<要約>
方法:5か国・7地区にある先天異常の記録からデータを採用した。21か所の埋め立て地から 7km 以内に母親が居住している場合について、染色体異常はないが先天異常のある出産、死産、流産の1089例と、正常出産の対照群2366例について調査した。埋め立て地から半径3km 以内を、異常の原因物質に曝されやすい「近接ゾーン」とした。
結果:埋立て地から3km 以内に居住している場合は、先天異常のリスクが有意に高い。(0〜3km 圏では、異常 295 件・正常 511 件、3〜7km 圏では、異常 794 件・正常 1855 件。3キロ圏内と圏外を比べたオッズ比(odds ratio) 1.33 <95%信頼区間:1.11〜1.59> 母親の年齢と社会的経済的地位の影響は補正済み)埋め立て地から離れると、明確にその危険は減少する。
埋め立て地から3km以内の居住でオッズ比増加に有意差があるもの:
| 異常の種類 | オッズ比 |
| 神経鞘欠陥 | 1.86(1.02〜2.79) |
| 心中隔の異常 | 1.49(1.09〜2.04) |
| 大動脈及び静脈の異常 | 1.81(1.02〜3.20) |
オッズ比が、有意判定の限界にあるもの:
| 異常の種類 | オッズ比 |
| 気管食道の異常 | 2.25(0.96〜5.26) |
| 尿道下裂 | 1.96(0.98〜3.92) |
| 腹壁裂 | 3.19(0.95〜10.77) |
埋め立て処分場によるリスクの差は、検出力が弱く認められない。
[注:オッズ比 odds ratio について、この論文では定義が説明されていないが、大きいとリスクが高い。平均値は大きくても、ばらつき(カッコの中の範囲)の大きいものは有意差があるとはいえない。異常/正常の比を 3km 未満のところとそれ以上のところで比較したものが、この場合のオッズ比]
説明: 新生児の先天異常が増えることと、母親が埋め立て地の近くに居住していることとの間に因果関係があるかどうかについては、さらに多くの調査が必要ではあるが、この研究は、有害化学物質の廃棄物埋め立て地周辺で母親が生活すると、産まれてくる子供の先天異常リスクが増大することを示している。異常の種類によるリスクの明らかな違いは、注意深く考察しなければならない。
[注:異常の症状別の詳細データでは、近い方がわずかに減少しているものもある]
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<ランセット(1998年) 352巻 423〜427頁>
[注:「ランセット」は英の著名な医学雑誌。国際的な論文が多い]
<緒言>
埋め立てによる廃棄物処理は、環境問題に関心を抱く糸口になる。埋め立て地の近くに住んでいる人々は、空気や水・土壌中に排出される化学物質に曝されているかもしれない。周辺の大気汚染は、ガスやほこり、ほこりに付着した化学物質等が、特に操業中に場外へ出ていくことによって生じる。地域によっては表流水や地下水が汚染されることもある。これが飲料水源やレジャー用の水を次々と汚染する。空気や水・土壌の化学汚染は、その地域で栽培され消費される食料生産にも影響を与える。このように埋め立て処分場は、その地区の住民や子供たちにとって健康リスクになる。健康に対して潜在的リスクがあれば、埋め立て処分場の設計・設置場所・作業の仕方にも、そのリスク情報を役立てるべきである。
しかし今までのところ、埋め立て処分場の健康リスク・アセスメントをする際に、根拠となるような疫学的証拠はほとんどない。ラブキャナルの有名な汚染事故や、複数の埋め立て処分場に関するアセスメント等とともに、処分場近くに住んでいる女性の妊娠状況がアメリカで研究されてきた。こうした研究のうちには、埋め立て処分場付近に住む母親から生まれた子供に先天異常のリスクが高いことを示したものもあったが、明確なリスク・パターンは示されていなかった。
