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資本主義の後に来るもの
世界社会フォーラムを支えたポルトアレグレ市の実験

www.kcn.ne.jp/~gauss/jsf/op.html

月刊 『自然と人間』 03年4月号
別処珠樹

「十一月九日、秋深まる古都フィレンツェの週末は熱気で沸きかえった。アメリカのイラク攻撃に抗議する巨大な反戦デモだ。人口三八万人のフィレンツェ市に、警察発表で四五万人が集まった。一○○万人が行進したという報道もあるから、空前の規模だったことは間違いない」

イタリアのフィレンツェで欧州社会フォーラムが開かれた去年のこの日、ヨーロッパ各地から集まった人々が市民と一緒に街路を埋めたと知って、私は自分のサイトにこう書いた。

このとき参加者たちは、二○○三年二月十五日に世界中で反戦行動に出ることを約束しあった。三か月後にふたを開けてみると、それは間違いなく史上最大だった。ローマが二五○万人・ロンドン一五○万人・バルセロナ一○○万人・マドリッド一○○万人・パリ八○万人・ニューヨーク五○万人。こんなに見事なデモを生み出した「社会フォーラム」とは何か。

本誌三月号の 「もう一つの世界は可能だ!」 という記事に答えがある。フィレンツェのフォーラムを先導したのは、ブラジルで開かれた 「世界社会フォーラム」 だった。なぜブラジルなのか、その背景を探ることにしよう。

市民が予算編成に参加できる

ブラジル南部リオ・グランデ・ド・スール州の州都ポルトアレグレで初めて世界社会フォーラムが開かれたのは○一年だった。資本主義体制を支える政治家や企業家が集うスイス・ダボス村の 「世界経済フォーラム」 に対抗し、同じ日程で資本主義のグローバル化に反対する集会が開かれ、第一回は二万人、昨年の第二回には五万人、そして今年は一○万人が集まった。ポルトアレグレで開くことになったのは、「参加型予算」 のしくみがこれまでの地方行政と違ってきわめて民主的で、未来を先取りしているからだという。大西洋の海水も混じるパトス湖に面した人口一三○万人の地方都市にいったい何が起きたのだろう。

ブラジルでは一九六○年代から続いた軍事政権の独裁が八五年に解かれ、民政に移管された。このころから経済の悪化に苦しむポルトアレグレの地域自治連合が、予算編成に市民も加えるように要求を出していた。ポルトアレグレを中心とするブラジル南東部は首都ブラジリアから遠く、以前から自治の意識が強い。また、経済格差が大きく、多くの貧困層が生まれていたことも要求の背景にあるようだ。

八九年の市長選で労働者党のオリヴィオ・ドゥトラ候補が予算編成に市民を参加させると公約して闘った。信用しない市民も多かったが、彼は市長に選ばれた(その後、ドゥトラ市長はリオ州の知事になった)。参加型予算編成の公開会議が市内のあちこちで開かれ、参加者は自由に発言できるようになった。地区会議の参加者数を表すグラフ(図1)を見ると、半信半疑なのか初めは六○○人あまりだった参加者数が年を追うにつれて増え、二○○○年には一万四○○○人を超えたことを示している。ブラジルは九○年代の初めハイパーインフレに見舞われていた。人々は生活が苦しく、予算どころではなかったはずだが、この図で見るかぎり参加者は着実に増加している。

わが日本の地方議員選挙投票率(図2)はどうか。最近は六割ほどに落ち込み、人々の政治離れが加速していることがわかる。ポルトアレグレと日本とで地方自治への参加意識が違うのはどこから来るのだろうか。

さいわい、参加型予算について詳しく報告している人がいる。ブラジル出身で今はアメリカのピッツバーグ大学社会学部で教えているジャンパオロ・バイオッキさんだ。バイオッキ先生はブラジルの犯罪を調べるつもりで取材するうち、予算編成のしくみが地域に大きな影響を与えていることに気づいた。たちまちこの調査に没頭するようになり、数多くの論文を書くまでになった。バイオッキさんの説明にしたがってしくみを紹介しておこう。

会議が市民の意識を育てる

参加型予算のことをブラジルではOP(オーペー)と言う。毎年三月になると、OPの地区会議が始まる。会議といっても写真でわかるように、ジーンズをはいて行ける気楽なもので、だれでも入れる。大きな会議になると、参加者が一〇〇〇人を超えることもあるという。課題は地区として希望する予算のほか、地域フォーラムに出席する代表団を選ぶことと、去年の予算執行について反省することだ。質問に答えるため、市長や市の職員がこの会議に出席する。フォーラムに出席する代表団の人数は会議の参加者数にもとづいて一定の方式で決める。

