心臓検診の過去・現在・未来

心電図検診の役割

心電図検診の目的は、不整脈の有無のチェックや異常心電図より心疾患の早期発見することである。ほとんどの学童が通う西宮市の公立小学校で学童全員を検査するのでデータベースを形成するができ、付随的に各種疾患の罹患率、無症状の症例の進展を明確にすることも可能である。不幸にも死亡事故にいたった児童のデータ解析のみではなく、成人に達してどこかの医療機関にいったとき、過去のデータとしてきわめて重要になる。

この10年間の不整脈の頻度は、心室性期外収縮(PVC)、ついでWPW症候群、まれに房室ブロック、心房細動である。上室性頻拍症も各学年若干名にみられた(表1)。

心電図異常としては完全右脚ブロック(CRBBB)ついで不完全右脚ブロック(iRBBB)であった。この傾向はS60からH6年までの前の10年間と差はない。平成14年からそれらの診断基準を標準化していたためか、例数が減少していた。

 

心室性期外収縮

過去10年間の検診対PVC児比率は変わらないようである。

PVCの児童に対して、運動負荷心電図によりPVCが減少または消失するかを判定することが推奨されている。また心エコー図も施行することが望ましいとなっているが、必須とはされていない。加えて二次検診も三次検診も医療保険を使って検査をされるためか、PVCを有する児童に対して、施行される検査が一定していないことが多いように思う。これらの児童に対してホルター心電図を施行すると、Lown分類(表2)で3,4度のPVCは珍しくない。

Lown分類は急性心筋梗塞回復期のPVCについての分類であるが、便宜上それをホルター心電図にも応用されている。Lownの分類で結構悪い例が本当に予後が悪いかどうかについて、私はずーと疑問に思っていた。そのような根拠をなんとか検診からだせないだろうか?

PVCを有するため、心エコー図が施行され心筋症であることが判明する例もある。また、PVCの存在が、肥大がまだみられない家族性肥大型心筋症のきっかけである報告もあることからこれらのデータはデジタルにして一括保管がのぞましい。

検診で発見されたこれらPVC例につき、保険診療ではなく特定の地域で自治体または国がお金をだして、一定の検査(ホルター心電図、心エコー図、マスター4重負荷心電図)を施行して、これらの自然歴がどのなのかを検討したいと思う。どこかをモデル地区として10年行えば、それらの検査をすることの妥当性等も明確になるのではないだろうか?

かつて、風邪が流行したとき学校検診でPVCが多かったという報告があった。そのような例すべてに心エコー図を施行でき、ある程度の割合で一過性の左室壁運動低下が証明できれば、そのPVCsubclinicalな心筋炎によるとも考えることができる。

 

WPW症候群

WPW症候群はこの10年間ではPVCに次いで2番目に多い。この傾向は10年前の20周年記念誌の時と同じである。2005年現在では、WPW症候群を有する若い人で頻脈発作があればカテーテル焼却術がすすめられる。その理由は、手技が安定し効果が期待できるようになったことと、成長期や出産する可能性のある時期に何らかの薬を長期に服用する必要がなくなるからである。西宮市で過去10年でも3名が手術またはアブレーションを行っていた。

病院ではWPW症候群に合併した頻脈発作を呈した人が入院して治療される。そのため、病院勤務医はWPW症候群といえば不整脈を合併しているような印象を持つことが多い。しかし、全体のWPW症候群のうち治療を要する不整脈を有する例はどのくらいの割合を占めているのであろうか?

またWPW症候群は加齢により増加するのだろうか?もしくは消失するのであろうか?WPW症候群の頻度が各学年であまりかわっていないことから、学童期にWPW症候群が出現する例は少ないと予測される。検診で検出されたWPW症候群をきわめて長期に経過観察することにより上記の答えがでることが期待される。

 

右脚ブロック

心エコー図がない時代の心房中隔欠損症(ASD)は、2Lから3Lの収縮期雑音、S2の固定性分裂と胸部レントゲンの肺門陰影の腫大で診断されていた。そのようなASDでは、90%位の症例でiRBBBを合併し、5%位にCRBBBを合併していた。しかし、ドプラ心エコー図の出現で、欠損孔の小さいASDでは正常心電図を呈する例も多くみられることがわかってきた。

H14年からiRBBBCRBBBの児童が減少していることは、そのころよりV1R’RRBBBとの診断基準としたことを反映していると考えられた。診断基準、医学用語の定義を明確にすることは統計に意味をもたせるために最も重要なことであり評価したい。

iRBBBを呈する例で、ASDがなく正常心臓であることはどれくらいなのであろうか?私はこの心臓検診に2年間たずさわってきたが、ASDと診断されている例がほとんどないことから、多くは正常心臓である可能性が高い。

検診で「RBBBがあればASDの除外」ということで心エコー図を施行していることは妥当なのだろうか?是非、どこかの地域でカラードプラー心エコーを検診に用いてこのようなデータを出してほしい。とる方向を標準化し、デジタル保管する。そのかわり、心臓検診は一人につき小学6年間で1回のみでいいということにすれば、手間を考えても可能なのではないだろうか?

以下表3に検診により明確になることが期待できることがらを示した。

 

表1

 

H7

H8

H9

H10

H11

H12

H13

H14

H15

H16

WPW

21

22

26

28

30

28

24

26

29

23

PVC

53

65

75

54

59

50

51

56

54

46

CRBBB

31

35

22

16

15

13

24

9

11

11

iRBBB

26

66

29

24

30

23

15

12

12

11

PSVT

3

2

2

3

0

0

3

2

1

0

検診数

39473

38392

37727

37297

37068

37046

36930

35411

37659

38172

 

 

 

 

 

表2:心室性期外収縮に対するLown分類

              grade 1                            <1/min or <30/day

              grade 2                            >1/min or >30/day

              grade 3                            multifocal

              grade 4              a            2連発

              grade 4b            3連発以上

              grade 5                            R on T

 

表3:

散発のPVCは自然に治ることがあるのか

散発のPVC例の予後はいいのか

PVC例のなかにどれくらい心筋症が存在するか

WPWで頻脈発作をおこすのはどのくらいの割合か

WPW症候群は年齢とともに増大するのか

RBBB例におけるASDの割合はどれくらいか