廃棄物最終処分場に近い市町村では、処分場が潜在的にもつ健康リスクに関心を持ち、その地域で健康被害が「かたまって」出ると、近隣処分場からの化学物質に曝されていることに結びつけて考えるだろう。しかし、地域独特の健康被害症状は、それぞれの土地柄によって起こり方が違うし、また、地域独特の原因から生じる色々な症状を見分けることは難しい。そのために、処分場をあらかじめ詳細に調べておくことも必要である。埋め立て地付近で生活している妊婦達が、その子たちに先天異常を生じさせるに十分なほど化学物質に曝されたかどうかも調べた。この研究は、有害廃棄物埋め立て場付近に住む人達が先天異常のリスクをどれだけ抱えているかについて、ヨーロッパで初めての共同研究である。ここで私たちが結果を発表する研究は、染色体に異常を起こしていない先天異常に関するものである。
<方法> 略
<結果> 中略
6つの地帯の信頼範囲は大きいが、埋め立て地からの距離の増加につれて先天異常のリスクが明確に減少していた。(図参照)
<検討>
私たちは、有害廃棄物埋め立て場から3km 以内に生活する人々の間に、わずかではあるが統計的に有意な、染色体異常ではない先天異常のリスクがあることを示した。私たちの研究は、この問題を統計的に処理することに範囲を限定しているが、先天異常のリスクが処分場によって違うことを示す証拠はなかった。ここで基本的に問題となるのは、観察されたのが因果関係かどうかという点である。私たちの見解では、複数の処分場を疫学的に処理した先行研究の結果は、因果関係ありとする私たちの研究の結論をそれほど強く補強してくれるものではない。
健康問題を場所との結びつきで分析する際に、社会的・経済的地位は最も重要なノイズ要因である。社会的・経済的地位と先天異常のリスクと間にどの程度の結びつきがあるのかは、ほとんど調査されていない。染色体異常を伴わない奇形と社会的な弱者との間にイギリスでは関係があることをこの研究は示唆している。しかし、ヨーロッパの他の場所ではこのような関係はほとんど認められていない。埋め立て処分場の近くには社会的・経済的により恵まれない共同体があるという証拠はなかった。さらに、私たちの統計分析に社会的・経済的地位による補正を入れはしたが、ヨーロッパには社会的・経済的な分類基準がないことから、見込み比に大きな影響はなかった。したがって、社会的・経済的なノイズ要因が埋め立て処分場近くの先天異常のリスクを過大に説明することにはならないと考える。
もう一つノイズ要因として私たちが取り上げていないものは、埋め立て地付近に他の工業施設があったり、環境毒性物質に曝されていたりする場合である。しかし、各種の工業設備付近で先天異常のリスクがどれほどあるのかに関する研究はほとんどない。埋め立て処分場ではなくて工業施設がリスクをもたらしているのだとか、処分場と同等のリスクが工業施設にもあるとかいうことになれば、私たちの研究成果は興味あるものになる。さらに、埋め立て処分場の近くに住んでいる母親たちが、埋め立て処分場や他の工業施設で行われている健康リスクの高い仕事に就いている可能性もある。しかし、居住する女性たちが、出産障害の平均的リスクが上がるのを知りつつ、リスクの高い仕事に就くというのは普通にはあり得ないことだろう。
埋め立て処分場の周辺について確かめて見ようという問題意識があれば、これまでもっと先天異常について十分な報告がされてきたことだろう。しかし従来の記録は、雑多な情報源や活動所見を使ってきた。研究上の仮説について知識がないまま、惰性的にデータを収集して来ただけだ。病院の出産データを調べたところでは、少なくともそのデータの差からだけでは埋め立て処分場付近のリスクが大きくなることは説明できない。
