査定するのが環境局にとって絶対必要な仕事である。一部の物質については何年も前から環境基準があったが、これが今でも有効かどうかは、内分泌撹乱物質の影響に関する新しい情報とつきあわせて、もう一度調べなおす必要がある。他の物質にはまだ環境基準がなく、情報が不十分であり、調査をしていない。環境基準をほかの物質にも広げるには、それを支持する情報がまず必要である。リスク評価と環境基準の設定が今どんな状態にあるかを、優先物質のカテゴリー別に考察して以下に示す。

ポリ塩化有機化合物*

ポリ塩化ビフェニール(PCB)類は、もうイギリスでは生産・使用が中止されている。しかし(特に電気)機器のうちにはPCB類を含むものがあり、いまも使われていることがある。そうした機器が廃棄されると、含まれている物質をリサイクルするための手間が必要になる。いまPCB類が環境に残留しているのは主に、時とともに汚染が蓄積され、分解されにくいことによる。環境汚染の発生源として考えられるのは、電気機器の不適切な廃棄、機器のトラブルによる漏出、廃棄場所からの揮発、下水汚泥への堆積、不完全な焼却などだ。PCB類は生体に蓄積し、食物連鎖によって拡散する可能性があるので、この種の残留物は重大な意味をもつ。特に不安なのは海洋環境で、鳥や哺乳動物の組織がPCB類を取り込むことが分かっていて、生態系に与えるさまざまな影響の報告とPCBの存在とが結びつけられている。
*ポリは多数の意味。塩素がいくつもついた有機化合物。

イギリスと北海沿岸諸国は90年の第3回北海沿岸国際会議で、PCBを含有する機器も含めて、残留しているPCB類で検出可能なものを段階的に削減・廃棄することに合意した。PCB類の段階的削減と廃棄は、EC法(EC指令 96/59/EEC)* の要請事項でもある。イギリス政府は、その後 97年3月に PCB対策計画を発布した。工業プロセスから環境に排出しているものについては環境局が規制しているが、報告によれば今はかなり低いレベルとなっている。
*環境に関するEC法とEC指令については、エルンスト・ワイツゼッカー 『地球環境政策』(有斐閣)に詳しい。
一般にECはEUに改称されたとされるが、ECの機構はEU内部にそのまま受け継がれて残っている。

しかし環境局は、環境排出量を着実に減らしていくため、現在行っている排出防止と管理の手法を継続する予定である。個々のPCB化合物(同族体* )には正式な環境基準(EQSs)がない。200種類以上のPCB同族体を相対リスク評価する研究に、いま環境局は資金提供している。積もり積もった汚染から環境を回復(レメディエーション)させるときに、何を優先物質にするか決める上でこの仕事は重要である。また環境に存在するPCB類の移動やその後の変転・影響について、的確なモニタリングと調査プログラムを継続し、知見を改善するつもりである。
*正確にいえば、PCBには10の同族体(同一の化学式をもつ)があり、それぞれが多数の異性体に分かれ、全部で209種類ある。ダイオキシン類・ジベンゾフラン類についても同様。

「ダイオキシン」 と呼ぶ一群の化合物は多様な同族体(約210種類)を含み、75種類のポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン類と135種類のポリ塩化ジベンゾフラン類からなる。環境局とその前身団体が資金提供して、大気・土壌・水域への放出を最近調査しなおしたところ、広範囲の発生源からダイオキシン類が少量ずつ出ている可能性のあることがわかった。中でも都市ごみの焼却場が重要であった。96年12月から都市ごみ焼却場に新たに導入した厳しい排出基準によって、この発生源からのダイオキシン排出は顕著に減少するだろう。ダイオキシン同族体について正式な環境基準値はない。しかし、汚染地域を原状回復させる方法を決めるとき、その目安になる評価レベルを出すための研究が続けられている。環境リスクに基づいて環境基準を設定する際の優先順位を査定するため、環境局は支援業務を継続する予定である。

農薬

農薬は種類がかなり多く、よく研究されている化学物質群である。イギリスでは350種類前後の活性成分が使用を認可されている。数多くの実験やフィールド研究から、いくつかの農薬について内分泌撹乱の証拠があがっている。

