目次

核戦争を準備する米タカ派


●二○○一年十二月三十一日、アメリカ政府は 「核戦略見直し報告」 Nuclear Posture Review (NPR) を議会に提出した。ただしこれは 「概要版」 であって、詳しい内容 は機密扱いであった。この時点では事務局に提出しただけで、内容は公表されていな かったと思われる。

●二○○二年一月八日、アメリカ政府はこの概要版(スライド)をラムズフェルド長 官の序文付きで発表した。記者発表のようすを文書化したものと、スライド・序文を 国防省のサイトで読むことができる。この発表に基づいて世界の報道機関がアメリカ の核戦略見直しについて報道し、日本の報道機関も 「核戦略見直し」 または 「核政策 見直し」 として報じた。しかし日本の扱いは小さかった。
 その後、このNPRの内容はどうも危険なものらしいという噂が流れていた形跡がある。 しかし大きな問題とならなかった。
 記者発表  http://www.defenselink.mil/news/Jan2002/t01092002_t0109npr.html
 スライド  http://www.defenselink.mil/news/Jan2002/g020109-D-6570C.html
 ラムズフェルド序文  http://www.defenselink.mil/news/Jan2002/d20020109npr.pdf
 この内容に対して、日本国内の被爆者団体などが抗議声明をだしているが、あくま で概要版に対するもので、「機密版」 に対するものではなかった。

●三月八日、氏名は不明だが、この 「機密版」 全文をリークした人物がいた。全文の 内容をすべて掲載しているサイトを見つけることはできないが、そのかなりの部分を 要約した文書が発表された。何よりも衝撃的なのは、核を使う相手国として、中国を はじめ次の国々が具体的に挙げられていることである。  「悪の枢軸」→北朝鮮・イラン・イラク、その他→ロシア・中国・リビア・シリ ア。  一般に政治的な文書のリークは意図的なものが多いといわれる。このリークは発表 からちょうど二か月後であり、しかもチェイニー副大統領の中東歴訪と時期を同じく している。リークの背後に隠された意図があったことを否定できない。
 この文書には核兵器を使う条件として、(1)通常の兵器では破壊しきれない標的への攻撃、 (2)核兵器や生物・化学兵器を使った攻撃にたいする報復、(3)予期しない 軍事上の情勢変化、この三つの条件が挙げられている。この中で特に(3)の条件が問題で、 このような抽象的な条件であれば、戦争のあらゆる局面で起こる可能性があるから、 核兵器をいつでも使えることになる。
 全文の要約  http://www.globalsecurity.org/wmd/library/policy/dod/npr.htm

●三月九日、このリークについてロサンジェルス・タイムズが報道した。その主要部 分は次の通り。

議会に一月八日に送られた秘密報告書は、中国をはじめ、ロシア・イラク・北朝鮮 ・イラン・リビア・シリアに対して、ペンタゴンが核兵器を使う準備をする必要があ ると述べている。核兵器の使用は次の三つの場合に可能であるという。通常兵器によ る攻撃に耐える標的に対して使用する。核兵器・生物兵器・化学兵器による攻撃に報 復する場合に使用する。あるいは・・・[以下略]

●三月十日、ロサンジェルス・タイムズ(米)「考えられない秘密計画」  全文

●三月十日、インデペンデント(英)「米、核攻撃に備える計画」  全文

●三月十一日、ファイナンシャル・タイムズ・ドイチュラント(独)「米、新種の核兵器を考慮」  全文

●三月十一日、人民日報(中)「ペンタゴンは核兵器使用を検討」  全文

●三月十一日、ザ・ネーション(英)「ブッシュの新核戦略は核拡散防止に打撃」  全文

●三月十二日、これについてニューヨーク・タイムズが 「核のならずもの国家アメリ カ」 という強い調子の社説を掲載した。書き出しは次の通り。   全文

もし、どこかの国が新しい核兵器を開発し、核兵器の準備がない国々に対して先制 攻撃を考えたとすれば、ワシントン政府はただちにその国を危険なならずもの国家だ と呼ぶことだろう。ところがペンタゴンの計画書が、こういう危険なことをブッシュ 大統領に進言していたことが、先週末に明らかになった。ブッシュ大統領はこの書類 を送り返し、アメリカの次世代の安全のため、もっと穏やかな版を要求する必要があ る。