四月からは地区会議で選ばれた代表団が地域フォーラムに出る。ポルトアレグレ市が一六の地域に分けられている。毎週あるいは隔週、OPの内容について他の会議からやってくる代表の人たち数十人と協議する。教育・交通などテーマ別に五つのフォーラムも同じように開かれる。ここでもフォーラムに市の担当職員が出席して質問に答え、意見を出す。

最後にこの地域フォーラムで評議員を二人選び、市予算評議会に送りこむ。ここでは地域別・テーマ別フォーラムを代表して出てきた四二人の評議員が隔週に集まり、出された予算案を数か月にわたって整理する。市職員の給与、全市共通の課題など、市政の運営にかかせない支出は別として、それ以外の予算の大きな部分がここで決まる。意思決定の仕方を変更するのも、評議会の仕事だ。このようにOPは、地区会議→地域フォーラム→予算評議会の三段階を経て、各地区の住民の意思を大きく活かすしくみになっている。

土地の有力者など発言力の違いによる差別がないかどうかが問題になるかもしれない。たしかに学歴や性別といった要素ではじめのうちは発言回数に差が見られる。しかし参加者は会議から学ぶようになり、次第にそのような違いが見られなくなるという。バイオッキさんはこのことを 「討論による民主主義の学校」 と呼んでいる。

OPは市民が自分の意思で地域の生活を変え、同時に自分の連帯意識を育てる方法となっているところがすばらしい。素人の市民が政治交渉を始めたことも注目される。「そちらの地域が求める予算を支持するから、こちらの予算案を支持してほしい」 と交渉する。これがうまく機能する。この実験が成功したのは、単なる実験にとどめず、行政のしくみとして制度化したところにあるとバイオッキさんは書いている。  

資本主義経済から連帯経済へ

市民が参加型予算を組み上げるポルトアレグレは世界から注目を集め、○一年から世界社会フォーラムが開かれるようになった。テーマは幅広く、持続可能な発展、基本的人権、メディアと文化、政治と市民、世界秩序の五つが挙げられている。基本にあるのは、いずれも資本主義のグローバル化にどう対抗するかという点だ。

フォーラムで、参加型予算の延長上にある「連帯経済」について講演したマイケル・アルバートさん(Zマガジン編集者)は、近く『連帯経済──資本主義の後にくるもの』という本を出版する。送られて来た原稿から、OPのかなたに見えてくる未来経済の姿をのぞいてみよう。

新しい経済システムである「連帯経済」=「参加型経済」(participatory economy)は平等・連帯・多様性・自立・生態バランスの五つをめざす。

平等については、生産手段を個人で所有せず、社会全体で所有するので、富が特定の個人に集中しない。ビル・ゲイツが世界一になるといったことは、ここでは起こらない。

連帯は会議を通じて生まれる。労働者と消費者が会議で民主的に協議する。それぞれが評議会を開いて、それぞれの問題を協議するだけでなく、互いに会議を通じて意見を交換する。一握りの経営陣がすべてを決める方法は、ここでは問題にならない。

それから労働の多様性。一種類の労働を一人が担うのでなく、労働を複合させて担う。たとえば一人は流れ作業ばかり、一人は事務処理ばかりといった偏った分業はなくなる。

そして自立。これは意思決定を当事者ができることを表す。経営陣や議員たち・行政などに任せるのではなく、自分たちのことは自分たちで決める。その前提となる各人の収入は、労働に応じて決まる。違った質の労働を複合させる考え方だから、労働の質で収入が変わるという考え方はない。

生態バランスも大きな課題だ。資本主義にもとづく生産が地球上の生態バランスを崩し、米のNGO「進歩の再定義」の計算によると、すでに生態系にたいする負荷量が許容限度を超えたという。競争原理に基づく経済がぎりぎりまで来たことを示している。これからは競争原理に代わって連帯原理が追求されることになるだろう。

参加型民主主義が広がる

ポルトアレグレの動きは他の都市に影響を及ぼさずにはいない。同じような制度を取り入れた自治体がブラジル東南部で増えているし、インドのケララ州、南アフリカでも参加型予算が追求されている。一部の「政権担当者」が戦争予算を決めるといった制度は、これからの世界で通用しなくなるだろう。国政のレベルまで評議会形式を充実させ、人々の自治を実現することが連帯経済の狙いだ。一極集中から多極分散への変化が追及される。

来年の世界社会フォーラムはインドで開かれることが決まっている。アジアの各地でも社会フォーラム運動が広まることを期待したい。

[参考文献]
1 Gianpaolo Baiocchi, "The Porto Alegre Experiment",
 http://www.ssc.wisc.edu/~wright/Baiocchi.PDF
2 University of Pittsburgh,"Charting New Perspectives in Democracy"、写真を引用。
 http://www.ucis.pitt.edu/main/intl/Intl2002-PortoAlegre.pdf
3 齋藤ゆかり 「参加型予算」、『週刊金曜日』 第四○六号

Copyright: Tamaki Bessho 2003


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