この報告書の目的からすると、農業用薬剤を2群に分けて考える必要がある。第1群は現在使われているもので、環境基準の体系による認可手続きが管理の基本的な仕組みになっている。第2群は認可が取り消されているが環境に残留しているもので、環境基準の設定されているものもある。

農薬の認可は5つの省が扱っている。独立の農薬諮問委員会(Advisory Committee on Pesticides) が助言を与える環境運輸地方省・厚生省・農水省もその中にふくまれる。認可手続きには環境局が加わるが、生殖研究をふくむ広い範囲のデータを考慮して行われる。EC指令の要請事項により、認可基準の数値が広範囲にわたって決められている。EC植物防疫製品指令に基づき、農業用薬剤のあらゆる活性成分をメンバー諸国がいま見直し中である。哺乳動物が受ける毒性の見直しには、オス・メスの生殖機能に影響する可能性や誕生前後に影響を受ける可能性が含まれている。環境毒性については、各生物がさらされる度合に応じてどんな影響が出るか、多種類の生物を対象として生殖機能の研究を要求することもありうる。内分泌撹乱効果を検出するために行う生殖機能の研究は慎重を要する問題であって、研究結果に照らして農薬諮問委員会が見直し作業を続けることになっている。

有機塩素系農薬にさらされたとき、野生動物が生殖機能に受ける影響については、農薬の種類によって文献が多数ある。環境局は「第1表」有機塩素系農薬の定期的な環境モニタリング・プログラムを継続している(「第1表」にはDDT・ドリン類・リンデンとして知られるヘキサクロロシクロヘキサン<HCH>が含まれる)。このプログラムは、「第1表」有機塩素系農薬の濃度が淡水域・汽水域でEC 危険物質指令(76/464/EEC)とその下位にある諸指令の要請事項を満たすよう監視している。大抵は環境基準を満たしていて、検出限界よりも低い場所がほとんどである。しかし、特にリンデンに関しては局所的に突出しているところもある。これは輸入羊毛の処理で生じた汚染の結果である。「第1表」農薬は現在使用されていないが、リンデンは例外的に限定使用が認められている。環境モニタリングによる証拠から、これらの物質が一般にだんだん減っていることが示されている。しかし環境で分解しにくく、動植物に蓄積されやすく、食物連鎖で濃縮されやすい性質があるため、懸念があることに変わりはない。確実にこの環境基準を満たすよう、環境局は調査と施策を続ける。

その他、内分泌を破壊する農薬が多数あると報告されている。しかし証拠は実験室で得られたもので、環境への影響を判断するのに使える情報は大変少ない。被害防止や管理の優先リストに載っている農薬もいくつかある。そこには政府のレッドリストも含まれるし、オスロ・パリ会議や北海沿岸諸国閣僚会議を通じて確認された物質も含まれる。EC 危険物質指令 「第2表」 物質に対する要請事項をイギリスの法令に移し入れるため、政府は最近その内容を諮問した。環境基準値の提案リストには、内分泌撹乱性があるかもしれないと報告のある農薬がいくつか含まれている。内分泌撹乱も含め、ありとあらゆる毒性効果を環境基準で確実に防止し続けようとすると、最新の科学データを常に見直すことが大切になる。これら優先物質が、基準や目標数値を満たしているかどうかを評価し一般的な動向を見極めるため、環境局は国家的な監視プログラムを継続する。

トリブチルすず(TBT)は新しく規制する「第2表」農薬の一つ。海産の軟体動物に見られる生殖器などの異常から、環境基準値がはじきだされた。25メートル未満の船に防汚塗料成分として使うことが87年に禁止されて以来、TBT の環境濃度が低下している証拠がある。(カキやヨーロッパチヂミボラなどの) 軟体動物の個体数も徐々に回復しつつある。しかし、これより大きな船舶にはTBT塗料が依然として使われている。船体を洗ったり塗り替えたりする時にドックから、また船体から直接流出するので注意が必要である。TBTは環境基準が指定されている物質なので、「統合的汚染管理」(IPC)に基づく規制が必要なドックもある。TBTの環境放出をどのように防いだらいいのかについては、産業界で議論されて来た。防汚剤に代わる製品を開発して使うのか、それともドックで用いる技術を改良するのか。TBT の環境排出を発生源で防ぐのに、どんな施策をとることができるのだろうか。これについてご意見を歓迎する。