●三月十二日、ザ・コネクション(米)「米政府は核兵器使用を真剣に検討」  全文

●三月十二日、グローバリゼーション研究センター(加)「ワシントンで核戦争計画」  全文

●三月十三日のロサンジェルス・タイムズは、マクナマラ元・国防長官らが書いた政 府批判論文を掲載した。主要部分は次の通り。
 論文の一部  http://pqasb.pqarchiver.com/latimes/index.html?ts=1016379437

しかし問題は、イギリス・ソ連と公式に非核武装国に対しては核兵器を使わないと 約束した条約を、一九七八年にアメリカが支持したことである。これには但し書きが ついていて、核武装国と同盟した国からの攻撃は除くとなっていた(化学兵器・生 物兵器については例外規定がなかった)。

●三月十四日、モスクワ・タイムズ(露)「兵器業界の仕組んだ取引だ」  全文

●三月十四日、ガーディアン(英)「ブッシュ、核報復の可能性を示唆」  全文

●三月十四日、BBCニュース(英)「北朝鮮、核使用の危険を警告」  全文

●三月十五日、イマニュエル・ウォーラーステインのコメンタリー(#85)は 沈痛な調子を帯び、この問題に直接触れていないものの、最後を次のように結んでい る。

世界でいちばん深い地下壕に隠れたとしても、あなたを殺すことも、そこから たたき出すことも可能である。そういう素晴らしい新兵器があると知らなければ、 地下壕に隠れることを読者にお奨めするところだった。

●三月十五日、中国の 「人民日報」 は次のように報じた。

米各界、核戦略見直し報告書を批判──  米国防総省が議会に提出した核戦略見 直し報告書(NPR)に対し、米国内でも強い非難の声が上がっている。 米ロサンゼルス・タイムズ紙は13日、マクナマラ元国防長官とクリントン政権時の グラハム軍事特使が共同で執筆した文章を掲載した。この文章は 「もし報告書が米国 の国家政策となれば、核兵器が全世界に拡散し、われわれはより危険な世界で生活 し、米国の安全はより大きな危険にさらされる」 と指摘する。 米国の国際問題専門家ネルソン氏は12日、米NBCのインターネットサイトで 「ブッ シュ政府は非常時の核兵器使用を視野に入れているが、これは外交的に愚かであり、 戦略的に賢明な行為ではない。道徳的にも受け入れ難い」 と批判する文章を公表。ネ ルソン氏には 「これは米国の核政策に大きな軌道修正で、全世界の核兵器削減の努力 に対する障害。政府側は 『この報告は計画ではなく単なる評価にすぎない』 と説明し ているが、国防総省が提出したこの報告書は政府官僚の政策決定と外交政策の策定に 影響を与える。報告書の内容が報道された、欧州や中東、アジアの同盟国からは反発 の声が上がっている。われわれは米国人として、こうした反発に同調するだけではな く、先頭に立って抗議していかなくてはならない。沈黙は政府のこうした危険で愚か な行為を黙認することであり、こうした行為を国家政策として認めることにほかなら ない」 と指摘した。 また12日付ニューヨーク・タイムズ紙の社説は、核戦略見直し報告書が 「核拡散防 止条約を破壊した」 と批判し、次のように指摘した。 米国の核兵器使用制限を緩和しようとする同報告書は 「結果を考えない愚かな」 行 為だ。もし別の国が新型核兵器の開発を計画し、核兵器を保有しない国に対して先制 攻撃を仕掛けようとすれば、米政府はその国を危険な 「ならず者国家」 とするだろ う。しかし米国防総省は、政府に同じことを行うよう提案している。