女性たちは、催奇性物質への曝露や妊娠のゆくえを心配して引っ越ししようとするかもしれない。このことは引っ越しによる誤差を招き、真のリスク増加を軽く見ることになる。有害な化学物質への曝露による慢性的効果と違い、奇形生成効果は催奇性物質に曝されて数ヶ月後には判明する。このように引っ越しによる誤差の可能性は限られている。しかし、埋め立て処分場付近に母親が居住する期間が体内に蓄積される化学物質に影響する。居住する期間の影響が大きい可能性がある。妊娠期間中に引っ越しをした母親の割合はごくわずである。しかしイギリスの数字では、25%の母親が妊娠中に引っ越しをし、その50%が1km 以内の所へ引っ越している。このような引っ越しは、妊娠初期の曝露による先天奇形の真の増加リスクを、概略10%は低くしていると私たちは評価している。この研究も含めて数カ所の埋め立て処分場の健康への影響が、注目を浴びている。私たちの知るところでは、この関心は出産障害に特に関係があるわけではなく、これらの健康問題よりも埋め立て地に近い地域の引っ越しにあるようだ。
先天異常は病原学では異質のものである。埋め立て地一般と特定の異常とが結びつくかどうか、あるいは捨てられた特定の化学物質と特定の異常とが結びつくかどうかを調べることは、興味のあることである。しかしどの異常が埋め立て地周辺で起きるか、あるいは、どの異常が特別の化学物質やその混合物で起きるかについてのしっかりした学説はない。さらに、中に含まれる化学物質によって簡単に埋め立て地を分類することは出来ない。なぜなら、それぞれの埋め立て地は数多くの化学物質を含み、捨てられた化学物質に関する情報はたいてい不完全で、その記録の保管に法的規制がないからだ。
埋め立て処分場に近づくとリスクの増大する先天異常の種類は数多いことが私たちの調査で分かった。そのすべてが意味をもつわけではないが(中略)、先天異常のリスクに違いがある理由について明確な説明ができないから、これらの発見は、今後の研究を進めるための仮説として使われることになるだろう。しかし、尿道下裂のリスクが増大しているのは、内分泌攪乱物質が関係する男性生殖異常との関係で特別の興味がある。
埋め立て地が環境に与える有害(ハザード)性は、そこに投棄した化学物質の種類や量によって生じた結果というよりも、地質学や工学・経営実践にもとづく配慮がなかった結果である。私たちは今、リスクの大きさを隠蔽したままで、埋め立て処分場の「潜在的有害性(ハザード・ポテンシャル)」に専門家の合意で順位を付けようとしている。最も高い「潜在的有害性」をもつ処分場が、最も高い先天異常のリスクに対応するような「汚染量対応効果」が先天異常のリスクと処分場付近の居住との因果関係を明らかにする。処分場付近の住民が化学物質にどれだけ曝されているかを直接測ることは因果関係を調べる上で有効だが、その研究はまだ進められていない。
私たちの研究は、対象を有害な産業廃棄物を扱う埋め立て地に限定した。しかし、家庭内の廃棄物を扱う市営の埋め立て処分場は、有害廃棄物処分場として分類されているものと同じように環境上有害でありうる。しかもイギリスでは、共同処理(家庭ごみと産業廃棄物の)が推奨されている。市営の埋め立て処分場や公共の関心の的になっているその他の汚染源に対して、組織的な「環境と健康の監視」が必要だと私たちは思っている。先天異常の記録を利用して監視を行うのが望ましい。人々が化学物質にどの程度曝されているかというアセスメントも含めるべきだし、健康と環境に責任を持つ部署との通常の連絡を密にすることも取り上げる。例えば、非常に残念なことであるが、先天異常が登録されている地域の埋め立て処分場についての情報を、地区の環境課が用意しなかったことで、はじめからの仲間が脱退した。
環境の問題は、協同して得られた情報を基に、政治的な境界を取り払い、共同して政策を実施することが必要である。私たちの研究結果は、埋め立て地の環境と健康の潜在的なリスクについて一層の調査研究と、ヨーロッパにおいて体系的な環境健康の監査機構が必要であることを示している。
<参考文献など> 略