羊を洗う(洗羊する)際の農薬使用とそれに続く羊毛加工は、監視を続ける必要がある。洗羊に使う殺虫剤ダイアジノンが環境基準を越えたという報告が、95年に最も多かった。おもにこれは羊毛加工を行う繊維工業と関係がある。しかし高地でも検出されているのは多分、農薬の使用法と洗羊廃水の捨てかたに誤りがあるためだろう。ダイアジノンやクロルフェンビンホスなどの有機リン農薬には内分泌撹乱の報告がある。洗羊に使う量が減っているのは、職業上の健康問題に関心が高まってきたことと、合成ピレスロイドを成分とする殺虫剤が代替として使われるようになりつつあることによる。合成ピレスロイドは水生生物に対して高い毒性を持つため、水環境に重大なリスクを与える。内分泌撹乱が報告されているものもある。この化学物質は環境での寿命が長いが、それがどんな影響を及ぼすかほとんど知られていない。新しい環境基準を設定し既存の基準を見直すときだけでなく、農薬の代替製品をスクリーニングするときにも、内分泌撹乱効果について的確な情報があれば検討対象とするべきだろう。

アルキルフェノールおよびアルキルフェノール・エトキシレート

アルキルフェノール類 (APs) とアルキルフェノール・エトキシレート類 (APEs) には工業用途が色々あり、環境への排出経路もさまざまである。APEs は繊維類の製造過程で使う合成洗剤に含まれるが、羊毛を洗浄した廃水の汚染が認められたために、APEs の使用は特に憂慮される問題となってきた。APEs は試験管内でも生体内でも疑似エストロゲン作用を持つことが証明されている。下水処理の過程や環境で APEs は分解してもとの APs になる。APs は APEs より毒性が強く、エストロゲン活性が大きい。旧イギリス河川庁(National Rivers Authority)は、自主的に羊毛洗浄の APEs 使用を中止する旨の協約を繊維製造業者から得た。羊毛の洗浄過程を担う大多数の業者はこの協約を守り、現在では他の洗剤を使用している。羊毛の洗浄過程は「統合的汚染管理」 (IPC) の対象になっている。環境局は河川の水質対策が効果をあげているかどうかを評価するため、監視プログラムを継続する。

APEs とその分解生成物の環境影響を憂慮し、92年のパリ会議でイギリスと参加各国は協定を結ぶに至った。協定によると、ノニルフェノールとその関連物質すべての環境排出を減らし、2000年までに各物質の工業使用を段階的に廃止する。ノニルフェノールの正式なリスク評価は(環境局内の国立環境毒物学・危険物質研究センターに移設されてまもない)化学物質アセスメント部が現在おこなっている。「既存物質規制」(Existing Substances Regulation) に上がっている物質を見直す計画の一環として、イギリス政府を代行して実施しているものである。ヒトと野生生物がノニルフェノールにさらされる可能性のある経路はすべて検討しているし、報告されている影響は全部考慮に入れている。影響の原因がノニルフェノールにあると認められた場合、その色々な用途についてのリスク評価をさらに検証する必要があるだろう。

環境局は、ノニルフェノールに環境基準値を設定する研究にも資金提供を行った。この研究では、環境毒性学による通常の実験結果だけでなく、ノニルフェノールとその誘導体の疑似エストロゲン効果に関する既出の文献も見直してみた。魚類に疑似エストロゲン効果を及ぼすことが知られている最低濃度よりさらに低い濃度で、魚類の成長率抑制などノニルフェノールの毒性を示す各種の影響がみられた。そのため、水生生物を疑似エストロゲン効果から守るだけでは十分ではないので、疑似エストロゲン効果をもとに環境基準を提案することはしなかった。オクチルフェノールなどの物質はノニルフェノールに近い系統にあり、環境に対して同等の影響を持つかも知れない。環境基準設定の可能性を検討するために、これからの研究が計画されている。