●三月十五日、人民日報は韓国各紙の報道状況について報じた。「韓国各紙、朝鮮半 島での核戦争抑止を呼びかけ── 米国防総省が発表した核計画報告書がこのほど明 らかになり、韓国では大きな反響を呼んでいる。韓国の中央日報、東亜日報、朝鮮日 報など主要各紙も大きな見出しで論評を加えてブッシュ米大統領の核政策を報道、 朝鮮半島での核戦争抑止を呼びかけた。主要各紙の主な内容は次の通り。
<東亜日報> 核戦略見直し報告書(NPR)で、ブッシュ大統領が米同時多発テロの 発生以降、国際情勢を自国に都合のよい方向に向けようとしていることが明らかに なった。これは核兵器をめぐる国際社会の構造を根本から変えるものだ。
<中央日報> ブッシュ大統領は朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)や中国を核の攻撃 対象国としてあげた。このような時代に逆行する核戦略が朝鮮半島で実行されれば、 その影響は計り知れない。
<朝鮮日報> 反テロ、大規模破壊兵器問題の解決のために、戦略核兵器を使うこと は不適切だ。1990年代初めに朝鮮半島が非核宣言を行って以来、韓国と米国は朝鮮半 島の非核化に努力してきた。両国はこの方向性で協力を行っていかなくてはならな い」

●三月十五日、ザ・ブラックワールド(黒人ジャーナリストの連合メディア)「国連軍縮局幹部、 米の核戦略を批判」  全文

●三月十五日、ストレイト・ニュース(シンガポール)「米から悪い知らせ──核兵器使用を検討」  全文

●三月十六日、サンデー・タイムズ(豪)「米、核攻撃の可能性──専門家筋」  全文

●三月十六日、MSNニュース(米)「中国、核による脅しを非難」  全文

●三月十八日、USAトゥデイ(米)「軍、核兵器のアップグレードを計画」  全文

●三月十八日、ポスト・ガゼット(米)「標的国が多すぎる?」  全文

●三月十九日、UPIがイランの反応について報じた。主な内容は次の通り。

イラン政府は十九日、カマル・ハラジ外相の声明を発表し、アメリカがイランに対して核攻撃 を加えるおそれがあると国連に申し立てた。コフィ・アナン事務総長に書簡を送り、先 週メディアにリークされたペンタゴンのNPRに、イランに対する攻撃が含まれている と訴えた。

●三月二十日、イギリスのフーン国防相が議会で、イギリスはイラクなどの大量破壊 兵器による攻撃があった場合、核兵器による反撃を排除しないと発言した。
 これについて、日本の報道機関も地味な扱いながら報じた。ただし、朝日の記事は 重要な部分を書いておらず、内容を正確に報道したものとは言い難い。

●三月二十一日、コリア・タイムズ(韓国の英字紙)が 「狂気の核使用に道を開く」 を 掲載した。冒頭部分は次の通り。

報じられるところによると、合衆国に生物化学兵器による攻撃がかけられた時に これを抑止したり反撃したりするため、核兵器の使用計画を急いで立てるよう ペンタゴンが求められていたという。これを知って、われわれは心底おどろき、 天を仰いだ。

●三月二十五日、タス通信(露)が 「米露、核実験を再開か──露、元閣僚」 を掲載した。 冒頭部分は次の通り。

露のエフゲニー・アダモフ元・原子力相は二十五日、核兵器を保持している国はすべて、 どのような戦略構想を持つかにかかわらず核実験をせざるを得なくなるだろう、と発言した。

●三月二十八日、クリスチャン・サイエンス・モニター(米)が、「小型核兵器を拒否しよう」 を 掲載した。冒頭部分は次の通り。

リークされたブッシュ政権のNPRによって、政策が劇的かつ危険な方向に変わることがわかる。土の中に 貫通する核兵器の研究に資金が出されることになっているが、議会はこの主要部分を否決すべきであろう。 報告書は、地中深く貫通し地下弾薬庫を破壊する小型核兵器の開発が必要であると述べている。この考え方 でいくと・・・

●三月二十八日、ボルチモア・サン(米)が、「核の白日夢とペンタゴン」 を掲載した。小見出し、および リード部分は次の通り。  全文

地下弾薬庫破壊弾 (bunker-buster) を開発する合理的根拠はどこにある? ならずもの国家があつらえ向きの標的を準備した。小型核爆弾は大型よりさらに危険か?