フタル酸化合物

フタル酸化合物は、様々な商品やペンキ・インク・粘着剤に可塑剤として広く使われている。したがって、その製造・調合・使用によって環境に出る可能性のある経路は多岐にわたる。動物実験でフタル酸化合物には生殖系に異常をもたらす証拠があるが、環境に与える影響はほとんど知られていない。

各種のフタル酸化合物に環境基準を設定しようという研究が旧・環境省(現在の環境運輸地方省)の資金提供によって行われたが、最終的な結果はまだ出ていない。これまでに報告のある環境影響を見直して、環境基準を提案するときの根拠にしようとしても、調査対象物質の内分泌撹乱効果についての情報が極めて少なかったからだと考えられる。内分泌撹乱も含めフタル酸化合物が環境に与える影響に関する最新情報に基づいて、この研究は更新する必要がある。各種フタル酸化合物のリスク評価は欧州各国によって進められている。これは「既存物質規制」に基づく現在の化学物質調査計画にも寄与するものである。対策を決定する際には、このリスク評価や他の関連情報を考慮する必要があるだろう。

ビスフェノールA

ビスフェノールAはポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂を製造するときに使用されている。また歯科で歯のコーティングに使ったり、水道パイプの内張り、鉄製缶詰のコーティングにも用いられる。ビスフェノールAのエストロゲン活性について近ごろ集中的に議論されているのは、食物や水が汚染をうけたり、歯の詰め物から滲みだしたりするなど、どのように人体に侵入する可能性があるかという点である。実験では疑似エストロゲン効果をはじめ、ネズミに性ホルモン障害が原因と考えられる行動変化が起きることが観察されている。ビスフェノールAの環境への影響は、ほとんど知られていない。

イギリス政府は「既存物質規制」のもとで、ビスフェノールAのリスク評価を行うことに合意した。この化学物質にたいする環境基準はまだないが、このリスク評価の研究を通じて環境基準は設定されて行くべきだろう。

ステロイド

最近の実地調査および実験研究によれば、ステロイドは天然のものも人工合成のものも高いレベルのエストロゲン活性を持ち、環境で内分泌撹乱物質として効力を発揮する可能性を持つ。これらの化学物質はヒトにおいて女性の性徴を形成する上で、また生殖周期を (自然に、あるいは避妊ピルの場合のように人為的に) コントロールする上で重要な役割を果たす。すべての脊椎動物がこれらの化学物質を持っているので、環境を通して他種生物にも受け渡され影響を及ぼすと考えられる。

魚類総体の実態を推定することは難しいが、少なくとも魚類に観察された異常原因の一部はステロイドにあると認められる。魚類に対する影響が下水の放流によって引き起こされたとすると、当然、異常はかなり以前から起こっていたと推測される。魚類が異常を起こしている重要な要因の一つは近年の河川水質の向上だろう。以前は汚染され、生息に適さなかった流域にも魚類は帰ってきている。下水道と下水処理への投資の結果、河川はきれいになったが、下水道の処理水が大量に流れ込む河川もあり、魚類がステロイドにさらされる危険性は存在する。

一般にステロイドはヒトの身体から排泄されるとき不活性な形態をとるが、処理後の下水放流水に見つかるステロイドは活性化している。下水の処理過程でどのようにステロイドが活性化するのかをよりよく理解することが研究の優先事項である。水道事業体* はこの研究に重要な役割を担う。

* イギリスでは上下水道を一つの事業体が行う。

対象となるおもな物質(特にエチニル・エストラジオールや17β-エストラジオール、エストロン)の環境基準を制定するため、さらに作業が必要になる。つまり、物質の摂取量と反応との相関関係を証明し、魚類などの水生生物に内分泌撹乱を引き起こさないステロイド濃度を決めることである。これらの物質が混じり合っている場合の相乗効果も調査しなければならない。ステロイドを含む放流水を規制し管理する方策を選択する上で、以上の基礎研究は不可欠である。これに関連して、放流水中でこれらの物質が混じり合っておよぼす影響を測定するため、直接的な毒性評価技術を使用することも考慮する必要がある。

<第2節>特定の過程に目標を絞ること

内分泌撹乱が知られている物質は、製造・使用したり廃棄したりする時に色々な道すじをたどるので、あちこちから環境に出てくる可能性がある。一部は、「統合的汚染管理」 (IPC、将来は統合的汚染防止・汚染管理〔IPPC〕) に関する法令や、水質汚染管理に関する法令 (91年の水資源法と各種のEC指令)、ごみ処理と廃棄に関する法令によって、環境局が規制している。

化学物質排出目録 (CRI) は、「統合的汚染管理」の対象工程から化学物質が排出されているという報告を集めており、内分泌撹乱のおそれがある物質の排出情報を含んでいる。その工程とは、ガス製造や燃料の燃焼、金属製造、有機化合物の製造・使用、ハロゲンを含む工程、農薬製造、ごみ回収・焼却工程、紙・パルプ製造、コーティング工程(造船所で有機スズ防汚剤を使ったり、それを除去したりする)、それから製材工程である。

「統合的汚染管理」の対象工程から優先物質(一部は規制物質)が出る量を確実に減らしていくため、環境局は産業界と協力を続ける用意がある。従来のものに代わる方法を探し出すため、現在の規制を見直す機会があれば、必要に応じてそれを利用することも考えている。

見直しの際には、技術開発・リスク評価・環境基準の設定を考慮に入れることになるだろう。りっぱな実践例がわが国の内外にあれば参考にすることができる。この意味で特に関心の集まる分野は、繊維加工、プラスティック製造、農薬の生産・使用、ごみ焼却、造船である。

ヒトの健康と環境に悪影響を与えるおそれがある生産物に代わって、毒性の低い製品を開発し、古い製品を使わないよう産業界が指導的な役割を果たすべきだと環境局は考えている。産業界がとった行動の好例として、洗剤のノニルフェノール・エトキシレートを羊毛洗浄業が自発的に使用中止にしたことがあげられる。

製造工程からの排出基準を設定するときには、生殖に影響をおよぼすおそれがある物質を考えに入れるべきだ。統合的汚染防止・汚染管理指令(IPPC、96/61/EEC)* は特にこの点に触れている。99年までの指令施行に備えて、生殖に対する影響を考慮するかどうかが再検討されることになるだろう。

* 96年に出された61番目のEC指令という意味。

水道事業体は、工場の下水排出や下水処理に対して、91年の水道法によって特別の管理責任を負っている。下水処理の過程や汚泥処分を通じて、下水道システム内の内分泌撹乱物質はどこから現れてどのようにふるまい、どんな運命をたどるのか。これを明らかにして環境排出量を出来るだけ減らす役割の一端を水道事業体が担うべきだと考える。

<第3節>生産物のスクリーニング

化学製品の製造・販売・使用を認可するときにスクリーニングをどう利用するかについては、色々と法的な取り決めがある。どこでも利用できて、化学物質に内分泌撹乱のおそれがあるかどうか評価できるスクリーニング・テストはまだ開発されていない。したがって破壊作用の情報を専門家が認可判断の一部に利用することはめったにない。内分泌撹乱の可能性を調べるため、妥当な費用で実施できる標準スクリーニング・テストを開発して共有財産にすることに高い優先順位をおくべきだ。環境局はそう信じている。このテストが実用化されたら、化学物質は新しいものも従来のものもスクリーニングする必要があると考える。こういうことは国際的な合意のもとで行われなければならないし、経済協力開発機構(OECD)を通じて一致した施策がとれるよう、イギリスはこれまでにも積極的な役割を果たして来ている。このスクリーニング・テストで内分泌撹乱の程度が測定できるとしよう。そのレベルが違うと、生殖と環境に与える影響が大きく違ってくるのかどうか。これをもっとよく理解できるようにすることも優先事項だ。環境局は「特定生産物の生産・販売・使用に係る環境リスクに関する法制委員会」と政府に、助言を与え続ける考えである。

<第4節>環境モニタリング

数多くの環境化学物質について内分泌撹乱が報告されているが、それが影響を与えるレベルに関しては信頼できる情報が一般に不足している。特別な調査が行われたところでは確かにデータがある。ECの危険物質登録制度による測定義務などの法的な義務を満たすため、日常的に数種の物質について影響のレベルが監視されている。しかし膨大な数の物質が破壊に関わっている可能性もあり、分析の技術的な難しさもある。また化学分析には費用がかかる。そこで環境モニタリング計画は、環境リスクに基づいて正確に目標を定める必要がある。優先物質が実際に排出されていたり、その可能性がある場所は、リスクが高い地域として指定されるべきだ。その際、環境資源の色々な利用法・野生生物の保護について考慮する必要がある。特に優先しなければならないのは、内分泌撹乱物質を高濃度に含むおそれがある河川の範囲を指定することである。長時間にわたって河川水の大部分を下水道放流水が占めるような地域が対象となる。

内分泌撹乱が野性生物の個体数を減少させている。被害の範囲と深刻さを測る生物学的指標を開発するには、さらに多くの研究がいる。しかも信頼性が高く、妥当な費用ですばやくそれを把握できなければならない。この指標があれば、引き続き詳しく調べるべき場所を選定するのにも使える。直接の影響を測った結果によって場所を決めれば、限られた人的物的資源をもっと効果的に使えるから、この種の技術には価値がある。潜在的な問題を明らかにする「早期警報」としても役立つだろう。

優先取り組み環境化学物質を監視したり調査したりするのに、環境局は重要な役割を担っている。法令などで行政管理の対象となっている物質に関しては特にそうである。環境局は、その広範な環境管理の役割の一環として、特定の問題を調査することもある。

内分泌撹乱効果を生じるおそれがある各種の化学物質を識別するのに、産業界が今以上の役割を果たしてくれることを環境局は望んでいる。また、このような化学物質を、その工程や排水中で確認することを望んでいるし、代替物を見つけだすのに必要な措置を講じたいとも考えている。また、産業界や一般の人たちが、環境モニタリングにさらに大きな役割を果たしてくれることも望んでいる。優先物質が環境に排出されると、実際に影響が出るかどうか、影響が出なくても可能性があるかどうかを調べる場合は特にそうだ。環境にひろがる化学物質による内分泌撹乱の実態や影響を評価するのに、産業界のみならず多方面の人々がどのような貢献ができるのか、この報告書を読んだ方々からのご意見を特に歓迎する。

<第5節>研究の優先順位

世界の科学界は内分泌を破壊する化学物質とその影響の研究に、これまでかなりの努力をそそいできた。この問題について今までの知識を整理してみると、さらに研究を続ける必要が明らかになる。そこでもっとも重要な問題点は、

― どの化学物質に私たちは注意を払うべきか?
― これらの化学物質にさらされている範囲と程度は?
― これらの化学物質にさらされると悪い影響を受けるのか?
― もし受けるとすれば、その影響の程度と結果は?
― どうすれば最もうまく環境を守れるのか?

研究の特に優先すべき事項は、

■化学物質が内分泌系の機能に干渉するプロセスをさらに明らかにすること。

■さまざまな化学物質の内分泌撹乱作用を、妥当な価格でスクリーニングするための基準とテスト方法を開発すること。

■さまざまな種類の物質に関するリスク評価の基本事項を、よりよいものに置き換えていくこと。

■複数物質の組み合わせにさらされて出る影響をうまく把握できるようにすること。

■毒性に基づく従来からの環境排出管理のもとでなら使用可能な化学物質でも、内分泌撹乱の複合効果が出ることがあるので、その評価方法を開発すること。

■環境モニタリング・監視のプログラムで、直接的な影響を判断するのに使える生物学的方法を開発すること。

■内分泌撹乱効果を考慮に入れた環境基準を作りあげるのに、その手助けとなる必要な情報を提供すること。

■環境媒体中に低濃度で存在する可能性のある物質を検出する分析法を開発すること。

■環境媒体(特に水・浮遊粉塵・沈殿物・土壌)中、および下水処理工程において、内分泌を破壊する化学物質が、どのような運命をたどって変化していくのかを調査すること。

■内分泌撹乱性の知られている化学物質が環境に放出されるのを防ぐため、技術改良を進めたり、代替技術を開発すること。

環境局は、内分泌撹乱物質を研究する計画に資金提供を続ける。これは、環境局の監督責任と環境管理責任を果たすのに役立つ。研究の優先順位が決まったとき、これにどう取り組むのが一番いいのか、良いアイデアがあれば歓迎したい。資金や人材を共同で出すことでより大きな効果を期待できるなら、資金協力やネットワーク化を目指すべきだろう。


第6章

結論


この報告書のように、環境にある内分泌撹乱物質を簡単に分析して見ただけでも、問題が複雑で、多くの疑問が未解決のままになっていることが分かる。とはいえこれまでの証拠をもとに考えてみると、やれることがあるし、何かをなすべきだと環境局は信じている。私たちが提案する方法は、要約すれば次のような段階を踏むことになるだろう。

■環境に対する現実のリスクや潜在的リスクに基づいて、問題解決を優先すべき内分泌撹乱物質のリストを決定する。(仮のリストが、議論の出発点としてこの報告書の中に掲げてある)

■それぞれの優先物質について汚染防止・汚染管理の計画を作り上げる。それによって、環境への放出を減らし、場所によっては放出を止め、生態系やヒトの健康に危険が及ばないよう、環境レベルを低く保つことを目指す。

■優先物質について環境基準を一通り完全に作り上げる。これは排出について合意する土台になるし、物質の拡散源を流域管理者が特定する方法を決める土台にもなる。

■上下水道事業・化学工業・農業・ごみ処理のような特定の分野に焦点を絞る。そして対策を要する優先物質の放出を防いだり、できるだけ少なくするうえで必要なそれぞれ特定の施策を決めるのに、各分野と行動をともにすること。

■「統合的汚染管理」にみられる従来の規制を見直し、新しい「統合的汚染防止・汚染管理」に、改良技術を用いた解決策を導入する機会を求めていく。

■代替製品を開発して、有害のおそれがある現行製品の使用を段階的に中止するよう産業界に働きかける。

■既存の物質と新しい物質が環境に与えるリスクの見直しをするとき、その化学物質の製造・販売・使用に関して政府部局と専門委員会に専門知識を提供すること。

■環境モニタリング計画目標を実施する。これは、環境にある優先化学物質の実態や生態系に与える影響の情報をよりよいものにするためである。

■直接測定した毒性データに基づいて協定するなど、化学物質の排出に関して認可制度に代わる方法を作り上げる。

■国内外の共同研究と開発プログラムに貢献する。それによって、科学的な知識をより進んだものにし、管理法を開発する基礎とする。

 

END


環境局は、この 「意見交換のための報告書」 に盛り込んだ問題について、どんなことでもご感想やご提案があればお受けしたいと思っています。特に次の諸点についてご意見があれば歓迎します。

■施策の優先順位はどのように決定すればよいか。化学物質のうち、優先すべきカテゴリーは何か。

■何か環境を守る行動をとることと、予定されている研究を通じて問題の理解を深めて行くこと、この二つをどのようにバランスさせたらよいか。

■この報告書で述べた領域で、これから先どんな施策をとるのが適当か、その他の施策としてどんなものがあるか。

■代替技術と代替製品を開発する可能性はあるのか。また、これにどの程度の費用がかかるのか。

■研究の優先順位をさらに明確にするのに、どんな協力の機会が国の内外にあるか。

ご意見は98年4月30日までに、下記の環境モニタリング・アセスメント長、ジョン・シーガー (John Seager) 宛にお送り下さい。送られたご意見は、特に機密に属し取り扱いに注意を要するものでない限り、公開して一般のご意見を聞けるようにしますので、その点、ご承知下さい。

ご意見をお待ちしています。

主席研究員 兼 環境対策部長   
   Dr R.J.ペントリース(Pentreath 署名) 

The Environment Agency, Rio House, Waterside Drive, Aztec West, Almondsbury,
Bristol BS32 4UD

前半に戻る

学びと環境の広場・全体目次へ環境ホルモン目次へ上に戻る
原文URL:http://www.environment-agency.gov.uk/info/consulta.html
このページのURL: http://www.kcn.ne.jp/~gauss/info/consulta2.html
開設: 98/03/11 最終改訂: 98/04/06